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第二十二話 気のせい

「七瀬、栄田。今日のお昼、どこか出かけない?」

「私は賛成!」


 「うん私も!」


 ふと、こんな提案をしてみたのは、朝食も食べ終わり

お皿の片付けを済ませたタイミングだった。


 俺と七瀬はリビングの白のカーペットの上に座り、

栄田のみが我が物顔で、ただ一人同色のソファを占有している状態である。

七瀬は膝の上で親指を合わせ人差し指をくるくるさせながら、そして栄田は

人間とほとんど変わらない金色の毛先をコネクリ回しながらーー


 食後の休憩がてら俺への質問にはほぼ生返事かと思いきや、

やはり外出欲求の高まりか、意外にも食い気味に答えてきた。


 「ずっと部屋の中だと退屈しちゃうしね。私もちょうど

  どこかお出かけしたいって考えてたんだ!!」


 溌剌とした栄田の主張に呼応し、七瀬も首を三度縦に振る。


「オッケー じゃあどこに行こうか..。

近場が良い? それとも遠くの..」

「わ、私は近場が良いかなーー

やっぱ、早くここら辺の土地勘を掴みたいし、

そうすれば(土地勘を掴めば)、お使いとかで、康太くんの

負担を少しでも減らせるかなーなんて..」


 なんて献身的。感極まって涙腺が緩む。


「うん..。じゃあ区内のどこかで、、出来るだけ遊べるとこか..」

「そうだね..。でも私は、レジャー施設ってよりかは

the・観光スポットって感じの場所も良いと思うな..」


 「ふーん..。でも康太、ここら周辺にはそういう施設ないし

  観光スポットはあるの?」


「まぁ、あるにはあるよ..。寺も神社もタワーも、、

ちょっと歩けば映画館にも行けるし..」

「東京タワー?」

「あぁそうそう。それもありだけど、、」


 と、

三人で硬い頭を精一杯ひねり何とか行く場所を決めあぐねていた時だった。

一瞬リビングのテレビの下が光ったような気がした。

太陽光の反射というよりももっと局所的な、物体の放つ輝きーー


 俺は赤子のように四つん這いになりながら例の場所に近づく。

膝をカーペットに擦り付けながら、パジャマが若干熱を帯びたタイミングで

ちょうどその物体に手を伸ばし、かろうじて掴む事が出来たそれは


 半径およそ3cm、五円玉ーー

 さっきの謎の光はこいつが放つ金属光沢だったわけだ。


 製造年は令和3年と書かれており表面に青錆も生えていない

それが、何故テレビの下なんかに置かれていたのだろうか?


 しかしそんな疑問を抱く頭の片隅に突如として湧き上がる天啓。

目の前の”それ”はきっかけで、この神がかり的なタイミングも

相まって、これは提案せずにはいられなかった。


「五円..。そう、ご縁だよ..。神社、神社とかどうだ?」

「神社..。あ! 良いかもそれ!」


 「神社....??」


「この近くにさ。愛宕神社っていうわりかし有名な神社があるんだ。

初日の契機付けに参拝とかどうかな?」


 気づけば我を忘れて夢中になって話してる自分がいた。

この状況を一番楽しんでいるのは案外俺なのかもしれない。


「うん!! 私もそれが良い!」


 すると、身を俺の方にグッと近づけた七瀬が

興奮入り混じる豊かな声で反応した。寺社仏閣は地味という印象を

持たれがちなために初手の提案としてはどうなのだろうか? 

という思想もあったから、こうも乗り気でいてくれると俺としては嬉しい。


 「康太、じゃあいつ出かける?」


 また栄田の方は、もう行く気満々に見受けられた。

彼女はさっきまで横に寝そべっていたL字型のソファから身を起こし、

手元にあったリモコンを遠くにどけ、ふわぁと一回大きな欠伸を作る。


 栄田の着ている服は、彼女の所作に合わせて

煽情的な上下運動を繰り返したーーその姿にしばし見惚れていると偶然

目が合ってしまった。気まずさのため、不意に逸らしてしまう。


 「何よ..」

「別にーーあと、いつ出るかって話だけど、

身支度を整え次第すぐに出よう。七瀬はパジャマ着替えて、、栄田は..」


 そこまで豊満な肉付きではないのに謎にエロい

栄田のピッチリの服を見ると、彼女がaiであるゆえ、

着脱は出来ないのではないか? という発想に至ってしまう。


 「あぁ..。そういう事....?

  確かにこんな服着ていちゃ集団の中だと浮くかもね。

  でも大丈夫よ。別に脱げないとかそういうわけじゃないから」

「へ、へぇ....」


 「ジロジロ見ないでよ..」

「ご、ごめんじゃあ服は俺の部屋から適当なもの選んで良いから」

 「でもそれって男物でしょ?」

「ま、まぁそうだけど..」


 すると、栄田は勢いよく背中を後ろに曲げた後、

俺の部屋の中に入って行った。

クローゼットから良い塩梅の服を見繕うためであろう。


 とにかく彼女は消え、リビングには俺と七瀬の二人だけーー


「....神社とか、好きなわけ?」

「ま、まぁね..」

「そっか..。よく行ったりはするの..?」

「ううん..。好きだって事は、行ってたって事なんだろうけど、

どこに行ったかまではまだ..。逆に康太くんはどうなの?

