コラ!
「これからのことって……何よ」
「メリーや、お前さんは後じゃ」
メリーからイズに視線を向けて、腰を下ろす。
「イズ君や、話を聞くつもりが邪魔(短剣の男)が入ったせいで遅れてすまんかったの」
「………………」
震えて物が言えない様子のイズは、とある一点を見つめている。
「これが気になるのか?これは特注で作ってもらった〈肉叩き〉での、通常の物よりヘッドを大きくしてもらったんじゃ。ワシは一際大きい獲物も取り扱う肉屋じゃからのう……重いがこの特注サイズの方が効率良く仕事出来るんじゃ」
本来、金属性の肉叩きの持ち手の先に付いてる四角い箱型の重りは大きくても成人のこぶし大ほどだが特注のそれは人の頭2個分ものの大きさになっていて、およそ(一般人が)片手で扱える代物ではない。肉の繊維を潰して柔らかくするために重りの両端がギザギザになっているがサイズ感のせいかより鋭く尖っているように見えなくもない。
もはやちょっとした武器だ。
「もはや、武器ね」
メリーがボソッとつぶやく。
……全くの同意見だ。
「…………あ、あの……ごめんなさい……ぼ僕の……せいで……」
肉叩きの説明で少し間を置いたことで落ち着きを取り戻しつつあるのか、動揺が残りつつも華奢な声で言葉を絞り出すイズ。
「ホッホッホ!何も気にすることはない、ワシはコイツが気に入らんかったからブチのめしただけじゃ。それに皆を殺すと言っておったから正当な防衛だと思うがの」
横たわる短剣の男を指差して暴力の正当性を冗談混じりに示した。
「ち……違……う……そう……じゃ……なくて【アイツら】は……きっと……また襲って……来る……から……」
また身体を震わせながら話し出すイズ。罪悪感を感じているようだ。
「うむ、そうじゃのう……次は〈もっと強い〉のが来るかも知れんのう」
「…………」
「ちょっと!この灰色ローブが何処の誰か!アンタ知ってるの!?」
まるで見当が付いてるかのように話すワシの言葉にイズではなくメリーが反応した。
「コイツらは……【渦】、東聖魔法院の裏の顔じゃよ」
「ーークッ!!東聖魔法院って国に認められてる公安組織じゃないっ」
「そうじゃ。国やその民のために組織された魔法のエキスパート集団は裏で殺しの依頼も請け負う……今や貴族やその権力の傀儡に成り下がっておるのじゃ」
「腐ってるわ!ホント腐ってる!」
見る見る怒りをあらわにするメリー。
イズはまた萎縮する。
「ーーってかアンタ何でそんなこと知ってんのよっっ!!」
「これこれメリー!お前さんは後じゃ!後!順番じゃ!ええの!?」
「ーーくっ!」
元々顔が怖い分、凄みを加えて言うとメリーでさえ大人しくなった。
「すまんのぅイズ君、待たせてしまって。ワシに聞かせてくれんかの?ここに来るまでの経緯を」
「……あ……あの」
「さっさと言いなさいよっ」
メリーが横槍を入れる。
「ーーコラっ!メリー!」
今度は肉叩きを振り上げる仕草で睨みつけた。
「ーーわ、分かったわよ!……もぅ!」
さすがに冗談抜きで怖がるメリー。
気を取り直してイズに視線を戻す。
「ゆっくりでええんじゃよ?なんならお茶でも淹れてこようかの。温かいやつがええの、ちょっと待っとれよ……どっこいしょ、っと……」
老体は立ち上がって居間に向かう。その途中、不貞腐れているメリーに「いじめるなよ?」と言わんばかりの目配せを無言でした。
「わ……分かってるわよっ」
察したメリーはめちゃくちゃ小さい声で了解した。
その後、お茶をご馳走したイズはようやくここまでの経緯を少しずつ話してくれた。