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第四十話 モブAの流儀

※差別的な描写有り

 読む人によっては不快に感じてしまう、激しい嫌悪感を示される場合があります


 結局、先生が何故ドラ息子を殴ったのか、原因は分からず仕舞いだ。


 しかし、ただ単ににムシャクシャして殴ったとは考えにくい。

確かに先生は熱血漢で少々体育会系気質なところはあったが、そんな

理不尽な理由で生徒に手をあげるとは、到底思えなかった。


 でも、先生がいなくなった翌日、ガーゼを頬にはり目の下を真っ赤に

しながらも登校してきた例のドラ息子はいつも通りのお澄まし顔で、

そんな彼の権威にあやかる取り巻き数名と雑談をしているだけだったから

事の経緯は聞けずじまい。学校側も有耶無耶にするというか、


 唯一敏速に取り決めたのは先生の処遇についてだけで、

以降は何を尋ねてものらりくらりとはぐらかされてしまったーー


 そうして最初の方は生徒の間でも様々な憶測が飛び交うものの、

一向に更新されない情報の中で事態は割とすぐに沈静化され、

新たに担任となった女性教諭がかなり面白い人だったというのもあり、

一週間も経てばもう誰も和義先生の事を言及しなくなったー


 そして俺もその一人だった。


 ドラ息子は相変わらず教師に対し横柄な態度で接しており、

もはや口癖とかした『教育委員会に訴えるぞ』はそんな先生にとってしてみれば

本当に笑えない冗談のようでもう手に負えなくなっていた。


 にせよ、いくら彼にムカついたからと言って和義先生の

殴ったという事実に変わりはない。


 大人が子供を殴るなんて、あってはいけない事だからーー


「チッ..」


 だからある日の事、階下の図書室の近くに位置する特別支援学級の

横を体育の授業終わりに通過した際、例のドラ息子が舌を鳴らしたのは、

まさか和義先生の”理不尽な暴力”を思い出しての事ではないだろう。


 理不尽な暴力ーー


「はぁ、嫌な事思い出したわ..。シネーー」


 そうポツリと呟いて、ドラ(息子)は例の学級の壁を力のままに

思い切り蹴っ飛ばした。


「なぁ!? マジであり得なくね?? 少子高齢化で

ただでさえ日本なんて衰退してってるのに、本来俺らみたいな

上級国民にまかなわれるべき税金をこんな”欠陥人間”共に分配するとかさ」


 と、自称上級国民はお得意の”日本破滅論”を嬉々として語った後に、

まだ納めてもいない税金の心配と、彼曰く”欠陥人間”の非難に夢中のようだった。


「第一さ..。コイツらって何で同じ人間ってカテゴライズなんだろうねw

誰かの介助無しじゃ生きていけない欠陥の癖して、涎撒き散らすは

奇声発するは見ているだけで不快になるしもう害虫と大差なくね??

名称変えようぜ名称、『ホモサピエンス』の亜種ってさ、そういう

珍獣の括り。そうすりゃまだ憐憫の情も湧くもんかね。少し手のかかる

愛玩動物的な? ま、ねーだろーけどww」


 理不尽な、暴力ーー


「そういやーさ。前テレビかなんかで特集されてたんだけど、

学校のチョークって殆どそういう奴らが作ってるらしいぜ。

どーりで触っただけで白い粉が付くしばっちいと思ってたけど、

ああそうかって、マジで納得だわーー」


 理不尽な、暴力ーー


 定義が揺らぐ


「○○」


「ん? どーした康太?」


「和義先生が○○の事殴って解職したのって、こーいう事?」


「あ、ああーー」


 口止めでもされていたのだろうか?

