大丈夫じゃろうて
「ーーち、違っ!あ、あの女がっ!!……ーー」
騎士(クソ貴族)は顔を真っ赤にして否定しようと声を荒げるが、周囲からくる非難の多さに言葉が出てこない。
『ーー何の騒ぎだっ!!ーー』
声が響く。
老体とダンキュリーを囲む人々をかき分けて声の主が姿を現す。
王都騎士の格好をした声の主は老体とダンキュリーを一瞬見た後に、その周囲を眼光鋭く確認する。そこで騎士(クソ貴族)に視点を留めて、グリーブ(具足)を鳴らしながら歩みを進める。
「どうゆうことだっ!?説明しろっ!!」
「ーーた、隊長っ!……ち、違うんですよ、オレは悪くなくてですね……あの……」
『……いや、お前しか悪くねぇだろ……』
ボソッと野次が飛ぶ。
隊長と呼ばれた騎士は大きくため息をつきながらあきれた顔をする。
「もういい……。沿岸にモンスターの動きがあると報告があった、さっさの準備して現場に行けっ!」
「ーーは、はいぃぃ!!ーー」
騎士(クソ貴族)は事を有耶無耶する機会を得て素早くその場を去っていった。
「ーー騒ぎは終わりだ!お前達もさっさと散れっっ!!ーー」
隊長騎士の怒号が集まった人々にも轟く。程なくして、皆それぞれにその場を去りはじめた。それに続いて隊長騎士もその場を去ろうとする。途中、隊長騎士は老体とダンキュリーを横目に少し歩みを遅くした。
「ーーフンッ!!ーー」
見下したように鼻を鳴らして、また目線を歩みの先へ戻して、その場を後にした。
「……感じの悪ぃ野郎だな」
「そうじゃのう……」
ダンキュリーと軽い愚痴を零す。最中、疎らに去っていく人々の中からこちらに向かってくる人影が……。
「ーー何してんのよっ!!」
メリーだった。
「なんじゃ?起きたんか。もう全部終わったわい」
「終わったわい、じゃないわよっ!!なんで起こさないのよっ!!居ないからビックリしたじゃないっ!!バカっ!!」
「すぐ戻るつもりじゃったんじゃ……すまんて……」
メリーの圧にたじろく老体は目線を逸らす。その視界にもう1つこちらに向かってくる人影を確認する。
「お、おじいさん……大丈夫ですか?あ、ダンキュリーさんっ……こ、こんにちは……」
メリーより少し遅れて小走りで向かってくるのはイズだった。来るやいなや、ダンキュリーとの再会にとっても良い笑顔を見せる。
「おうイズ、早い再会だったな」
「はい!あの……それで……」
少し表情が曇るイズ。
「おじいさんと……ケンカしたんですか?」
「ああ、これはな……」
ダンキュリーはメリーにも聞こえるようにイズに説明する。しばらく黙って話を聞くメリーは説明が終わるとすぐさま口を開く。
「ーーバッカじゃないっ!?分かってたなら闘わなくて良かったじゃないっ!!ーー」
まあ……正論過ぎて何も言えず……老体もダンキュリーも黙っていた。ふと、少し距離を取って話かけるタイミングが分からないでいる受付嬢の視線に気付く老体。
「おおーーい!こっちおいでー」
右手で招く素振りをして受付嬢を呼ぶ。メリーやイズ、ダンキュリーがいる手前、少しよそよそしく老体にかけよる受付嬢。
「お嬢さん、もうこれで大丈夫じゃろうて」
「はい、ありがとうございます」
「そうじゃ……買ったやつ、預かってくれてありがとうのう、貰うぞい」
「あ、いえ。どうぞ」
受付嬢に預けていた荷物を受け取った。
「あと、沿岸にモンスターの動きがどうのとか言っとったから早々に宿に戻った方がええのう」
「そうですね、おじ様も一緒に……」
「ワシも後ですぐ宿に戻るつもりじゃ、先に戻
っておいてくれるかの?」
「わかりました。……あ、あのおじ様……」
「ん?どうしたんじゃ?」
モジモジする受付嬢。
「また後でデートの続き……してくださいね?」
受付嬢は老体の返事を待たず、言い捨てるように足早にその場を後にした。直後、メリーから凄い視線を感じる……。
「ーーはぁっ!?デートしてたの?」
圧が強い。
まるで悪いことをしてたような気分になる。
「中央市場の広場に行く途中、街を案内して貰ってただけじゃよ……」
「ほぉん……?んで【ソレ】。何買ったのよ?」




