野営
特級モンスター【グリーヴァ】と遭遇した場所から、しばらく林道を進み少し開けた場所を見つけた。
「日が落ちてきたのう……今日中に林道を抜けたかったんじゃが、野営しようかのう」
「ならテキトーに薪を集めてくる」
「おお、助かるわい」
ダンキュリーは率先して動く。その動きをイズが視線で追う。
「………………」
「……あー、なんだ……一緒に来るか?」
「は、はい!」
イズは嬉しそうに返事する。
「あの……【おじ……お、おじいさん】、ちょっと行ってきます」
「おお、気をつけてのう【孫】よ。ダンキュリーさんのそばから離れんようにのう」
照れくさそうに視線を落としながら【孫】を演じるイズを送り出してワシはメリーと2人になった。ドサっと腰を下ろして大きな荷物から調理道具を取り出す最中、メリーからの視線に気付く。
「ねぇ」
「なんじゃ?メリー」
「いや、ごめん何でもない……」
「………………?」
この旅の道中、メリーは考え込むように気持ちが沈んでいる表情を度々見せる。一体何を考えているのだろう、とその都度考える。
「なんじゃ?メリー、気になるじゃろう」
「……あの…………」
「珍しく歯切れが悪いのう……どうしたんじゃ?もしかして体調悪いのか?どれ?」
どっこいしょ、と下ろしたばかりの腰を持ち上げてメリーに気をかける。俯くメリーのおでこに手を当てる。が、メリーは鬱陶しそうにそれを払い除けた。
「……うーむ、熱があるわけではないのう」
見当違いだったらしい。だったら何だ?わからん……。
「あの……、師匠ってどんな感じ……だったの?」
「……あー、先輩の若い頃のことを聞きたいのかの?」
「……うん」
「おぬしの師匠ザビティ・グレンは一言で言うと……【ムカつく奴】じゃったのう」
「え??え?師匠が?」
メリーの顔が少し間の抜けたような表情になった。
「そうじゃ、アカデミーで出会った先輩はハンサムで常に女子に囲まれていて魔法の才もずば抜けている【人生勝ち組】って感じが鼻についてのう。アカデミーの落ちこぼれのワシからしたら1番遠い存在じゃった」
「落ちこぼれだったんだ……」
「先輩は伯爵家で将来有望のサラブレッド、ワシは男爵家で魔力量の少ない出来損ない……アカデミーではゴミを見るような目を向けられておった」
「じゃあなんで……仲良くなったの?」
「急に話かけられたんじゃ、ワシの身につけていた魔巧具に興味を持ったらしくてのう」
「魔巧具って……魔力を込められた装具品の?」
「そうじゃ。ワシの家系は魔巧師でのう、未熟ながらに自作して身につけていた物が先輩の目に止まって……その日からグイグイ来るようになって接点が出来たんじゃ」
「フフ……師匠、魔法のことになると夢中になるのは変わらないのね……」
呆れたように笑みをこぼすメリー。直後に涙を浮かべ、鼻をすすりだす。
「師匠……グス……、師匠…………し……ししょぉお…………グス……ぅぅぅ……」
俯いて、大粒の雫をポロポロ落とすメリー。
ああ、そうか。
気丈に見えるメリーだが、師を失ってまだ日が浅い。ただただ哀しくて、辛くて……未だ乗り越えられず立ち向かっている最中なのだ。道中、ずっと1人で抱えた哀しみを表に出さずに堪えてきたのだろう。
メリーからしたら不本意かも知れないが、この機会にたくさん泣いて、少しでも……少しずつ前を向いてくれたらと心から思う。
「……メリー、ワシも哀しい。本当に惜しい人じゃった……本当に」
「ぅぅぅう…………ぅああぁぁぁあ……ぁあああぁあああん……ぁぁ……ぅぅぅ……」
決壊したように声を出して泣くメリーの肩をそっと抱いて寄り添った。




