気に入らない
「……もしかして今苦しんでいるのは……その子がアタシのために魔法使ったから……拒絶反応が出てるってことなの?」
「そ、そうとは限らんが…………魔法を使った後に不調を来す事例が多いのは事実じゃ……個人差があるんじゃろう……」
「ーーっ………………………」
「………………」
「………………」
しばらくの沈黙。
とんでもなく……空気が重い。
その沈黙をメリーが破る。
「気に入らないっ!……気に入らないわっ!!」
「メ……メリー……?」
「ムカつくっ!人の命をなんだと思ってるのよ!」
同じ意見だ。
「何処の誰がそんな酷いことしてるのよ!?」
「……【渦】、いや……東聖魔法院じゃ……おそらくのう……」
「…………ぶっとばしてやりたい……そんな奴ら……全員……」
「…………そうじゃのう……じゃが今はイズ君を安全なところまで送ってやりたい……。
もちろん……お前さんもじゃ、メリー」
老体は優しく言葉をかけたつもりだったが、メリーを見ると〈睨みつける〉が如く視線が刺さる。
バチクソ恐い。
「……ねえ」
「な……なんじゃ……」
「………………
【なんでそんな事知ってんの?】」
「………………」
固まる老体。
至極当然な質問。むしろ疑問に思わないはずが無い。
今、話をした内容は一般に知られている知識とはとても思えないものだ……。さすがにメリーでも気づく。
「…………ワシ、歳くっとるから……色々知っとるんじゃ……」
「………………」
苦しい言い訳をする老体をメリーは無言で睨みつける。
ものすごく……恐い。
「………………」
黙るジジイ。
「………………」
睨みつけるメリー。
「………………」
「………………」
「………………」
「……………………はぁっ……」
この空気に耐えられなくなったジジイは息を漏らす。
「……元【渦】の構成員だったんじゃ…………ワシ……」
「……ーーやっっっっぱり!」
恐い表情のまま勝ち誇った顔で言葉を吐き捨てるメリー。
「もうええじゃろ……お前さんも早う寝るんじゃ。今日はもう疲れたじゃろ?な?」
「ちょっと言い訳ないでしょ?ちゃんと話聞かせてよ!まさか今も奴らと繋がってるんじゃないでしょうねぇ!?」
「もう昔の話じゃ、【渦】とはなんも繋がっとらん。……これでええじゃろ?」
「ちょっと!もっと具体的に……ーー」
あまり良い思い出とは言えないことなので必死に話題を終わらせようとするがメリーはグイグイ来る。
「ほれ、うるさくてイズ君が寝れんじゃろ?また今度、ちゃんと話すから今日はもう寝れ!ええな?メリー」
ちょっと語尾を強めた。
「ーー分かったわよっ!もう!」
キレながら渋々了解するメリー。そんなやり取りで会話を終わらせた老体はイズの様子を確認する。
「……すぅ…………すぅ…………すぅ…………」
寝ている。
まだ熱はあまり下がってないが呼吸は少しばかり落ち着いてきたような気がする。
「……こんなにうるさくしたのに良く寝れたのう……すまんのぅ……」
ヒソヒソ声でイズに謝罪した。
返事のないイズを見ながら、次の機会に必要であれば話さなければならない自分の過去のことを思い巡らせていた。
……若かった自分が【渦】を抜けるキッカケになった任務や……理想とはかけ離れた現実に裏切られ打ちのめされた過去を。
まあ、本当に必要に迫られなければ話すつもりは一切ないので上手いこと躱してやろうと思いながら床についた。




