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三つ編み





「おお大丈夫か?イズ君……」

「ええ!何でそんなに落ちついてるのよ!?大丈夫なのソイツ!!」



 老体は膝をついてイズを抱きかかえ、至って冷静に対処する。メリーはイズに不信感を持っている割には心配そうにする。



「……ハァ……ハァ……ハァ……ぅう…………」



 息が荒く苦しそうにするイズ。老体はイズの額に手を当てる。



「ふむ、酷く発熱しとる……これは辛いだろうのう」



 老体はイズの額に手を当てたまま小さな声でほんの一言だけ唱え、魔力を手に込める。すると手の平にほんのり冷気を帯びてイズの熱を少しでも和らげようと試みる。



「メリーや、ワシの背中の荷物から手頃な大きさの布地を取ってくれんか」

「わ、わかったわ。勝手に開けるわね」



 イズの具合の悪さに驚いて、しおらしく振る舞うメリー。老体はメリーから布を受け取って苦しそうに発汗するイズの汗を拭う。



「……ぅ……ハァ……ハァ……ハァ………ぅぅ……ハァ……ハァ……」



 イズの苦しそうな様子を見て、老体は辺りを見渡す。



「メリーや、向こうの方に大きさ岩場が見えるじゃろ?その岩陰で今日は野営しよう。イズ君をゆっくり休ませたい」

「わかったわ!先に行って安全かどうか見てくる!」

「っ……おお、助かるのう。すぐ追いつくから頼んだぞ」



 正直、驚いて一瞬硬直した。

 まさかメリーが率先してイズのために動いてくれるとは思っていなかったからだ。



 なんだか……



「……嬉しいものだのぅ」

「え!?なんか言った?」



 ボソッと呟いた言葉がメリーに聞こえてしまっていた。



「いやいや……それより岩場の方を頼んだぞい」

「うん、行ってくるわ」



 メリーは魔導杖をしっかり胸の前で握りしめて周りを警戒しながら岩場の方へ走っていった。



「……メリーがイズ君のために岩陰を確保してくれとるからのう。もうちょっと我慢じゃ」

「……ハァ……ハァ……ハァ……な……んで?……」

「ん?どうしたんじゃ?」



 息が荒い中、何かを伝えようとするイズ。



「……ハァ……ハァ……どう……して、こんなに……良く…………してくれるん……ですか?……ぅ…………ハァ……ハァ……」

「……おお、そんなことか。ホッホッホ!ワシみたいな老いぼれはのう、若いもんの助けになれることが嬉しいんじゃ。特にイズ君みたいな〈良い子〉のためなら尚更じゃのう」

「……僕…………なんかが……ハァ……ハァ……グスッ……グスッ……ごめん……な……さい……」



 弱ってるせいか泣き始める。



「気にせんでええ、子供は大人に甘えとればええんじゃ」

「………………グスッ……」



 ふと、老体の視界に光が入る。

 メリーが向かった岩場の方から合図の光がピカピカと点滅する。



「おお、確保出来たようじゃのう……どっこいしょ、と」



 額に手を当てるのを一旦やめて、イズを抱えて立ち上がる。あまり振動させないように岩場へと歩きだした。



(……どうして?か…………)



 イズに答えたことに嘘偽りはない。だが、何故ここまで見ず知らずのイズに世話を焼いたのかは少し別の理由がある。



 ワシにはクィンの間に出来た娘が1人おった。名は【リベルタ】。

 生まれてからしばらくしても、その子はワシのデカい図体と強面のせいか全然懐かないどころかギャン泣きされてばかりだった。ある時、クィンがワシの伸びた髪を〈三つ編み〉にして遊んでいたら……リベルタは初めて自分からワシに近づいてきて、その〈三つ編み〉で掴んで【天使のような笑顔】で遊びだしたのだ。



 あの時の嬉しさは……何にも代え難い。



 【一生忘れるものか】と思った。



 【この娘を笑顔を守るためなら……何だってしよう、と】。








 肉屋でイズが無意識にワシの〈三つ編み〉を握っていた時にそんな昔のこと思い出してしまった。



 〈たったそれだけ〉。



 イズを放ってはおけなくったのは。





 ちなみに、リベルタがワシの〈三つ編み〉で気に入ってからワシは毎朝、クィンに〈三つ編み〉を自らお願いするようになった。



 その内、クィンに面倒がられてしまったので自分でも練習して出来るようになった。



 そして、その名残で……今に至るまで〈三つ編み〉をやめられないでいるのだ。






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