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第二十七話 失望

 「ムニャムニャムニャニャーー

  あれ..。私今の今までずっと何をして..」


「おはよう」


 栄田が目を覚ましたのは、

芝公園にある某プールの近くに差し掛かったタイミングだった。


「お前今の今までずっと寝てたんだぜーー

機械の癖して睡眠取るわ涎垂らすは一体なん..」


 「ん? どーかしたー?」


 気のせいかと思い、俺は二度天を仰ぎ三度瞬きした。

先程背中から降ろしたばかりの栄田の顔を真正面から見据えるも、

その急激な事態の変容を未だに消化しきれない。


「栄田..。目....」


 そう、問題なのは彼女の眼球ーー

サングラスを一時的に外させていたのもあり、

彼女の双眸が顕になっているから気が付いた。


 「目..?? て、、あれ..おかしいな..。

  片方の目だけ、<体温表示>と<人心把握>が効かない..」


 ゴシゴシ、、


 「な、なんで..。機械の私の目からは水なんて出ないのに..。

  故障しちゃったかな..。ねぇ康太、、私の目、どうなってる..?」


「人間..」


 「え..? なんて..?」


「人間と、全く同じ瞳だよ..。前みたいに光ってない。右目だけが..」



 栄田の身に生じた異常


 彼女はアンドロイド、心通わぬ無機質な機械と同族であり、

未来からの来訪者か、はたまた国家機密の現代科学の最先端の位置付けか?

七瀬同様一部の記憶を失っており、その出自、俺の家に至るまでの経歴は不明


 彼女がaiである割に流暢な日本語を話すのは脳内の高度な学習装置により、

自然な会話と発話、抑揚の表層的な”技術”を身につけたからに過ぎないーー


 そのために、これまで数々の異常行動を見せてきた彼女であったが、

ここにきて瞳にある変化の兆しが見え始めたのであった。



「因みにさ..。左目もそういう風に出来るの?」


 「む、無理だよ! 私の瞳が光ってるのはデフォルトで、

  自分で変えようと思ってそう出来る物じゃないの!!

  あ、、でも明るさの強弱なら変えられるわ! 弱・中・強ーー

  それに寒色か暖色..ブルーライトのカットまで..」


「がっつり変えられんじゃねーか」


 と突っ込むと、栄田はテヘッと笑いながら、ペロッと舌を出す


 「でも、、それでも完全に光らなくする事は出来ないの。

  そういうものだから。ねぇ康太! 本当に、私の瞳はどうなっているの!?」


「だからさっきも言ったけど。光ってないんだよどーゆう訳か..」


 「そんな..。治るかなーー」


「別に治んなくても良いんじゃない?

俺はそっちの目の方が好きだよ。かわいーーゴホっゴホゴホ!

な、なんかスッゲーかっこいいし」


 「そうかな..」


「だからそんな気に病むなって。それより七瀬トイレ遅いなー..。

5分前に入ったっきり全然出てこないけど。腹でも下してんのか?」


 「じゃあ下痢じゃない??」


「はは、それは傑作だなぁーーどんなに綺麗な人でも出すものは

ちゃんと出す。小学生の時、クラスのマドンナって呼ばれてた子が

前の席で脱糞してたのを思い出しますわ、、」


 「何思い出してんのよ気色悪いわね!

  ねえ!! でもどうだった!? ちゃんと臭かった!?」


「いや当たり前だろ。美人の便はローズマリーの香りでもすると思った?」


 「ぶっ..。それはないに決まってるでしょ。

  はぁ..。七瀬さんも今頃くっさい糞尿を垂れ流してるに違いないわ!」


「あはは!!

中身と外見は別物ってな! 案外腸内は悪玉菌だらけだったり..。

でもな、、そのギャップが堪らないんだよ! 栄田には分からないかな!?

例えばさ、美人で完全無欠だと思われていたあの子が、実はワキガで..、、

とか、そういうマイナス要素が、寧ろ他との差異化を..」


 とここまで饒舌に語ったお口にチャックを閉じ、ゴホンと咳払い。

今し方自身の陳述した発言を脳内で反芻した所、

かなりお下品な内容である事が判明したからだ。


 幸い唯一それを聞いたのがaiの栄田だから良かったものの、

これで仮に七瀬がその場に居合わせたとしたら、きっと俺の事を

気味悪がって、二度とお近づきになってはくれないだろう。


 でも、男なんて大概こんなものだ。

女性の前では紳士ヅラしていても、いざ彼女たちが退出した瞬間に

下衆な妄想を吐き出すなんてザラにある事なのだ。


 そしてそれは、俺も例外ではない。一塊の思春期男子、

異性に興味津々な故、普段は理性で覆い尽くしているものの、

少し油断しただけで性癖の片鱗が漏れ出るのは許して欲しい。


 とここまで言い訳を書き連ねるだけ書き連ね、

自己を正当化する作業に没頭していたあまり今ようやく気付いたのだが、

目の前の栄田は今、俺ではなく俺の背後にある何か? を見つめているらしく、

表情は曇り、目は笑っていない。そして今度は俺に向け警鐘を

鳴らすように目配せを送り、口の動きはある単語のフレーズを伝えた。


 『う・し・ろ』


 後ろ..??


 意味が分からない。しかし栄田の切羽詰まった表情を見て、

そこしれぬ恐怖が身に迫ってきているような、妙な悪寒を感じたのは言うまでも無い。

そしてこういう悪い予感に限って的中してしまうのが、人生という糞ゲーの定石ーー


 だから恐る恐る、身体を真後ろに向け、そこにいたのは、、


「な、七瀬..」

「......」


 まるで汚いものでも見るかのような、俺の事を蔑んだ七瀬の瞳ー

今まで構築してきた彼女との関係に亀裂の生じる音がパリンとなると同時に、

まだ何とかそれを修復出来ると淡い期待を抱いてしまった俺は、

心の底から精一杯の謝罪をする事を決意。


「ご、ごめーー」

「幻滅した..。康太くんはもっと礼節のある人だと思ってたのに..」


 しかし所詮は淡い期待である。次の瞬間、俺の身体に


 ピシャリーーと、まるで雷に打たれたかのような衝撃が全身を貫いた。


「あ..」


 幻滅ーー


 その一言が、何度も俺の頭を揺さぶった。

しかしそうやってあたふたしている俺を、七瀬は待ってくれはしなかった。





  





大ピンチ!!

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