宮廷魔学士
しばらくして林道の外れからイズとダンキュリーが帰ってきた。
「スラッシュグリズリーに出くわしてな、少し遅くなった」
「聞いてください!ダンキュリーさん凄く強くて、一瞬でモンスターを返り討ちに………………えっと……」
イズはワシとメリーの様子に違和感を覚え続きを言い淀んだ。既にメリーは落ち着きを取り戻し、ワシは自分の荷物を整頓していたが……微妙な雰囲気を感じとったようだ。
「おお、薪じゃったの。ありがとうのう2人とも」(……おや、厳密には〈薪〉ではないのう。ダンキュリーさんからしたら火が付きそうな手ごろな木の枝は総じて〈薪〉なのかもしれんのう)
イズとダンキュリーから薪(ちょっと太めの木の枝、大なり小なり)を受け取って、テキパキと組み上げる。
「ほれ、メリーや。頼んだ」
「え?……ああ、火ね」
メリーは組まれた薪に火をつけ、パチパチと音を鳴らし始める。以前のもたついた火つけとは打って違って手際良くちょうど良い火力で事をこなす。
「うむ、見事じゃ」
出力の調整を僅か数回で習得するとは……流石じゃのう。
「2人が帰って来たから〈魔物避けの結界〉と〈蜃気楼の障壁〉を張るわ」
「おお、助かるのう」
イズとダンキュリーは火を囲むように間隔を空けて腰を下ろす。その傍ら、自前の調理器具で肉を焼き始める。
「慣れてるな、じいさん」
「ホッホッホ……若い時は妻と色んな場所へ旅しとったからのぅ」
早々に肉が焼け、みんなに取り分ける。
「こんなところで肉にありつけるなんて思わなかったぜ……はむっ!……っっ!!うまっ!!ーー」
あまり表情の変わらないダンキュリーの目がキラキラし出す。
「全然固くねぇ!ちょっ!〈干し肉〉焼いてたんじゃねぇのか」
「いやいや、解凍した生の肉を焼いたんじゃよ」
「凍ってたのか……どうやってやったんだ?」
「普通に魔法でじゃが……」
「……す、すげぇな……魔法」
新しい世界を目の当たりしたかのような衝撃を受けるダンキュリーの表情に疑問の目を向けるメリー。
「ダ、ダンキュリーさんも魔法使えるじゃないですか、とんでもない魔力量持ってるのは見せてもらったので知ってます」
不慣れな口調でダンキュリーに突っ込むメリー。
「オレは爆砕魔法しか使えねぇよ」
「え?だけ?ウソでしょ?」
「だけだな。それしか〈宮廷魔学士〉に教えてもらってねぇからしょうがねぇだろ」
「…………ふーーーーん」
メリーはダンキュリーに魔力を見て劣等感を抱いていた手前、偏った習得魔法に少し勝ち誇ったような顔をする。
「宮廷魔学士……のう」
確か……〈宮廷魔学士〉は大陸の東側、今は亡きデメタール帝国の高位魔術師を指す言葉だ。つまり、この男は帝国の人間で宮廷魔学士に教えを受けるほどの地位もしくは役職にいた……ということか。
だったら、どうしてこんなところに……。
「どうかしたのか?じいさん」
「ん?ああ、いやなんでもないんじゃ」
まあ、考えても仕方のないことなので別にいいかと思考をやめた。それよりも聞きたいことがあった。
「あ、そうじゃ!ダンキュリーさんや」
「ん?」
「スラッシュグリズリーに遭遇した場所はどの辺なんじゃ?方向だけでもいいから教えてもらえんか?」
「いいけどよ、もしかして行くのか?一体何しに?」
「【食糧調達】じゃよ」
「…………【共食い】じゃねぇか」
「ーーぶふぉっっ!!ーー!」
しばらく沈黙した後にダンキュリーが小声で言った言葉に吹き出すメリー。まだ口の中に残っていた咀嚼物が僅かに飛び散る。
「……汚ぇなぁ」
「ーーアンタがっ!……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!ゴホっ!!!ゴッッホッ!!…………ーー」
変なところに入ったのか……しばらく咳き込む。
その後、食事をそこそこに〈食糧調達〉の支度をすることに。




