特稀魔法2
メリーの確保してくれた岩場に着いた老体は早速、寝床の用意をしてイズを寝かせた。
「〈魔物避けの結界〉と〈蜃気楼の障壁〉を張っといたわ」
「気がきくのうメリー、助かるわい」
「これくらい訳ないわ…………へ……へっっくちっっ!!……あーーーー……」
豪快なクシャミを披露するメリー。
「これはいかん、冷えてきたのう……ちょっと待っとれよ」
ソルベス荒野の夜は想像以上に冷えるので持参の寝袋にイズをしっかりお包みし、焚き火をつけて3人とも風邪をひかぬよう暖をとった。老体は再びイズの隣へ移動し、魔法で冷気を発生させた片方の手の平をイズの額に当てた。
「……うぅ…………ハァ……ぅ……ぅ……」
「……早う元気になって魚食べに行こうのう……イズ君……」
老体は苦しむイズに声をかけながら額を冷やしたり汗を拭ってあげたり水分を与えたり、と献身的に看病する。
「……〈ゲート〉の魔法以外も起用に使えるのね」
メリーはワシの手の平の冷気の魔法を見て言う。
「当たり前じゃ、ワシは冷気の魔法で肉の商品管理をしとったんじゃからのう……それよりメリーも、さっきの魔法は見事じゃった」
「そんなことないわよ……最初は盛大に〈外した〉し………………あ!」
メリーは気になっていた事を思い出した。
「ソイツ!……イズに言われて2回目に撃った魔法は〈全弾命中〉したわ!その子……一体何をしたの?」
「【必中座標】という〈特稀魔法〉の一種じゃ……それを使えば術中の対象は魔法だろうが飛び道具だろうが回避不可能になる」
「ブラッ…………?……〈特稀魔法〉……?」
聞いたこともない魔法に混乱するメリー。
〈特稀魔法〉は魔導院の学科講習でも習うはずなのだが……。
「特稀魔法は極々小数しか使えない希少性の高い魔法のことじゃ。割合でいうと……1つの特稀魔法に対して大陸内に1人いるかいないか、と言われておる」
「少なっ……てか、その魔法を教わって尚かつ呪文が分かれば誰でも使えるんじゃないの?」
「特稀魔法は〈魔力の性質が完全に一致〉しなければ発動すらしない特異なものでのう……生まれながらにして、たまたま内在する魔力が一致してる者でないと使えないとされておる」
「〈完全に一致〉って…………」
「そう……メリーも魔術師なら分かるじゃろう?……〈完全に一致〉がどれほど難しいことか……」
「……う……うん……。」
メリーはごくりと息を飲む。
「じゃ……じゃあ、ソイツ(イズ)は……たまたま一致してたってことよね?」
「……いや、この子は〈後天的〉に魔力を操作された……いわゆる【ブリード】じゃ」
「……ブ……ブリー……?……んーーもう!ちょっと!知らない言葉ばっかり使わないでよ!そうゆうの良くないわよっ!」
知らないことは恥ずかしいと思いつつも、老体の良くないところを正しく指摘するメリー。確かに話し相手が〈分からない〉、〈識らない〉言葉を頻繁に使う人はシンプルに嫌われるし、何よりコミュニケーションが取りづらい。歳をとって知識がある人ほどそういったことをしてしまう。
気をつけねば。
「すまん。ちゃんと説明するからのう……えーーっと……
【染み】とは……魔法の才能がある未熟な孤児に、選定した特稀魔法の性質を〈強引〉に身体に定着させた者のことを言うんじゃ」
「……なにそれ、そんなことして……大丈夫なの?」
メリーは顔に嫌悪感を表す。
「……大丈夫では……ないのう……」
あからさまに場の空気が悪くなる。
「……【ブリード】に〈無理矢理定着させられた魔力の性質〉は少しずつ〈本来の魔力の性質〉に戻ろうして体内で拒絶反応を起こす。その際、様々な身体の不調を来す……いずれ成長するにつれ〈本来の魔力の性質〉は色濃く身体に表われる。その時の拒絶反応は以前より大きくなり……身体の不調はもっと酷くなる」
「…………なっ!それじゃ……ソイツ……その子……どう……なる……のよ……?」
恐る恐る尋ねるメリー。
「……残念じゃが、
【おそらく5年保たずに…………死ぬじゃろう……】」