上級国民は少し口元に手を当て考える素振りを見せた。


 しかし、少し離れた場所に自分を呼び出したかと思えば直後、

彼は俺の耳元におおよそ予想していた限度を超える悪魔のような囁きをした。


「はは、、まー聞かれてたのは予想がーー」


 理不尽な暴力 


 何かが吹っ切れた。


「こ、康太てめ!!」

「..」


 この世は理不尽な事で溢れている。どんなに屑でも、コイツみたいに

生まれと家柄の良さで権力を行使出来る人間。


 どんなに徳が高くて、優しくて、生徒思いだった先生でも、

屑を一度殴っただけで解職されもう二度と前のような人生を歩めないかもしれない人間。


 だってそうだろう。人生なんて、生まれた時点で全部決まるクソゲーだ。

その時点で平等なんて存在しないなんて分かりきってた事だーー


「康太、、やめて..」


 俺がクズの顔面を殴るたび、彼の顔は変形していった。

鼻の骨はもうとっくに折れていたし、歯も3,4本は折ったと思う。

それに普段碌に運動もしていないそいつの身体は酷く脆弱で簡単に

マウントポジションを取れたから、今になって反撃される事もないだろう。


 最初の方は反抗の意思表示か手足をばたつかせていたが今ではそれもない。

ただ一定のリズムで顔面を殴る手が緩んだ僅かなタイミングで謝罪するだけー

心も完全に折れていたようだったし、今問題なのは、俺の”正当な暴力”を

誰が止めてくれるかという事だった。


 しかしーー俺を止める奴は誰もいなかった。

いつもこのドラ息子に金魚の糞みたいにくっついている連中さえも、

この時はただ呆気に取られた様子で眺めているだけだった。


 故に偶然そこを通りかかった司書さんが俺を引き剥がすまで、

自分は休む事なくクズの顔面を殴り続けていた。


 明確な殺意を持って、あのまま続けていれば本当に殺したかもしれない。

だからあの場で俺を止めてくれた司書さんには未だに感謝している。



「あっはは、この事誰にも言うなよ? 康太」



 なんて妄想を、彼をぶちのめした光景を何度も頭の中で再生した。


 しかし実際の俺がした事といえば、ただその場に立ち気付かれないように

彼をジッと睨みつける事だけだった。


 平等を掲げ、最後まで不平等に抗い続けた先生のような主人公の生き様ではない。


 リスクを恐れ、権力に服従し迎合するだけの、

ゲームの最序盤で出てくるモブAの生き様ーーー


 それが俺で、この先もずっとそういう人生を送っていくんだろうなと、

ただ漠然とした悩み? のようなものに苛まれて、特段不幸ではないのに、

この時から自分の脳のどこか片隅に、自殺という選択肢がこびりついて離れなくなった。


 そして今にして思えば、これが全ての”きっかけ”だった。


 ♢


 残り時間 1分 40秒ーー


 なんて、この土壇場で情けない過去を思い出す自分には、

もう本当にこれ以上生きていく価値なんて無いのかもしれない。


 そんな強迫観念に捉われるのは、もう沼に堕ちていくみたいで

今まではそれを引っ張り上げてくれる人なんていなかった。


 それでも、今は違う。


 残り時間 1分


 正直、俺があの場でヘマした時点でもう詰んでいたんだ。

この家に食用油の備蓄はもうないから、、


 でも、、残り1分ーー


 栄田は全ての記憶を失っても、きっと大丈夫だ。

だって、仮に彼女が全て忘れても、俺が彼女の事を覚えていればそれで良い。


 だって、人生は理不尽で、どうにもならない時なんて沢山あるからーー

それら全てが必然の範囲を超えた偶然で、人間がどうこうするものでもない。

ただ成るようにしかならないんだ。俺はどんな栄田であっても、、


 なんて考えていた次の瞬間、俺の頬に強い衝撃が加わった。


「康太!!!!!」


 と、怒鳴り声


 それに右頬がヒリヒリする。


 俺は反射で上を向いたーー


 すると、そこにいた七瀬は片手に何かを持った状態で、

刺すような視線を自分の方に向けていた。




タイトル変えました

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