代理決闘
【代理決闘】
当事者同士ではなく、決闘代理人を起用して勝敗を競う決闘。貴族同士の意地や名誉、利権、様々な理由で行われる決闘で当事者自身に肉体的損害がない方法として用いられる。強い者へのツテがあり顔が利き、それを雇う財力がある。それもまた貴族としての器、力として認めた決闘のルールの一つだ。
「代理決闘か……、そのために1時間の間をあけたんじゃのう」
「あれぇ?そっちは代理を用意しないのか?【伝えた】はずなんだがなぁ?いないなら本人が闘っても何も問題ないがなぁ?ヒャッヒャッヒャッ!!」
「何が【伝えた】じゃ、白々しい。今初めて聞いたわい。まあ、元より自分でやるつもりじゃったからええがのう」
騎士(クソ貴族)は下品な笑いを広場に響かせる。不快さを感じる中、老体の後ろに隠れる受付嬢のしがみつく手にグッと力が入る。
「おじ様……大丈夫ですか?あの人……とても強そうです」
「ん?おお、そうじゃのう……まあ、心配せんで大丈夫じゃ。安心しておったらええからのう」
「……だって、あの人も…………ぇ?凄い筋肉ぅ……」
「…………」(もうダダ漏れだのう)
老体への心配がブレる受付嬢。
老体は視線を騎士(クソ貴族)に戻す。
「ところで……モンスター討伐の戦力としてここ(シシレン)に派遣された騎士のお前さんが、こんな老人相手に代理を立てたのには【ビビった】以外になんか理由でもあるんかの?」
煽る老体。
「ーーなっ!!おぉい!び、ビビってるわけねぇだろうが!!お、オレはなぁ!!……そ、そう!モンスターを討伐する前に少しでも身体を休める必要があるから仕方なく……だ!!分かったか?クソジジイッ!!」
「……はぁ……なんとも苦しい言い訳だのう」
呆れてため息をつく。そして、再び視線を受付嬢に戻す。
「そろそろ、やるとしようかの……これを持って少し離れて見てておくれ、お嬢さん」
老体は買い物した手荷物を受付嬢に預けて離れるよう促した。
「はい、おじ様」
そう言って、筋肉を撫で回すをやめて離れた所に待機する受付嬢。
「お待たせしたのう、【ダンキュリーさん】」
「おう、待ったぜ。ジイさん……」
思わず早い再会を果たした2人は互いの間合いを取って向き合う。
「一応、そっちの経緯を聞いても良いかの?」
「ちょっと稼ごうと思ってな、アイツ(クソ貴族)に声をかけられて、何回か断ったんだが……前金でいい額を提示されたんでな……勝てば更に倍だとよ」
「金に困っておるのか?」
「しばらく、貧しい村や町で無償でモンスター討伐の依頼をこなしてたからな……気付いたら路銀が底をついてたってだけの話だ」
「お前さん、やっぱり人相の割に優しいのう」
「一言余計だ。ジイさんこそ決闘ふっかけてまで【結婚前の人の女を奪おう】なんて何やってんだよ」
何だか妙な話になっていることに気づく。
「……?おや?そんな話だったかの?」
「〈スラッシュグリズリーのような大男が嫌がる婚約者を卑怯な手を使って奪いに来た。助けてくれ〉というふうに声をかけられたんだが?」
「ほほう、……そんな風に伝わっておったのか、なるほどのう」
「……なんだ?違うのか?」
老体は質問に答えずに一旦、受付嬢の所へ行ってプレゼントされた革製のグローブを受け取った。
「これ、さっそく使わせてもらうぞい」(こんな使い方ですまんのう……)
「はい、おじ様。頑張って」
グローブを手に馴染ませるようにはめながらダンキュリーの前に戻ってくる。
「…………まあ、お前さんがどう思うかは、お前さんが判断したらよい……ワシはワシで勝たんといかんのでな……」(あのポーションのおかげかのう、今は調子が良くて身体を動かしたい気分じゃわい)
老体は少しだけ前傾姿勢で片足を前に出し、両手は腰くらいの高さで前に開くように構える。臨戦態勢をとって、相手を見据える。
「…………オイオイオイ……ヤル気だな!いいじゃねぇか!ジイさん……考えるのは後だ。こっちもスイッチが入っちまったぜ!」
ダンキュリーは持っていた武器や荷物を雑に投げ、身軽にしてから拳を顔の前に構えた。
『ーーやれぇ!!挽き肉にしてやれぇぇええっ!!』
騎士(クソ貴族)の口汚い野次を合図に2人は間合いを詰め、決闘が始まった。




