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第三十八話 タイムリミット

 俺は先程から自我が崩壊しもはや短母音しか発さなくなってしまった

二人の様子を伺いつつ、先程の七瀬のように、本来自分がすべきであった

餃子の餡を皮に包む作業に戻った。


 小皿の中に入れた水で濡らした指先を皮の両サイドに滑らせながら、

中途半端なサイズのそれを丁寧に閉じていくのだが、、


 この時先端に皺を寄せるように閉じていくのがポイントで、

こうすると内部への火の通りも格段に良くなるし見た目の質もグッと上がる。


 そうやって餃子を3,4個作り終えた所で初めて七瀬が自我を取り戻した。


「あ、私何して、、いや違う、そんな事より康太くん..」


 まるでコチラの心理を見透かすような視線を彼女は俺に向け言った。


「栄田さんが好きなのって、やっぱり本当なの..?」


 今度は目線を前に戻し、手元で皮を包みながら七瀬は尋ねてくる。


「そうだよ。俺は栄田の事が好きだ」


 から返事のように、俺も七瀬の方へは目もくれず手元で餃子を並べながら言った。


「そうなんだ。突然の事すぎて、私、気が動転しちゃったみたい..」

「まぁね。無理もない..」


「..。何か好きになるきっかけはあったの..?」

「あ、あるにはあったかな..」


「ふーん。じゃあ一目惚れって奴かな..? 私もそれ知ってるよ!」

「記憶喪失のくせにか?」


「ふふ..。揶揄わないでよ康太くん!」

「七瀬..」


「え..? どーしたの..?」

「ごめん..。今は作業に集中したいんだ..」


「あ、、そっか..。空気読まなくてごめんね..」


 なんて七瀬は気を落としたのか暗い声を発したが、

何もそこまで気に病まなくても良いのになと俺は思った。


 片手間の会話だとどうしても、

言動がどこかそっけなくなってしまう俺は

昔からマルチタスクという奴がどうも苦手で一つの作業に

没頭しすぎるあたり周囲への気配りや視野が狭窄してしまう。


 何度矯正し治そうとしたが、高校になった今でも続く悪癖ーー


 とはいえ今のは当の七瀬も恐らく、単に社交辞令で話しかけてきた

だけだろうし、ポジショントークをいつまでもダラダラ続けておく

ぐらいなら当然流れは切るべきだったしそんな俺の判断に誤りはない。


 それよりも問題なのは前に座っている栄田の事だ。


 さっきから口をあんぐりと開けた状態の彼女は、まるでそこから

魂が抜けたみたいになっているせいで、呼びかけにも全然応じなかった。


 しかし作業も終盤に差し掛かった辺り、ようやく目を覚ました栄田は、

眠い眼を擦りながら俺の顔をじっと見つめてくる。


 左目だけを、擦りながらーー


 「ん..?」


 そして直後、深いため息のような、疑問符のような、

短い声を漏らした栄田は、更にゴシゴシと左目を擦るその腕の勢いを強くした。


 「あれ、、あれ..?」


「どうした。栄田??」


 「え、、何で、、体温表示が機能しなくなって、、え..?」


 「頭が痛い!! うぅ!! 痛い痛い!!」


 「康太助けて..。頭が割れる..」


「だ、大丈夫か?? バファ○ン飲む?」


 「ち、違うの!!! はぁ、、何これ..??」


「だからどうしたんだよ栄田..? ひとまず手を退けて顔見せてみろって......」

「さっきからどうしたの康太く、、、、え......」


 ♢


 今まで栄田を人間ではないと判別出来ていたのは、

文字通り彼女の目が光っていたからだ。まぁこの時点でさえ遠目に見たら分からず

普通の人と遜色のないレベルではあったものの、、


 「康太、、私の左目、、どうなってる..??」


 本日二度目のくだりーー

そして今度は右ではなく左ときたものだ。そそっかしいのも程々に、、

なんて語っている場合ではないこの状況を上手く整理しきれず、


 部屋のあちこちを行ったり来たりする栄田はもはや、

機械ではなくなっていた。


 「あ、、また頭がーー!!」


 そしてまたも頭痛に喘ぎ、今度は俺の方にヨタヨタとした足取りで近づいてきた。


 「どうしよう..。頭がどうにかなっちゃいそ・・・」


 膝の上で苦しそうに悶えながら、俺に必死で助けを求めようと訴えてくるーー


 そんな時だった..。


 刹那、栄田の表情から全ての感情が抜け落ちかと思えば

次の瞬間にはもう立ち上がり、焦点をど真ん中に据えた彼女の口からは

