第89話「好きな物の事に関しては、人は饒舌になるものなのである」
ともあれ、斯くして自身の印象を根拠とするという最大の禁忌を犯した、最早そう呼ぶ事すら憚られる謎の分析を此処まで長々として来た訳だが、仮にこの分析が全て正しかったとしても、だから何だと問われれば俺には閉口する以外の術は無かった。
しかし、それはこの分析によって得られた情報には活用の仕様が無い為、という訳ではなく、それよりも遥かに単純で下らない理由によるものだった。いや、無論実際にこの情報には意味などは無いのだが、此処で言いたいのはそもそもそれ以前の話である、という事である。
則ち、そもそもこの一連の謎の分析という行為自体が何らかの意味を有しているものではなく、ただ様々な物事に対してこの様に知的な思考をしている風を装う事で、俺は自身が冷静で賢明な人間である事を日々確かめて、もといそう言い聞かせているだけなのである。実際には、ゲームの主人公をわざわざ女性にし、その臀部を眺めて喜んでいる様な人間であるというのに。
ともあれ、そういう訳で俺がこの数分に於いて脳内で繰り広げていた思考とは、自らも認める完全に無意味なものであったのだが、幸いにも行動までがそうだという訳ではなかった。どれ程下らない思考をしながらであろうとも、いや下らないと分かっているからこそなのかもしれないが、このゲームの日課をこなす位の事であれば、今の俺にとっても決して難しい事ではなかった。
なお、全くの余談だが、このゲームでは一つのアカウントで最大五人までのキャラクターを登録する事が出来、俺はその中の四人目までは作成してそれなりに育成しているのだが、その四人共がそれぞれに異なる種族の女性キャラクターである。まあ、それこそだから何だという訳ではないのだが、自称「冷静で賢明な人間」も実際にはこんなものである、という事なのだろう。
それはさておき、この一連の思考に費やした時間はそれ程長かった訳ではない……と思うが、その間にその四人のキャラクターそれぞれの分の日課を終わらせる事には成功していた俺は一度コントローラーをテーブルの上に置くと、ううんと背伸びをしながら次にすべき事を考える。
とはいえ、それは早くもこのゲームを止めて他の事をしよう、という意味ではなく、あくまでこのゲーム内で次に何をしようか、という思考であった。尤も、幸いにもこのゲームには日課の他にも週課や隔週での物まで、やらなければ相対的に損をするコンテンツが数多に存在している為、それを探す事自体には一切の苦労の必要は無いのだが、それをこなす順序やその中からの取捨選択の余地は辛うじて残されていた。
いや、効率を考えるのであれば、その順序も取捨選択も固定化してしまえば良い話ではあるのだが、俺が頑なにそうしない事には無論それなりの理由があった。則ち、ただでさえゲームの中でも仕事をしている様だという事で、それを半ば揶揄する様に日課やら週課やらという言葉を使っているのだが、そこまで効率を求めて毎日、或いは毎週同じ様なプレイをしていては、本当に仕事をしているのと変わらなくなってしまうだろうと考え、俺は半ば意図的に日々非効率的なプレイをしているのであった。
尤も、此処でいう仕事とは俺の生業のそれとは異なるものであり、どちらかと言えばその意図的に非効率にしている方こそがそれに近いのだが、そもそもそういった毎日同じ様な事をする類の仕事が嫌で、より厳密にはそれをする事が性格的、或いは性質的に殆ど不可能であるが故にこの生業を選んだ所もある俺としては、尚更そういった効率的なプレイをする筈が無かった。
とはいえ、では俺が根っから非効率なゲームプレイ、或いはその様な仕事をしているかといえば、少なくとも前者に関してはそうではない。というのも、俺は遊びに関してはある程度の真剣さは必要だと考えている為、概ねどのゲームに於いても最低限の知識は調べる様にしているし、ゲーム内でのキャラクターの能力の指標となる数字であるステータスも、時間も含めた費用対効果が悪くない範囲では可能な限り高めようとしていた。
ただ、その上で時折非効率なプレイを、たとえばわざとワープ的な機能を使わずに街やフィールドを歩いてみたり、或る敵モンスター相手に有効だとされる職業や武器で挑むのではなく、あくまでも一つのスタイルに拘って挑戦したりする事で、ロールプレイング(役割を演じる)ゲームを本来の楽しみ方で遊んでいる、というだけである。
尤も、無論ゲームの楽しみ方などは人それぞれである上に、その演じる役割も各々によって異なっていて然るべきである為、キャラクター自体が冒険の効率を最優先するという事があっても何もおかしくはないのだが、俺の場合はそれらが上記の様なものである、という訳なのであった。
ともあれ、例によって余計な思考にそれを幾らか乱されながらも、これからゲーム内で何をするのかを決めた俺は再度コントローラーを軽く握ると、やや露出の多い衣装の臀部をこちらに向けている主人公を操作してその為の目的地へと向かうのであった。