普段から結構そういうところ、行ったりする?」


「行くよ。この前なんか学校帰りに神田明神寄ってさ。

あそこって神社の割にサブカル色強いだろ? それに

アニメの聖地になってたりもするからさーーって、

こんな長々と話しても何の事って話だよな」


「ふーん、じゃあさ、康太くんが今まで行った中でさ。

一番好きな神社ってどこ??」

「うーん..。最近行った中だと

群馬の貫前神社なんかはかなり変わってる神社で

俺は結構好きだな。というのも普通さ、

神社の社殿は階段を上った場所にあるだろ?

でもそこは階段を下った場所にあるんだ。まぁでも..、

どこが一番好きかって聞かれると、、沖縄の波上宮かもしれない..」


「....え」

「だから、、沖縄の波上宮なみのうえぐうだよ。

俺七瀬に前の母さんの話したっけ..」

「ううん」

「そっか..。俺さ、小学生の時に母さんが癌で死んじゃって、、

だから昨日の人は血は繋がってないんだ。で、俺と本当の

血の繋がりのある実の母さんと最後に旅行したのは沖縄で、

その時行った波上宮が、今でも一番好きな神社なんだ..。

中のクオリティだったらもっと良い神社は他に沢山あるんだけど、、

思い出補正って感じかな....」


「それで..、康太くんは一人でいる事が多いの..?」

「ま、まぁね..。今の母さんは仕事柄出張は多いし、

父さんだって海外行ってる..。だから慣れっこだし、

寂しくないかとか心配してくれているんだとしたら、

気遣いは嬉しいけど大丈夫! としか言いようがないなぁ..」


 なんて他愛もない話をしていると、

ずっと七瀬の鼻先を見ていた俺の目は、思わず横を向いてしまった。

高層ビルのガラスの窓越しには、都会のビル群と赤白の東京タワー

そして近場のオフィスビルから颯爽と飛び立つ一匹狼のカラスが見える。


 そしてそんなカラスは次の瞬間急にその身を膨張させたかと思いきや、

青と白のぼやけた空に小さな黒点を残し、やがて背景と同化したのか

はたまた画角から見切れたのかどこにも見当たらなくなってしまった。


 続いて外の風景に見飽きた俺は、換気扇とエアコンがやたらキンキンと

うるさい室内に目線を戻し、茶色と白のリビングを一瞥する。

と、ここまでの一連の動作はほんの数秒にも満たず、これ以上

目の保養になるような風景も確認できなかった自分は、

今度はカーペットの方を向いた。


 すると不思議な現象が生じた。目が床に引っ張られているような感覚が、

突如として襲ってきたのだ。


 まぁ、俯いている以上ただでさえボウリングの球並みの質量を有する

頭が自然と稲穂のように垂れてしまうのは仕方がないとして、

目だけがこうも落ちそうになるのは一体全体どういう理屈なのだろうか?


 しかしそれらを考えるゆとりもなく、刹那俺の目から何かが

床に落ちる感触があった。それは妙に生ぬるくーー


「康太くん..。ティッシュ持ってくるね!」

「え..。どうして??」


 場に相応しくない

奇怪な七瀬のセリフに思わず聞き返す間も無く、彼女は早々に

立ち去りしばらくして、ダイニングにあるティッシュを数枚手に取ってきた。


「私もさ..。ずっと一人は嫌だよ..。

ねぇ..、、康太くんはいつから今みたいな生活続けているの..?」

「小1、2くらいの時は、記憶はもう朧げだけど、

前の母さんが死んで父さんも仕事を休むわけにはいかないから、

多分そんくらいの時期から、留守番は増えたかな。でも、当時は

学校終わりに学童保育で遊ぶ機会も多かったし、休日は父さんも

いるしで、全然一人は辛いとは感じなかったよ」


「そう..」


 半ば自嘲気味に話すことで少し緊張感を和らげたつもりだった。

しかし七瀬は俺の意図とは裏腹に、意を決したような真剣な

眼差しで言った。


「目を瞑って」

「え、なんで..??」

「良いから」

「は、はい..」



「え..。俺の目になんか当たってるんだけど..」

「気のせいだよ」


「あの..。なんか苦しいし暑いんですけど..」

「気のせいだよ」


「じ、じゃあ俺の頭が撫でられているような気がするのは..」

「気のせい..」


「そ、そうですか..」

「うん。全部気のせい。

私がね悲しくて苦しくてどうしようもない時に康太くんがしてくれた事を、

次は康太くんが悲しくて辛くなっちゃった時に恩返しするーーだったり..?」


「何の話だよ..? というか流石にもうそろそろ開けていいか、目」

「ううん..。まだ、もう少しだけこうしてあげる..」


「分かった..」


 目を開けていないせいで、俺が七瀬に何をされているか分からない。

ただ、一定のリズムで耳元に届く調律、頭を撫でられる時の手遣い、

彼女のほんのちょっとした息遣いが妙に生々しく届いてきて、

小恥ずかしい、でも、安心する。


 それにさっきから周辺と芯が熱かった目はたった今七瀬が何かを

通過させたおかげか、元の正常な体温を取り戻し、雑多となった思考は

徐々に整理整頓されていった。


 そして、俺は安らぎの沼にハマっていーー



 バン!!


 しかし次の瞬間ーー


 目を閉じ心を静めていても、耳に伝わるは大音量で扉を開く音。

その音が恐らく服を選び着替えを済ませたであろう栄田による

運動エネルギーが変換されたものであろう事は容易に想像がつく。


「七瀬! 康太! 二人でちちくり合ってる暇があったら

早く準備を進めなさい! 私はもう万全よ!!」


 猛暑日にも関わらず薄手で灰色の上着を着衣、

上から順に黒い紐付きの麦わら帽子、白のトップスと

丈の短いダメージジーンズを組み合わせた栄田が、そこにはいた。



 


 






 










 


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