際の闘神
目の前で繰り広げられるダンキュリーと黒豹蛇の激しい攻防……恐ろしい威力の黒尾を用いて変則的に立ち回る黒豹蛇に対して一歩も引かず、上手く避け、いなし、尚防御には徹さず果敢に攻めるダンキュリー。
猛る獣のような猛攻を目に危うさを感じずにはいれない様子で見守る老体とイズとメリー。
「イズ……【良くない】とはどうゆうことじゃ?」
「……昔、【渦】の幹部が隣国の兵士を捕縛して連れてきたことがあったんです。尋問と拷問の末に殺されようとしてて……〈虫の息〉だったはずその兵士と渦の幹部の1人が……
【差し違えたんです……】」
「むぅ……自らを〈生かして捕らえる〉ほど戦闘技術に差があった者(渦の幹部)と死に際に相打ちしたというのか……」
「他の幹部はその兵士の変貌を【際の闘神】と呼んでました。それを発現した者が死を乗り越えると更に強くなるそうです。でも、成功例を見たことがないので眉唾物だと話していました……このままだと……ダンキュリーさんは……」
「……【際の闘神】……」(…………どこかで聞いたことがある響きじゃ、……確か、今は亡きデメタール帝国で〈闘神の祝福〉を受ける戦争孤児の話を何かの文献で……いや……あれは〈おとぎ話〉じゃ……」
「……ただのおとぎ話ではなかったのか……」
呆けるように言葉が零れる老体。
不意にガシッと服を掴まれる衝撃に意識を戻す。
「どっ!ど、どうしよう!このままじゃ……ダンキュリーさんが……ダンキュリーさんが……」
涙を浮かべて訴えるイズ。
「……ふ
っっっっっっざっけんじゃないわよっ!!
アタシの獲物(特級)を横取りして〈勝手に死ぬ〉なんて許さないわよっ!!
もうアッッッッタマ来たっっ!!ーーーー」
突然、大きな声で激昂するメリー。
相当怒っている。……そして、すぐさま魔導杖を構えた。
「【かすめ取ってやるっ】」
声量は控えめだが、聞いたことのない〈低い、がなり声〉をメリーが言い放つ。続いて、ブツブツと唱え始める。
『ーー……雷よ……塵芥も残さず我が敵を貫き穿て……閃光の果て……未曾有の裂け目を顕現せし、神の名を冠する弩…………ーー』
淡々と詠唱するメリーの声色が……背中が……それを取り巻く全てから怒気が伝わってくる。
「……ーー死にさらせぇええっっ!!
【神弓魔法ディルアンク・ガ・トロン】ーーっっ!!!!ーーーー」
メリーの持つ魔導杖の先端が蒼白く輝く。
ーー次の瞬間、
天から一閃の雷撃が黒豹蛇目掛けて落ちてゆく。直撃の瞬間、メリーは左手を黒豹蛇の近くにいるダンキュリーの方向にかざす。
「移動魔法!」
《ーーゴォォォォォオオオオオッッッッ!!ーー》
轟音を響かせ、周囲を光で埋め尽くす雷撃は地面を揺らす。
「……くっーー」
「うっーー」
老体もイズも眩しさで顔を逸らし、目を覆う動作をとる。視界の端に……雷撃の巻き添えにならないようゲートで近くまで移動させられたダンキュリーの影がかろうじて見えた。
「ーーハンッ!ざまぁみろってのよっ!!ーー」
メリーが吠える。そして少しずつ、閃光が和らいで状況が見えてくる。
『ーーギ……ギア……フシャーーァァァァアア……フシャーーァァーー……』
「ーーなっ!!アレ喰らって、まだ生きてるなんてっ!?ーー」
黒豹蛇は身体中に焦げたような跡を残しながらも少し小刻みに震えながら息荒くそこに立っていた。
「ーー嘘、信じられないっーー、アタシ【過剰詠唱】までしたのに……なんで……」
【過剰詠唱】
その魔法に本来必要な魔力とは別に更に魔力を上乗せして効果を底上げする、追加詠唱法。
メリーがそこまでした大魔法に、勝ちを確信したからこそ黒豹蛇の健在に驚きを隠せないでいた。
老体はメリーに近づいて目線を合わせて、視線を促した。
「いや、良く見るんじゃメリー……」
「……え?」
よく見ると、
黒豹蛇の〈黒尾〉が根元から完全に消滅している。
「……尻尾で防いだっていうの?」
「いや、見るのはそこじゃない。……本来なら、あの高密度の雷撃を喰らったら【特級】とて身体ごと消滅しとる。尻尾を犠牲にしたくらいで防げるものではない……」
「じゃあなんで?……」
「メリー……ショックなのは分かるが……
奴の近くの〈魔力の残滓〉を良く見てみい、お前さんなら特定出来るじゃろう」
メリーはグッと気を取り直して黒豹蛇を凝視する。
「…………あれは……
【多段結界】の魔力!直撃の瞬間に〈誰か〉が貼って威力を殺した?……」
「メリー……お前さんの【多段結界】をまんまと真似されたんじゃ……」
「……一体誰が………………あっ」
疑問を口にするや否や、自分で気づいてお互いに顔を見合わせる。
「ああ、もう一体の【特級モンスター】じゃ……」




