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第99話「何だかんだ言っても、家族というものは特別だという話」

「……いや、気にしないで。そう言えば若菜も免許を持ってなさそうだったし、これまでに車で出掛けるという経験自体が無かったのなら、そう思うのも仕方が無いよね」


 とはいえ、謝罪までした相手をいつまでも待たせる訳にはいかない上に、仮にも作家の端くれとしては、その言葉の裏側を全く理解出来ない想像力の無い人間だとは思われたくはない為、俺はその大元の理由を妙に本気で推測すると、それに基づいて春菜の謝罪にそれが不要な旨を答える。


「……お気遣いありがとうございます。でも、確かにお母さんは免許も車も持っていませんけど、私には車で出掛ける経験が無かった訳ではないですよ?」


 しかし、その俺の作家としての誇りを懸けた推測は見事に的外れだったらしく、それを聞いた春菜は一応は礼を述べてはくれたものの、続けてその旨を容赦無く宣告して来る。いや、別に本人としては容赦も糞も無いというか、そもそもそれが必要になる様な場面だとすら思っていないのだろうが、むやみに誇りを懸けた俺にとっては、その春菜の言葉は介錯の刃の様なものだった。


「あっ、そうなの? でも……、それならどうして車で出掛けるイメージが無い、なんて事に?」


 それ故に、俺はもうその理由を自らの力で推測する事を端から諦め、大人しく本人にそれを尋ねる事にする。それは多少なり俺の無駄に高いプライドに障る行為ではあったが、聞くは一時の恥、などという言葉を引用するまでもなく、今度こそ俺にはそれを……則ち、家族が免許も車も持っていないのに車で出掛けた経験が無い訳ではない事や、にもかかわらず今回は車で出掛けるイメージを持っていなかったという事の理由を想像する事は出来なかった。


 いや、厳密に言えば前者に関しては想像をする位は出来た、というよりも自然に想像してしまった理由が無い訳ではないのだが、それは流石に失礼な想像というか、眼前の少女がその様な事をする筈が無いと思われた為に、俺はそれを、則ち得体の知れない男の車の助手席に座る春菜という状況の想像を、即座に永遠の闇に葬ったのだった。


「それはですね……と、その前になんですが。私が車で出掛けた事があると聞いて、変な想像してないですよね? それはおじさん達、つまり高見澤さんのご両親に連れて行って貰ってたからですよ?」


 しかし、仮にも作家を名乗る俺よりも余程優れた想像力を持っているのか、春菜は俺がその失礼な想像をしていたが故の間の意味を鋭く見抜くと、それに釘を刺した上でその事の、則ち車で出掛けた経験があった事の正しい理由を教えてくれる。先の俺の質問ではイメージが無い方しか尋ねていないにもかかわらず、本当はそちらも気になっているという俺の気持ちまで察してくれるとは、いやはや見事なものである。


「……へえ。ってあのおっさん達は他所の子に何してんだ? というか、危ないからそういう知らない大人に付いて行っちゃ駄目だよ?」


 とはいえ、その鋭い観察眼に見抜かれた事実を易々と認める訳にはいかない上に、その若さで自身を超える想像力を持つ春菜に悔しさを覚える老害振りを発揮した俺はその言葉に曖昧な返事をするが、そこで漸く衝撃の事実を聞かされた事に気付くと、僅かに声のトーンを上げて言葉を続ける。


「自分の親に何言ってるんですか……。勿論ご存じだと思いますけど、あの方々は本当に善良な方なのでそういった心配はご無用ですよ? それに、小さい頃は良く面倒を見て貰ってたみたいですけど、車で出掛ける時はお母さんも一緒でしたし。それと、当然ですが本当に知らない人に付いて行ったりはしませんので、その点も心配はご無用です」


 しかし、その俺の言葉は半分は冗談だったのだが、それを聞いた春菜は呆れた様にそう言うと、俺と同様に僅かに声のトーンを上げてその言葉に反論する。その笑顔が残った表情からしても、流石に本気で怒っているという訳ではないとは思うが、その内容からもどうやら我が両親は随分と気に入られている様である。まあ、当人の言葉にもある様に、あの人達が善良な人間である事は確か……だと思われるので、それを不審者扱いされては気に障るのも無理はないか。


「……それは失礼をしたね。まあそれは兎も角、車で出掛けた経験が無い訳ではないなら、結局車で出掛けるイメージが無かったっていうのは、どうしてだったのかな?」


 それ故に、当人の危機意識の低さを指摘した事も含め、俺は大人しく自らの失言を軽く謝罪するが、これ以上自らの両親について触れられるのは気恥ずかしいというか、非常にくすぐったい感覚に耐えられそうにない為、俺としては珍しい方の言動だとは思うが、やや強引に元の話題へと引き戻す為の質問を春菜に投げ掛ける。


 しかし、此処まではまた殆どのやり取りに於いて即座に返答をして来ていた春菜であったが、その質問への回答にはまた暫しの時を要していた。そのやはり春菜にしては珍しい様子に、俺はそれ程口にし辛い理由なのか、と思うと同時に、それがどの様なものなのかが甚だに気になって来てはいたが、これまでに散々そうして貰っていた手前、その答えを急かそうなどとは思わなかった。

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