無機質なトーンで次の説明が淡々となされていった。


 『・・・生命維持に必要なエネルギー残量の著しい低下により、

  この身体は強制スリープモードへ移行しますーー』


 彼女の口から発せられた謎の機械音声


 『再起動の際には一定量の油状物質を臍窩さいかに注いで下さい。

  なお、現在時刻から10分以上が経過した場合、彼女の全データは破棄され

  る為、ご注意下さい・・』


「は、、全データが破棄..だって!?」


 『タイムセット・・残り時間の表示10:00,9:59,9:58・・』


 そうして、全ての説明を終えた彼女はその状態のまま、立って何も言わなくなった。


 ジャなくて、、、


 まずい事になった。


 確かに栄田は愛宕神社に訪れた際も、

エネルギーが持つかなど意味深な台詞を溢してはいたがそれは精々

人間で言うとこのお腹がすいたくらいの感覚なのだと思って気にも留めていなかったが、、


「こんな深刻な話ならもっと先に言えよ!!」


「こ、康太くん..!? 栄田さんどうしたのよ!!」


 そう叫びオロオロする彼女に、俺は怒鳴りつけるようにして言った。


「七瀬!! 台所の下に油が残っていないか確認してくれないか!?

距離的にはお前が一番近いんだ!!」

「うん分かった!! でもどうして油が必要なの!?」


「栄田がなんかまずいんだ!! エネルギー不足で、後10分も経たないうちに

それを摂取しないとあいつに関する全部のデータが消去されるんだ!!」

「えぇ..!? 大変大変急がないと!!」


「お願いだ七瀬!! 種類は何だって良いから!!」

「分かったよ!! とりあえずあるのだけ置いとくね!!」


 ドン


 そうして、彼女が机の上に並べた油は計3本


 右から順に、サラダ油、米油、胡麻油、なのだが、

どれもこれも入っている量が少なすぎるせいで、

正直これだけで足りるのか分からないが事態は一刻を争う。


 妥協なんてしていられるか!!

と、ひとまず俺は手元にあったサラダ油を彼女の口腔から流し込んだ。

3本の中でも一番入っている量が多かったのもあり、一思いにゴクっと、、


 ただ、この時俺は最大の過ちを犯した。


『警告・・口腔からの摂取は不可・・再度連絡・・

再起動の際には一定量の油状物質を”臍窩さいか”に注いで下さい』


「は..?? 臍窩ってどこだよ!!」

「康太くん!! 臍窩はおへその事よ!!」


「あ..」


 彼女の胸元に表示された立体映像ホログラムに表示されるタイマー


 残り時間は7:02、01、00


 その経過を呆然と見尽くしながら、俺は自分がやらかしてしまった事の

重みにここに来て初めて気が付いた。


 というのも、本来へそに注ぐべきだった油を、俺は口に流し込んでしまったのだ。


 その取り返しのつかない愚行に悲観していると、今度は七瀬が声を張り上げた。


「モタモタしないで!! 私が栄田さんのお臍に直接流し込むから、

康太くんは残りの油を2本頂戴!!」

「わ、分かった!!」


 と、七瀬は俺の手から油を貰うまでもなく自分でそれを担いで栄田の元に駆け寄り、

随分と慣れた手つきで彼女の下着を脱がし上半身を露出させた。


「この小さい穴に、、本当に入るのかしら..。でももういいや..。突っ込んじゃえ!」

「ほ、本当にそれで良いの..?」


 しかし七瀬が栄田のへそに指を突っ込むと、完全に閉じていたそれは

直径およそ5cmくらいの円形の穴に変形した。


 正直言ってかなりグロいーーそれでも七瀬は躊躇わずに、

彼女のお腹の中にトクトクと油を注いでいく。


 米油はすぐに空になったから、次は胡麻油だ..。


 そしてやはり七瀬の言う通り腹に注ぐという判断は正解だったらしく、今栄田の

胸の上に表示された残り時間の立体映像ホログラムの横に映し出されたそれには

バッテリー残量のような電池型のメモリが出現ーー


 それは七瀬が油を注ぐのに呼応して、ゲージが上へ上へと伸びていき、

今はちょうど全体の8割方を占めたところである。


 だから、このペースでいけば


「ごめん康太くん..。油もう切らしちゃった..」


 間に合ーーーーーー



 



















 栄田愛華の全データが消去されるまで

 

 残り時間、3分 43秒





  




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