情けない
【特稀魔法】
通常の元素(火や水、風など)を操る魔法とは違い、特殊な条件や効果、現象を起こす……極めて特異な魔法の総称。術者の〈魔力の性質〉がその魔法の性質と【完全一致】しなければ、発動すらしないとされるが故にそれを扱える者は極々少数……1種類の特稀魔法に対して、大陸内に1人いるかいないかの希少性であり、その特性のため複数を扱うものはいない。
イズは【完全一致】の条件を〈後天的〉に満たした【染み】だ。本人の意思とは関係なく、【渦】に……道具の様に、命を弄ぶように、その体に〈特異な性質の魔力〉を無理矢理に上書きされた。その代償は大きく、【拒絶反応】という形でイズの命を蝕んでいく。
少しずつ……
少しずつ……
だが……確実に。
「ーーイズッッ!!ーー」
老体はイズの両の肩を掴み、その名を口にする。
「それを使ったら……【拒絶反応】が強くなる。と言うたじゃろう!?」
「分かっています。もう発動しました。僕の事はいいのでダンキュリーさんをお願いします」
「……くっ……」(イズ……お前さんは……どうしてそんなに自分の命を軽く……)
状況に余裕のない老体が責めるようにイズに迫るが、イズは真っすぐに老体の目を見て答える。
「ーーお願いします、シュタイナーさん!」
「…………っ」(………ワシは………ワシは……)
逆にイズに迫られる老体はやるせない気持ちで頭の中がぐちゃぐちゃになり、硬直する。
すると、傍らにいるメリーがダンキュリーに手を当てる。
「何これ……一部分にだけ、〈ドス黒い変な形〉の魔力が刺さってる。……イズの言う通り、たぶん既に発動してるわ、魔法耐性なんか無視するような〈異質な魔力〉よ……」
メリーが言うなら間違いないのだろう。
状況を正しく判断しようとメリーが動き、イズがダンキュリーを救うために決断して魔法を使った……大人のワシだけが感情で物を考え立ち止まるばかりとは……なんとも情けない。
情けないのう……。
「……少し離れるんじゃメリー、……イズもじゃ」
老体は2人に注意を促して、ダンキュリーの胸に両手を重ねるように当てる。
「………………」(慎重に……まずは強過ぎないように、弱く……)
《ーードッ!!ーー》
音がなり、ダンキュリーの胸部が跳ねるように飛び上がる。
『………………』
ダンキュリーの反応はない。
「ーーもう一度っ」(次は少しだけ強く……慎重に……慎重にじゃ……)
極めて繊細な魔法の調整に、神経を削る老体の額に嫌な汗が滲む。
《ーードッ!!!ーー》
再び、胸部が大きく跳ねる。
『………………』
……反応はない。
「……も、もう一度」(……もう少し……ほんの少しだけ、強くしてみるか……)
《ーードッ!!!ーー》
再び、胸部が大きく跳ねる。
『………………』
反応がない。
「………………っ」(ダメか……ダメなのか……)
老体がダンキュリーから手を離す。
「ーーもう一度!もう一度お願いしますっ!……もう一度っっ!!ーー」
イズが叫ぶように懇願し、すがるように老体の腕にしがみつく。目に涙を浮かべながら……何度も。
「ーーお願いじますっ!!お願いじますっ!!もう一度っ!!もう一度っ!!シュタイナーざんっーー」
「わかった、もう一度やってみる……イズ、離れるんじゃ……」
「……ぅぅうぐ……」
「ほら、イズ。こっち」
メリーが老体から引き剥がすようにイズを移動させる。
「精神を持っていかれるほど、繊細な魔法の調整作業よ。……集中させてあげて。シュタイナーさん……分かりにくいけど、相当無理してるわ……」
「……ぅぅう……はい……」
老体はもう一度、ダンキュリーの胸に手を当てる。
「……ふぅ……ふぅ……」(まだ強くした方が良いか……?いや、これ以上強くしたら心臓が保たんかも知れん……もう一度、さっきと同じ強さで様子を……)
《ーーガシッ!!ーー》
突然、老体の手首が掴まれるっ!
『ーーひゅぅぅーーーーっっ!!
ーーハァッッ!!……ハァッッ!!……ハァッッ!!……これ以上は……ハァッ……死んじまうよ……ハァッ…………じいさん……』
空気を切るような音を出して息を吹き返したダンキュリーは老体の電気ショックを制止する。
「……ッッ!!全く……心臓が止まるかと思ったわぃ……」
《ーードサッーー》
直後、安心して腰抜かすメリーとイズがヘタり込む音が聞こえた。




