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国宝





『……ハァ…………ハァ……くっ……ホント馬鹿……みたいな体力してんな……〈おっさん〉……』

『……なんだ?もう終わりか、〈クソガキ〉』



 少し遠目に見ても、加勢は不要だと分かる。



「さすがじゃのう、ダンキュリーさん」

「ん?ああ、まあな。…………てか、ジイさん、丸腰であの速い騎士をやっちまったのか?」

「まあのう。〈速かった〉けど、〈速くなかった〉わい、ホッホッホ」

「なんだそりゃ……」



 近くに行って声をかける老体。会話の雰囲気を見て、少し距離を取って見ていたイズとメリーも駆け寄ってくる。



「はっ!上級騎士と言ってもこんなもんなのねっ!」

「あの……だ、大丈夫ですか?……あ!2人とも怪我が……」



 事が終わって急に粋がるメリーと傷を案ずるイズ。



『ーーオイっ!!俺はまだ負けてないぞっ!お前ら!終わったみたいな空気出してんじゃねぇ!!ーー』



 4人の雰囲気に怒るベルフリーデン。全員がそちらに視線を奪われる中、シンプルな疑問を抱く老体。



「この金髪君はどうしてここまで疲弊しとるんじゃ?大きくダメージを負ってるようには見えんがのう……」

「アタシはアンタの方しか見てなかったら知らないわ!」



 わざわざ無意味な返答を元気良くハキハキとするメリー。



「大して【何も】してねぇよ。こいつが勝手にこうなっただけだ」



 煽る目的なのか、聞こえるように要領を得ず回答するダンキュリー。



「あ、あの…僕、見てました!……凄かった……ですよ……!騎士の人の猛攻撃を全部……防いでいました。 その内、騎士の人がムキになって……もっともっとたくさん激しく攻撃してきたんですけど、それもダンキュリーさんが全部完璧に防ぎ切ったんです!〈凄いです〉!」



 ダンキュリーの代わりにイズが熱のある説明をしてくれた。いかに〈凄い〉かが伝わった。



「なるほどのう、だからあんなに疲弊しておったのか……」

「言っただろ?【何もしてねぇ】ってよ」



 ……確かに【攻撃】はしてなかった。フィジカルの強すぎるダンキュリーにしか出来ない芸当。一体どこにそんな体力が残っていたのかと静かに驚く老体とベルフリーデン。





『はぁっ……もういいわ、お前ら……、【コレ】使う気はなかったけど……』



 ベルフリーデンがブツブツと大きな独り言を漏らしながらゆっくり立ち上がる。



「あん?なんだ、まだやんのか?やめとけ、どうせ無駄だ」

「馬鹿にするなよ、おっさん!【コレ】を見ても同じことが言えるかっっ!?」



 ベルフリーデンは右手で持つ大剣の腹に左の掌を当てる。すると、その剣身に薄っすら赤い彫刻文字の羅列が浮かびあがって輝く。



「この国宝【灼砲剣(イグニス)】の真価を解放してこそ【蒼炎騎士ベルフリーデン】の本領だってことを思い知らせてやるよっ!」



 ベルフリーデンは構える。それに反応してダンキュリーを身構える。



「ーー丸焦げにしてやるよっ!おっさんっ!」

「あん?上等だよ!クソガキっ!」



 両方、距離を詰め仕掛ける。



【『ーー待ってっっ!!ーー』】



 不意にメリーの声が2人を止める。



「………………」



 真剣な顔して黙るメリー。



「……メリー。もし君の頼みなら見逃してあげてもいいんだけど、この男だけは……ーー」

「ーーちょっと、黙ってっ!!ーー」



 〈本気を出した自分に白旗をあげた〉と勘違いしたベルフリーデンはメリーに条件を提示するが……【黙って】と言われ、思わず沈黙する。



「………………っ!」



 メリーはハッとした顔で老体に視線を送る。



「…………ふむ、来るのう……【何か】」



 老体もメリー同様に何かを感じとる。それが分からない上に一連のやり取りで粗野にされ不愉快に感じるベルフリーデン。



「なんなの?それ。下手な時間稼ぎはやめてさぁ……さっさと……ーー」



《ーーーーザッ……バァァァ……ーー》



 一同が音のする方へ視線を奪われる。すると、波打ち際の深いところから段々と【何か】が出て、こっちへ向かってくる。



「なっ!……なんだあれ!?なんだよ、あの色。それに……デ、デカい……」



 それを見て言葉を零すベルフリーデン。

 海から出てきたのは【黒いアクアリザード】。……だが、その体躯は他の比ではないほどの巨大で、モンスターの頭部はダンキュリーやベルフリーデンの背丈の2倍近く高いところにあって、鱗を纏う筋肉質な大きな体と特徴的な【太くて長い黒い尾】は図り知れぬ力強さを感じさせる。



《……ズン……ズン……ズン……》



 呆気に取られる間に少しずつこちらに迫る。言いしれぬ強者の圧が一同に降りかかってくる。……イズが怖がって老体の後ろにしがみつく。



「あ、あれ……なんですか?い、嫌な感じがします……」

「おお、大丈夫……大丈夫じゃよイズ。ふむ……見たところ、あれは街で見たアクアリザードの【突然変異種】じゃの……」



 イズに続いてメリーも不安がって老体の横に来て服を掴もうとする。



 が……。





《ーーぐにっ!ーー》



「ーーあいたっ!!コレ!メリー!腹の肉を掴むでない、痛いじゃろうて!ーー」

「あ、ごめ!って、こんなピチピチの着てるから服が掴みにくいじゃないっ!もう!」



 ……一度は反射で謝っていたのに、なんという逆切れ。

 気を取り直して、しっかりと老体の服を掴む。



「で、なんなの?あれ」

「アクアリザードの突然変異種……





 【黒豹蛇(ダハーク)】という個体で





〈地上の竜〉と呼ばれとる



【特級モンスター】じゃ」



 


 



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