表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/65

【昔の夢】





 【シシレンに着いて受付で一悶着あったあと、とても綺麗で良い部屋に案内されたアタシは、慣れない旅で疲れていたのか、ベッドに少し横になるだけのつもりが眠ってしまった】



 アタシは昔の夢を見た。



 場面は……魔導院アカデミー)の第4魔術講習室。だだっ広い空間の端っこの席でアタシは1人、座っていた。もう授業が始まってもおかしくない時間なのに生徒はおろか、先生すら入ってこない。すぐに悟った……〈間違った場所〉を伝えられたのだ、と。

 入学時から計測器がはち切れんばかりの魔力量を周知にさらしてしまったアタシは【平民】というのも相まって、周りの生徒(主に貴族)から嫌がらせを受けるようになった。そして、今に至っては先生からも嫌がらせを受けていることが証明された。何故なら第4魔術講習室(ここで次の授業があるとアタシに教えてくれたのは他でもなく先生だからだ。


 いい歳した大人が…………、恥ずかしくないのだろうか……。



「……はぁ……本当にくだらない……」



 呆れを通り越して、しばらくポツンと1人で佇んでいた。



《ーーガラガラッ……ーー》



『あれ?誰もいない……魔導院(アカデミー)なんて何十年ぶりだろうか……迷ってしまった………』

「…………あ」

『…………おや?』



 突如入ってきた男性の老人と目が合う。



『やあ、お嬢さん。生徒さんかい?』

「……まあ、そうですけど」



 無愛想なアタシの態度に物怖じせず老人は近づいてくる。



「ここで1人で何をしているんです?」

「……授業を受けようと……しただけです……」

「……うん?」



 不可解そうな顔をする老人に詳細を話した。



「……なるほど」

「アンタは何しにここへ?新しい先生とか?」

「私はここの卒業生でね、今日は貴族の知り合いの頼みで特別講習を生徒達にしてやってくれないかと頼まれたのだけれど……迷ってしまってね」

「そうなんだ」

「正直言うと……面倒なんで帰りたいですね」

「は?」



 およそ年配の大人が言わなそうな言葉を使う老人に抜けた反応をしてしまった。そんなアタシを見て老人は言葉を続ける。



「見栄や人脈を誇示したいだけのくだらない貴族の茶番に巻き込まれるのにウンザリしていたところです、良かったら時間を潰すのに付き合ってください。名前は何ていうんです?お嬢さん」

「変わってるのね……アンタ。



 アタシはメリー……

 

 〈メリー・ザルクレア〉よ」



 老人は隣の席に座ってニッコリ微笑んだ。



「宜しく。メリー・ザルクレア。良かったら受けるはずだった授業の内容を私が教えようか?」

「いいの?」

「ああ、いいとも」

「今、四大属性の応用と術式が終わったところなんだけど……」

「じゃあ、その派生と複合理論からですね……ーー」





 おおらかで物腰の柔らかい話し方で……丁寧に、しかも分かりやすく教えてくれる老人に少しずつ警戒が薄れていく。なんの雑念もなく魔法の事をしっかり学べるまたとない経験に興奮すら覚えた。そして、あっという間に授業の終わりを告げる呼び鈴が鳴り響く。



「おや?もうこんな時間ですか……」



 老人はゆっくり席を立つ。椅子を引くその音と振動がこの素敵で充実した時間の終わりをアタシに肌で感じさせる。



「……え?ヤダ、そんな……だってまだ……」(教えて欲しいことがたくさんあるのに……)


 アタシはタダこねる子供のような顔で言葉を洩らす。気付くと老人の服の裾を掴んでいた。



「……あ、ごめん……なさい」



 ふと、自分のしたことに気づいて手を離す。



「メリーは魔法が好きかい?」



 ふと質問される。

 



「…………………………嫌い」



 嘘をついた。

 本当は……好きだ。


 魔法を使える自分が好き。


 魔法で近所のおばちゃんのお手伝いをして感謝される自分が好き。


 新しい魔法を使えるように夜中まで練習して頑張った自分が好き。


【自分が好き】だと思える瞬間にはいつだって魔法が側にあった。



 アタシはアタシが大好きだと思える【魔法】で人の役に立って、いつでも【大切な人】を守れる自分でありたいと願って魔導院(アカデミー)に入学した。



 なのに魔法を学ぶほど、使うほどに周りから疎まれ、憎まれ、はじき者にされる。



 魔法を使うと、平民のくせに生意気だと下に見てくる貴族が嫌い。


 魔法を学ぶと、アタシの質問にだけ見て見ぬふりで無視する先生が嫌い。


 みんな……、魔導院(アカデミー)のみんなが大嫌い。





  いつしか、【嫌い】の側に【魔法】がついて来るようなった。





「…………そうか」



 老人はポツリと相づちを打った。


 アタシは言葉を続けた。



「……でも……」


「……でも…………ね……」





「【嫌いに……なりたくない……】」



 気づくと視界がボケける程の大粒の涙目がボロボロと零れていた。



「……こんな、アタシ…………好きじゃ……ない……」

「そうか……」



 震える声で絞るように零した言葉に優しく相づちを打つ老人はアタシの頭をそっと撫でた。



「【あい、わかった】」



 老人がそう言って、アタシは頭を撫でられる感覚が無くなったと同時に頭を上げると……




 そこには、もう老人の姿は居なくなっていた。









 ……後日。



 周りの生徒の噂で聞いた話だが、私への嫌がらせをしていた先生が退職したらしい。なんでも、教職者として【あるまじき行い】を追及されたのだ、とか……。そもそも素行に問題のある人だとの噂を聞いたこともあるし、色々バレたのだろうとその時は思っていた。


 それから、変化が起きた。

 いつものように先生や生徒から冷たい視線やら、悪口は続いていたけど……表立って実害のある嫌がらせはパッタリと無くなっていた。知らぬ間に姿を見なくなっていた貴族の生徒も何人かいたようにも思う。



 私は、ようやく魔導院(アカデミー)の生徒として人並みに魔法を学ぶことの出来る環境を手に入れた。








 ちなみに、あの時の老人が



 この(アトワイズ)最強の魔導師……



 【魔導卿(まどうきょう)ザビティ・グレン】だと、知ったのはもう少し後のことだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