常連さん
ソルベス荒野のオアシスで狼狽するムキムキ全裸のジジイはハッと我に返る。
「ーーーーハッ!!すまん!メリー!イズ君のこと任せるぞい!ーーいや!イズ【ちゃん】か!?とりあえず後は頼んだぞメリー!すまんのう!すまんのう!」
イズをメリーの側に降ろして、動揺しながら謝罪を繰り返し全裸で走り去っていく老体。元居た水場まで戻ってきて息を切らす。
「……はぁ……はぁ……はぁ………、ちょっと……燥ぎすぎたのう……はぁ……はぁ…………っふぅーーーー」
大きく深呼吸した後、手早く身体を洗って荷物の置いてある岸まで戻って服を着た。すると、この岩群に入ってくる大きな馬車を引く人影が視界に入る。
人影側も遠目ながらに老体の存在に気づく……。
馬車を引く者は少しずつ老体の方へ近づいてくる。それに釣られるように老体も自分の荷物を持って近づいていく。
徐々に間を縮める双方はもう声が届くであろう距離まで来た……。馬車を引く者は男性で30代程、目鼻立ちのしっかりした顔で清潔感のある格好をしている。
それは老体には見覚えがある顔だった。
「ーーシュタイナーさんっっ!やっぱりそうだ!」
「おお、ラルバか!久しいのう元気じゃったか」
双方は再会に歓喜する。
ラルバは行商人であり、肉屋のお得意様だ。
「どうしたんですシュタイナーさん、こんなところで……」
「ちょっと遠出することになってのう……そっちはどうしたんじゃ?」
「王都近隣の修道院から依頼があって仕入れた大量の修道服を納品しに行った帰りなんですよ」
「……ほぅ…………」
行商人ラルバの話を聞いて、少し考え込む老体。
「のう……ラルバ」
「なんです?」
「その品……余っとらんか?」
「修道服ですか?……ちょっと待ってくださいね」
幌を被った馬車の荷台の中に入って商品を確認するラルバ。
ーーゴソゴソゴソーー
「あ、ちょっと……ちゃんと服着てくださいよカシュカさん……」
「……なんだ?もう着いたのか?」
「つ、着いてませんよ……商品確認するのでそこ退いてください」
「なんだよ?照れてんのか?もっと見てもいいんだぜ?なぁ……」
「ちょっ!引っ張らないでくださいよっ」
ラルバを含む2人が話す会話が聞こえる。なんともイチャついている雰囲気が荷台から出ている。すると荷台の入口からヒョコっと女性の上半身が出る。
「なんだ、肉屋のじいさんか……ふぁ……あ……」
「おお、カシュカか……元気そうじゃのう」
「相変わらず、良い身体してんな……歳の割に」
「お前さんの鍛え方と比べたらワシなんぞまだまだじゃ……」
「いや、そうゆう意味じゃ……まあいいか……」
「…………ん?おお……」(どうゆう意味じゃ?)
男勝りな口調のカシュカはボサボサの長い赤髪をかき上げながら眠たそうにあくびをする。カシュカはラルバと同じく肉屋の客の1人で、かなりの軽装なためカシュカのバキバキに割れた腹筋の上の大きな胸は今にも全部見えてしまいそうで老体は目のやり場に困る。すると助け舟と言わんばかりにラルバが声をかける。
「ちょ!そんな格好で外に出ないでくださいよ!」
「えー別にいいだろう……」
手を引かれたであろうカシュカは荷台の中へ引っ込む。すると次はラルバが荷台から出て来て少し乱れた衣服を整えながら応対してくれる。
「す、すいません、お待たせしました」
「護衛をカシュカに頼んでおるのか、安心だのう」
カシュカは王都主催の闘技大会で優勝経験のある結構有名な闘士だ。ファンも多いと聞く。
「ええ、そうなんですが……色々……気をつかいますね……ハハ……」
「……ホッホッホ……色々……のう……」
「あ、修道服なんですが女性用でサイズの小さいものが何着か残っていますが……もしかして買ってくれるんですか?……なんて」
冗談混じりに聞いてくる。が……
「うむ、一式だけ貰えるかのう?」
「ーーっっええ!?」
予想外の返答に怪訝そうに驚くラルバ。
「…………同行者がおってのう」
「あ、そうゆうことですか…………でも、結構いい値段しますよ?大丈夫ですか?」
「ふむ……あんまり散財も出来んし、どうしようかのう……」
ラルバは手で金額を示すが老体は思案する。すると、荷台からカシュカがまた顔を出す。
「肉が食いてぇ」
カシュカが食欲を口にする。
「…………おお、それじゃ」
少し間を置いて老体は口を開く。そして、背負っているバカでかいリュックを置いて中を探り魔法で凍結させてある肉を取り出した。
「肉屋で扱っている商品なんじゃが……買わんか?」
ラルバは荷台から顔を出すカシュカ(カシュカの胸)と老体と肉に視線を往復させながら……しばし考える。
「…………いいですね、取引しましょう」
「……じゅるり」
荷台の方向からヨダレを啜るような音がかすかに聞こえる中……交渉は成立。
数点の商品(肉)と引き換えに、ほんの少しの金額でとても良い仕立ての服を手に入れることが出来た。




