荷物パンパンのジジイ
なんやかんやで……
〈お転婆馬乗り娘〉と
〈美少年〉と
〈御年80のジジイ〉は
ツェザール公国へ向かう旅へ出ることに。
「ちょっと……お店はどうするのよ?」
「閉店じゃよ?当たり前じゃろう」
「そんなにあっさり。……慣れ親しんだ店、もとい家じゃないの?」
もっともな質問をするメリー。
「……そう……じゃのう……」
(【妻】と長年暮らしたこの家に……1人で居るのものぅ……)
「…………ちょうど良かったんじゃ。そろそろツライと思っておったところじゃて」
「飽きた……って、家ってそーゆーものなの?」
「まあええじゃろ……肉屋は引退じゃ」
メリーとの会話を聞いて少し落ち込むように美少年は俯く。
老体はポンっと美少年の頭を撫でる。
「なーーんも気にせんでええからのう。むしろ助かったわい」
「…………?」
不思議そうな顔でこちらを覗く美少年。
「それじゃあ、この村から西にある〈港町シシレン〉に向かおうかの」
「なんでよ?ツェザールはもっと北でしょ?」
「あそこの魚料理は美味いんじゃ」
「はあ?」
すぐキレるメリー。
「あそこの美味い魚をアトワイズ各地に運んでる大型の馬車が定期的に出るんじゃよ」
「あぁ、それに乗せて貰おうっての?」
「そゆことじゃ。それに乗って王都に次ぐ規模の〈交易都市ポートゼッド〉に行って、そこで国境越える準備をして策を考えるとしようかの」
「わかったわ……ツェザール公国の国境にも近いし、ちょうどいいわね」
「ホッホッホ……決まりじゃのう」
トントンと話を進めていくうちにイズは少しずつ落ち着きを取り戻していったように見えた。
「ワシはジジイじゃからのう、シシレンの魚料理が食べ切れんかったらその時は頼むぞイズ君」
「……ええ!?……いい……ん……ですか?僕……お金……なんて」
「そんなもんワシが全部出すわい、好きなだけ頼んだらええんじゃ。……メリーの分だけは自腹じゃけどのう」
「ーーなんでよ!」
「ホッホッホ!冗談じゃよっ!!ホッホッホ!」
心なしか表情が明るくなったイズ。
「……僕……魚…………初めて……です……」
「おお本当か!美味いぞぅ!好きなもん食べたらええからのう」
「…………っ」
またポンポンと美少年の頭を撫でた。
「ところでメリーや、港町シシレンに行ったことはあるかの?」
「ないわ、なんで?」
「そうか。いやゲートで飛ばしてもらえたら楽じゃったのにな、と思ってな……」
「悪かったわね……」
「ええんじゃええんじゃ、……じゃあ、もうすぐ日が落ちるが早速行くとしようかの」
「歩いて?」
「もちろんじゃ、ここに長いも出来んからのう……それじゃ準備してくるからちょっと待っとれよ」
老体は若い2人を残して旅支度に店の奥へ。そして、ものの数分で帰ってきた。
「待たせたのう」
「早っ……てか、どんだけ荷物あんのよ!」
上半身の厚みの3倍近くある巨大なリュックを背負っている老体を見て驚くメリー。そのリュックは、はち切れんばかりにパンパンに詰まっている。更に大型の巾着を肩に2つ背負っている。ちなみにそれも2つともパンパンだ。
「パンパンじゃないの!何入れてるのよっ」
メリーはツッコミの才能が開花する。
「寝袋とか……調理器具とか……後は水と食料……まあ殆ど〈肉〉じゃな!」
「どんだけ肉屋なのよっ」
「………………ふっ」
イズは2人から不自然に顔を背ける……もしかして笑っているのだろうか。荷物パンパンのジジイの絵面とメリーのツッコミが変なツボに入ったのかも知れない。
「ホッホッホ!じゃあ……行こうかの!」
3人は店を後にして〈港町シシレン〉へ出発した。