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スラッシュグリズリー







 ソルベス荒野のオアシス(水場)を出発した老体率いる一行は再び港町シシレンへ歩みを進める。


 道中、ソルベス荒野で10数体のソルリザードの死体が横たわっていた。ソルリザード達の死体には打撲痕が無数に付いている。防具を付けている個体も防具ごと無惨に粉砕されている。



「……なんなの……これ」



 物言わぬソルリザード達を眼下に気味悪がるメリー。そんなメリーをよそに老体は死体の特徴を一見して確信に近い憶測を導き出していた。



「ホッホッホ……〈カシュカ〉達もここを通ったみたいじゃのう?」

「カシュカ?……誰それ?」

「ワシ1人の時に水場で知り合いの行商人に会ったんじゃ……その時にのぅ……」

「え?行商人がモンスターをこんなにしたの?ヤバくない?」

「いやいや!その〈護衛〉がやったんじゃよ……有名な闘士でのう【旋棍せんこんのベルセルク】という二つ名で呼ばれとる女性じゃ」

「女の人がこれやったの!?」



 驚愕するメリーを傍らにイズは老体の服の裾をチョンチョンと引っ張る。



旋棍せんこんて……何ですか?」

「武器じゃ……〈トンファー〉ともいうてのう……手から肩くらいまでの長さの棒に持ち手が付いておってな……攻防の両方に優れるが、扱う者の力量がそのまま反映される扱いの難しい武器じゃ……」

「じ、じゃあ……べ、ベルセルクって……何ですか?」

「んんーー……何と言ってええのかのう……〈狂戦士〉……戦闘狂?なんと説明したものかのう……なんてゆうか〈猛々しく闘う人〉……みたいな感じじゃ」(合っとるんか?もはや分からんわい)

「……なんか……かっこいい……ですね」



 なんだか目をキラキラ輝かすイズ。楽しそうで何よりだ。



 何はともあれ、カシュカのおかげでその後ソルベス荒野でモンスターに襲われることなく一行は〈ソルベス林道〉に辿り着いた。この林道は多少なり人の手が加わっており歩くところはある程度、ひらけて整備されている。とはいえ、人が常駐して管理しているわけではないので道を遮って倒れている木々などはそのままで足場も荒れていて……ちなみにモンスターも全然出る。なるべく日が暮れる前には突破してしまいたいようなところだ。



「イズ、メリー。この林道さえ抜けたらシシレンまで目と鼻の先じゃ……はぁ……ふぅ……」

「ちょっとだけ……休憩しない?足痛い……」

「……僕も……ちょっとだけ……休みたいです……」

「……ふぅ……そ、そうじゃのう一旦休憩しようかの」



 日中、ソルベス荒野からソルベス林道に入ってずっと歩き通しだったので、さすがに疲労の色を見せる一行は林道を少し進んだところで休息をとることに。



 道にハミ出る大きな倒木がちょうど良い高さだったので老体がドシっと腰を下ろす。それに続いて2人も座る。



「……なんか普通に座ったけど、なんでこんなに木が倒れてんの?」

「確かに何でじゃろうな……腐って折れた感じでもないのう……」



 倒木の根元近くに視線を向ける老体はある事に気づく。



「〈爪痕〉が見えるのう……どっこいしょ、と」



 老体は立ち上がり近くまで行ってマジマジと見る。



「…………うーーむ……」

「…………」

「…………」



 考え込む老体に段々と不安になる2人。



「…………なるほどのう」

「……え、ちょっと何なのよ……」

「…………」



 老体は再びに元の位置に戻って2人の隣に座った。



「【スラッシュグリズリー】じゃのう……たぶん」

「え?マジ?」

「【スラッシュグリズリー】って……何ですか?」



 メリーは知ってるようだが、知らぬイズはすかさず問う。



「銀白色の体毛に覆われていて鋭い爪のある大熊じゃよ、ちなみに2級に指定されとる牙獣モンスターじゃ…………そういえば昔、〈ワシ〉と〈スラッシュグリズリー〉が似とると〈知り合い〉に言われたことがあるんじゃが……本物はもっと大きいんじゃよ……」

「ーーブフッ!!ちょ!やめてよ、ホントに似てるから……笑っちゃうじゃない……フッ……フフ……フフフ……」



 思いの外、ツボに入るメリー。



「…………えっと、シュタイナーさんの……〈お仲間〉……なんですか?」

「あ!いや、似とるだけでワシはグリズリーの〈仲間〉というわけではーーーー

「あ!あのっ!お、〈お知り合い〉のこと……です……」

「ーーアッハッッ!!ダメだっ!!面白過ぎるっ!!アハハハハハハッッ!!!!アハハハハハハッッ!!!!アッ!アッ!アハハハハハハ……」



 たまたま噛み合わなくなった会話が思わぬ勘違いに発展し妙なテンションで慌てる老体とイズ。そのやり取りが既にツボに入っていたメリーに追い討ちをかけたようで火蓋を切ったように甲高い声で腹を抱えながら大笑いし出した。



「……アッハ!!……アハハハハハハ!!アハハハハハハ!!……ヒーー……も、もう……笑い過ぎて……しんどい…………ヒーー…………ヒーー…………お、お腹痛い……ヒーー……」



 その後、目に涙まで浮かべて爆笑するメリーが落ち着くまでしばらく時間がかかった。



 


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