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修道服





「ラルバ達はこれから何処に向かうんじゃ?」

「僕達はこれから北の方へ向かって町々を巡りながら商会本部に帰る予定です、シュタイナーさんはどちらへ?」

「シシレンへ行くつもりじゃ」

「シシレンですか……」



 しばし沈黙して考えるラルバ。



「……どうしたんじゃ?」

「いや、あの…………妙な噂があるんですが……」

「ほう……」

「シシレンで【特級モンスター】が出たって……少し前に王都から騎士が派遣されたけれど、音沙汰がないって話なんだそうです……」

「ふむ……」



 馬車の荷台からカシュカがまた顔を出す。



「なんでも水棲系のモンスターらしいぜ?狡猾な手口で獲物を海に引きずり込むって話だ」

「カシュカよ、お前さんでも手に余る相手か?」

「負けるつもりはねぇけどよ……海に引きずり込まれたらさすがのアタシでもキツいかもなぁ」



 カシュカは頭をポリポリ掻きながら考えを語るが、その際もカシュカの大きな胸が揺れて目のやり場に困る老体は話が全く入ってこない。ラルバも同様で、困った顔をして視線を逸らしながらカシュカを荷台の中へ促すように誘導する。



「ほらほら。出るならちゃんと服着てくださいよっ」

「なんだよ、着てるじゃんか」

「ちょっとしか隠れてないじゃないですか、もう!…………あ、シュタイナーさん。そういう訳なのでくれぐれも気を付けてくださいね」



 中に押し込められるカシュカを見ながらラルバの忠告をしかと聞いた。



「うむ、充分に気をつけてるようにするとしよう……お前さん達も道中気をつけてのう」

「ええ、では…………って!あっ!カシュカさん!」



 ラルバの制止を振りほどいてカシュカが再び顔を出す。元より一行商人の腕力でカシュカが止められるわけがないのだ。



「肉っ!ありがとなジイさん!」

「はいよっ!解凍後はお早めにお召し上がるんじゃぞっ!」







 ラルバとカシュカの忠告を聞き、荷台の中で格闘(イチャイチャ?)する2人を後にしてその場を離れ老体は元いた水場に戻った。





 しばらく休んでいると上級魔導師ロープを羽織るイズとメリーがこっちに歩いてくる。160もないくらいのメリーよりも背丈の少し小さいイズに、メリーの改造された丈の短いロープ(殆どケープ)は下がギリギリ隠れるくらいで……イズはモジモジしている様子を見せる。



「アンタ、全裸で全裸のこの子を置いて行くんじゃないわよっ!」



 怒られた。

 そういえばイズの服は自分の手元にあったのをすっかり忘れていた。



「すまんかったイズ…………っ!!そうじゃ!お前さんの服、ボロボロじゃったじゃろ?新調したんじゃ!……さっきの詫びだと思って受け取ってくれんかのう」



 老体は早速、ラルバから買った女性用の修道服を渡した。



「……なんで修道服なのよっ」



 文句を言うメリー。



「【うず】の追手から身を隠すカモフラージュの意味も兼ねてじゃ、ほれメリーも向こうの方でイズが着替えるのを手伝ってやってくれんか?」



 テキトーに言い訳をして、着替えるよう促した。







 しばらくして……



 老体の所へ2人が戻ってきた。



 修道服を着たイズはソワソワして老体の前に立つ。



「お!おおっ!……ぴったりじゃのう!良ーーく似合っとるぞ!」

「…………っ!」



 褒められ慣れてないのかイズのモジモジしたまま下を向く。すると、老体は腰を落としてイズの顔の前にゆっくり手を添える。イズは何事かと硬直して目を閉じる……。



「ここを、こうして……こうじゃな……良し良し……」



 老体はイズの一部の前髪を片方の耳にかけ、残りの前髪を手櫛てぐしで反対方向にまとめて横に流した。その様子をメリーも前に回ってマジマジと見ている。



「良し!どうじゃメリー?」

「え!?……ああ……うん!い、いいんじゃない?」



 イズは目を開けて眼前の老体とメリーに視線を送る。目があったメリーは思わず視線を逸らす。



「かっ!……【可愛い】……んじゃない…………たぶん……」

「ーーっっ!…………」



 歯切れの悪いメリーは何故な顔が赤い。釣られてイズも顔が赤くなる。 



「そうじゃのう!どこからどう見ても【可愛らしい女の子】じゃて」



 イズは初めて自分に向けられる【可愛い】と言う言葉に動揺する反面、新鮮に嬉しさを感じてどんな表情をすればいいか分からないでいる。



 すると、メリーは老体に近づいて小さい声で耳打ちする。



「これ、結構したんじゃない?めちゃくちゃ生地が良いじゃないの。私の服よりずっと上等よ」

「まあ……ちょっとのう。…………でも、ええんじゃ……ほら見てみいメリー」



 老体はイズの方を見るようにメリーに目配せする。



 2人の目線の先のイズは服の肌触りを何度も何度確認しながら……





 【何とも愛らしくニッコリと微笑んでいた】。









 おそらく本人に(笑顔の)自覚はないだろうが……初めて見せるイズの表情に2人も嬉しくなっくるのを感じた。





「良し!ではもう少し休んだら出発しようかのう」



 どっこいしょ!と腰を上げて立ち上がる老体は服の裾を引っ張られるのを感じて下を見る。



「んお?どしたんじゃ?」

「あ、あの…………あ、……ぁ……」

「………………?」






「【……あり……がと……ぅ……ご……ざ……ぃ…………っ】」

「ホッホッホ!どういたしましてじゃ」



 老体はまた嬉しくなってポンポンとイズの頭を満面の笑みで撫でた。




 



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