ティータイム
肉叩きに着いた血や返り血を水場で洗いながし、何食わぬ顔で2人の元に戻る老体。
「…………すまんすまん、待たせたのう」
「どんだけ遠くまで行くのよ……帰って来ないかと思ったわ」
「なんじゃ心配してくれたのか?ホッホッホ」
「べべべ別に!モンスターでも出たんじゃないかって思っただけよっ」
「………………」
メリーとのやり取りを黙って眺めるイズは途端に老体の顔を凝視する。
「な、なんじゃ?イズ。ワシの顔になんかついとるかのう?」
「………………?」
問いかけてもイズは黙ったまま、ほんのり眉間にシワを寄せて疑問符を顔に浮かべる。
血の匂いが残っていただろうか、それともワシの表情から何か感じ取ったのだろうか、何かしら違和感を感じている様子だ。
「………………」
「…………大丈夫……です……か?」
「え?何?体調悪いの!?」
イズの気遣いにメリーが気づく形で2人に心配されてしまう。
「ワシも歳じゃから、ちょっと腰が痛くてのう……もう少しだけ休んでから出発してもええかのう?」
「……も……もちろんよ、そうゆうのちゃんと言いなさいよね!」
「すまんのう、いつもすぐ収まるから心配せんでくれ」
「………………」
とっさに嘘をついた。メリーは納得してくれたがイズは違和感をまだ払拭出来ない表情のまま黙っている。
「そうじゃ!忘れとった!まだ火ぃ残っとるのう……良し良し……」
ちょっと強引に話を変えるために老体は声を上げて自身の荷物をガサガサと漁って片手鍋を取り出す。
「食後のお茶(ツェザール産)をしよう」
困ったような……少し無理をしたような笑顔を2人に見せて提案する。
「ちょっと綺麗な水を汲んでくるから待っとれよ……って、あ!メリー何するんじゃ」
メリーは老体の手から片手鍋を奪う。
「腰、痛いんでしょ?アタシが汲んでくるから休んでて」
「おお、それじゃあ……お願いしようかのう」
「ぼ……僕は木(小枝)を……拾ってくる、火が消えちゃいそう……だから」
「おお、2人ともありがとうのう……」
イズとメリーは率先して動き、老体が休めるよう促した。嘘をついた罪悪感が老体にほんのり刺さると同時に2人の優しさが身に沁み入る。
少しして、2人が帰って来る。
追加の小枝を焚べて火力を維持し、汲んで来てもらった水を沸かす。持って来たツェザールの茶葉を淹れて片手鍋を火から離した。香りが立ち、茶葉が開いたところで少し時間を置いてから手製の茶漉しを使ってそれぞれの器に注いでメリーとイズに渡し……最後に自分のを用意した。
「熱いからヤケドせんようにな」
「ーーあっっっっちぇ!!」
「ズズズズズズ……」
メリーは言ったそばからヤケドし、イズは上手に啜っている。そんな2人を見て老体は和む。
「……ええのう、こうゆう時間…………ズズズズズズ…………」
ボソッと呟いて茶を啜る。
さっきまでの胸糞の悪い気分が少しずつ晴れていく。まるで毒素が抜けるように強張った肩の力が緩まっていく老体を見たイズは次第に凝視するのをやめた。
「ズズズズズズ…………ふぅ……」
「ズズズズズズ…………美味いわコレ……」
「ズズズズズズ…………美味しい……です……」
まったりとした時間をしばらく堪能した3人は火とゴミの始末、後片付けをして出発の準備を整えた。
「…………良し!行こうかの。メリー、イズ」
「……ちょっと眠たくなってきた」
「だ、ダメですよメリーさん行きますよ」
「……はーい」
「ホッホッホ、どっちがお姉さん(年上)か分からんのう」
眠気に襲われるメリーはしっかり者のシスター(イズ)に注意されて背筋を伸ばす。そんな2人を見て微笑む老体はまたバカでかい荷物を背負った。




