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代理決闘2





 間合いを詰める双方が衝突する瞬間……老体の顎を狙うダンキュリーの右ストレートをひらりと交わし、ガラ空きになったダンキュリーの腹部に重たいボディブローを見舞う老体。



《ーードゴォっ!!ーー》



「ーーぐっ!ーー」



 鈍い音とともにダンキュリーは声を上げ、衝撃で靴の底を地面に擦らせながら少し後退する。



「堅いのう……拳がピリピリするわい」

「やっぱ只者じゃねぇなジイさん……」



 ダンキュリーはニヤリとしてまた構え、老体も同じく構える。その様子に周囲の通行人が気付き、ざわめき始める。



『なんだ?ケンカか?』

『おい、なんか闘ってるぞ?』

『……スラッシュグリズリーだ!……あ、いやバカでかいジイさんか……』

『2人とも良い筋肉(からだ)してやがる!』

『あれ肉屋のシュタイナーさんじゃないのか?おーい、頑張れー』

『何?決闘やってんのー?』

『やれやれー』



 瞬く間に人がぞろぞろと集まってきて、充分な間隔をあけて2人を囲み、ちょっとしたお祭り状態になる。



「おじ様ーー!頑張ってくださーい!」



 周りの雰囲気に乗せられるように受付嬢からも声援が届く。 



「なんだなんだぁ?やけに人が集まって、やりにくいったらねぇな」



 愚痴をこぼすダンキュリー。



「決闘なんて見せ物みたいなもんじゃ……まあ、負けた時の言い訳にしてもええがのぅ、ホッホッホ……」



 挑発する老体。



「ハッ!ぬかせ!」



 まんまと乗るダンキュリー。



 再び、間合いを詰めるダンキュリーは渾身の拳を老体に当てに行くが……当たらない。寸でのところで交わす老体の体捌きに、ブンッ!ブンッ!と拳が空を切る音がなる。



『すげぇ!あのジイさん。バカでかい図体(なり)で良い動きしてやがる!』

『ジイさん相手に一発も当たってねぇぞ?筋肉ダルマッ!!手ぇ抜いてんのかーー!?』



 野次が耳に入る。



「チッ!好き勝手言いやがって!クソが!」

「……気が散っとるのう……っほれ!空いとるぞ?」



《ーードゴッォ!!ーー》



「ーーくっ!!ーー」



 カウンターで再び腹に一撃をもらうダンキュリー。大したダメージはないが少し間合いを取って構え、様子を見る。



「ハァ……ハァ……この国の年寄りはどいつもこいつも……」

「おや?他にワシみたいな【年寄り】にでもうたことがあるんかのう?」

「……まあな……、もしかしてこの国のジジイは全部強いのか?」

「んなわけあるかいっ」



 軽口を叩くダンキュリーに今度は老体から仕掛ける。間合いを詰め、無数の打撃を繰り出す。ダンキュリーは打撃を躱せずともしっかりガードする。まだまだ様子見といわんばかりの攻防の最中、老体から話を続ける。



「……まあ実際、お前さんはまだ加減してくれとるじゃろ?本気でワシを殺しにかかれば、また話は変わってくるわい。剣なり魔法なりを使えば、ワシなんぞひとたまりもないわい」

「へぇ……そう思う根拠でもあるのか?ジイさん」

「お前さん、【万全】ではないじゃろ?上手いこと隠しとるが……色々と痛めとるのか、庇うような所作があるのう」

「【万全】か……あの【ヒゲ野郎】と同じようなこと言いやがる」

「はて、誰のことかの?」

「なんでもねぇよ……今度はこっちから行くぞジイさん!」



 急に雰囲気が変わったダンキュリーは老体の打撃をいくつか喰らいながらガードを解く。直後、老体の動きを見切って両手首をガシッと掴む。



「さぁ、オレの番だジイさん」

「むむっ!」



 お互い手を封じられた状態からダンキュリーは老体の顔面目掛け頭突きを繰り出す。それに合わせるように老体もとっさに頭突きで返す。



《ーーッッゴン!!!!ーーー》



「ーーがっ!!痛ってぇええ!!ーー」



 激痛に声を上げたのはダンキュリーだった。老体も多少の痛みに顔を一瞬曇らせるがすぐに表情を戻す。痛みで仰け反るダンキュリーを軽やかな回し蹴りで追撃し、吹っ飛ばす。尻もちも着くダンキュリーは顔の下部分を手を覆って痛みに悶える。



「ーークッソ!ズラされた!」



 双方の頭突きが当たる刹那、老体は意図的に位置をずらした。結果、ダンキュリーは老体の堅い額を自身の人中(鼻と唇の間の溝部分)で迎え打つ形で押し負けた。



「ホッホッホ……!そろそろ、ええかのう。若いもんとぶつかりあって楽しかったわい……、実はこの決闘はのう……」



 まだ、痛みに顔を歪ませるダンキュリーに老体は今回決闘に至るまでの経緯を詳しく伝える。





「…………ということなんじゃ」

「痛てて…………まあ、そんなこったろうとは思ってはいたぜ。あの嬢ちゃん(受付嬢)がジイさんを見る目は嫌がってるようには見えなかった……てゆーか、普通にジイさんを応援してたしな」

「そうゆうことじゃ」

「殴られ損じゃねぇか」

「ホッホッホ……お前さんもヤル気マンマンじゃったじゃろ」

「まあな」



 老体は会話しながらダンキュリーに手を差し伸べグッと引っ張り立ち上がらせる。



『ーーおいっ!!何やってんだよっ!!さっさとそのジジイをボコボコにしろよっ!!何の為に金払ったと思ってんだよボケぇえええっ!!』



 しびれを切らした騎士(クソ貴族)がダンキュリーに罵声を浴びせる。直後ダンキュリーは……それはもう恐い顔で騎士(クソ貴族)を睨みつける。



「ーーテメェっっ!!話が違うじゃねぇかゴラァッッ!!ーー」

「ひぃいいいいーー」



 騎士(クソ貴族)はダンキュリーの怒号とあまりの剣幕に体を縮こませる。



「ーーテメェにしつこく迫られて困った宿屋の女をジイさんが助けに入ったって話じゃねぇかっっ!!何が婚約者だ!嘘つきやがってっ!!ーー」



 事の経緯を端的に、しかも大声で話すダンキュリー。それに反応するように受付嬢は力強く首を縦に振る。何度も。



『え?あの騎士が宿屋の受付嬢に迫った、って?』

『相手にされてないのしつこく……?ってこと?』

『え、気持ち悪い……』

『何が〈騎士〉だよ、市民に迷惑かけてるだけじゃねぇか……』

『……しかも、自分では闘わずに〈代理〉を用意して……男らしくない……』

『さっさと王都に帰れよ……』



 集まった人達が騎士(クソ貴族)へ非難でざわつき出す。





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