したたかさ
要約すると……
イズは【渦】として任務中に規格外の〈バケモノ〉に遭遇、その結果任務を失敗して東聖魔法院に帰還するが処分(処刑)を言い渡され怖くなって逃げて来た。
ということだそうだ。
「こんな子供に……全く、酷い連中だのう」
「……あの……巻き込んで……本当に……ごめん…………なさい」
「ところでイズ君、これからどうするつもりじゃ?逃げる先にアテはあるのかの?」
「ない……です」
「なら一緒に〈ツェザール公国〉に行かんか?」
「……ツェ……ザー……ル?」
「昔に【渦】は隣国ツェザールで〈悪さ〉をしてな、入国を禁じられとるんじゃよ。ワシも既に【渦】に目をつけられたも同然じゃし……どうじゃ?」
「あ、……でも僕なんかが……一緒に……居たら…………迷惑……に……」
後ろめたさを感じているイズはこの好条件をすぐに承諾しない。それならば、老体には老体のやり方がある。
「ワシはもう結構な歳でなぁ、最近身体のあちこちが痛くてのぅ……関節も痛いし……。じゃからツェザールまでの長旅を誰か〈若いもん〉が手伝ってくれるとかなり助かるんじゃがのぅーー……おお、腰……痛たたた……」
チラッ……とイズを見る。(わざとらしく)
「…………ぁ……の……」
美少年は困った顔をする。
「1人で行くとなると辛いのぅ……困ったのぅ……」(後一押しじゃて)
「……あ……のっ!じゃあ……ぼ僕……がーーーー
「よーーしっ!!決まりじゃぁあ!!いやーー助かるのう!!これからよろしくのうイズ君」
イズが言い終わるのを待たず強引に同意を取る。
「ほとんど無理矢理じゃないのっ」
後回しにされていたメリーがボソッとつぶやく。
「メリーよ、お前さんも一緒にどうじゃ?」
「なんで私まで逃げなきゃいけないのよ!」
老体は首を傾げる。
「何言っとるんじゃメリー、お前さんも【渦】に目ぇつけられとるに決まっとるじゃろ?」
「え?………………あ!」
後回しにされ過ぎて他人事になっていたメリーは我に返って自覚した。一応、自分が思う顛末をメリーに語ることにした。
「お主の周りにおる同年代に貴族がおるじゃろ?」
「いるわ!ウジャウジャと!」
「お前さんは目の敵にされとるじゃろ?」
「アタシだってアイツら嫌いよ!」
「だから今回、【渦】に暗殺の依頼されてしまったんじゃよ(おそらく依頼したのはその親じゃな)」
「ホントくだらない連中ばっかりだわ!文句があるなら直接来ればいいのに!気持ち悪い!……でもなんで今さら……?」
「【魔導卿ザビティ・グレンがいなくなったからじゃよ】」
「なんで師匠が……?」
「ザビティ・グレンは……お前さんの嫌う〈貴族〉じゃ……じゃが本人の思想はアトワイズ国の貴族達とは全く違う。彼は爵位や生まれで人を判断しない、純粋に魔法の研鑚、追究に努める者に敬意を持っておる……」
「当たり前じゃない!師匠はあんな気持ち悪い連中とは全然……全っっ然ちがうわ!」
力が入りついつい声が大きくなるメリー。
「そんな彼が【魔導卿】と呼ばれ〈国家最強の魔術師〉であったからこそ、生まれや爵位で不当な扱いを強いる貴族達への抑止力になっておったのじゃよ……彼はしたたかじゃったから、それなりに〈抑止力〉になるべくしてその地位についたんじゃろ」
「…………?」
詳しくは言わないが〈欺いて〉〈譲って〉〈恩を売って〉〈脅して〉〈利用して〉……彼は彼の正義で貴族どもを相手していたんだろう。
かつて、魔導院で図体だけデカくて魔力量の少ないワシをかばって守ってくれた時ように……。
「……で?どうするんじゃ?」
「………………」
思案して黙るメリー。
「たぶん魔導院に戻ったとて必ず次の刺客を差し向けてくるじゃろう……爵位のないお前さんが上級魔導師(白の3本線)であること自体、貴族の面子を潰しておるからのう」
「行くわ……アタシも…………ツェザールへ」
あっさりアトワイズの地に見切りをつけて決心したメリーは……少し複雑そうな顔をしていた。