第87話「根拠の無い推測をさも真実の様に語るマン」
という訳で、いざとなったら中断する事が容易なゲームの中から今回プレイする物を選ぶのが、これだけ中断の容易さの重要性を力説して来たにもかかわらず、最終的に俺がこれからの暇潰しに選んだのは、その選択肢の中ではやや中断のし辛いものだった。
いや、流石に俺も自身がそこまで愚かだとは思っていないので、無論厳密には中断をする事自体は数秒から、長くても一分も掛からずに可能なので今回の条件から外れている訳ではないのだが、その気になれば一瞬でアプリを落とせてしまう例のゲーム等と比較した場合には、相対的には中断がし辛いという事は間違いなかった。
尤も、俺がプレイし得る全てのゲームの中で比較すれば中断は容易な方であるとはいえ、此度の数ある選択肢の中から僅かでもリスクが高いものを選んでいるという時点で、真に賢明であるとは言えないのだが、それを押してでもその選択肢を選んだ事には当然ながらそれなりの理由があった。
則ち、俺が選んだのはこれまでにも何度かは話題に出した据え置きのゲーム機の所謂MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)であり、つい先程それを荷解きして設置した事からも分かる通り、俺はそのゲームを少なくとも丸一日以上はプレイしていなかった為に、この機会にその空白期間を終わらせておく事にしたのであった。
とはいえ、この手のゲームをプレイしていない、或いはそれに関する知識を持っていない人間からすれば、少なくとも転居という一大イベントをこなした後なのだから、別に一日や二日くらいプレイせずとも何の問題も無いのでは、という話ではあるだろう。
実際、数週間以上もプレイの間を空けたならば兎も角、それが数日程度であればプレイの当初にこそ、その勝手を忘れてしまっているかもしれないが、大体のゲームではそこからも直ぐにその勘を取り戻す事が可能であり、製作者側もそうなる様にゲームを作っていると思われる。
そして、そもそも俺は難しいゲームを格好良くクリアする程の腕は持っていない為、このゲームも勘を取り戻す必要が無い程に簡単なものなのだが、それでもそのプレイの空白期間を可能な限り空けたくはない事には、当然ながら相応の理由があった。
というのも、今は大抵のオンラインゲームに於いて共通して似た様な仕様にはなっているのだが、俺が継続してプレイしているもう一つのオンラインゲームである、例のスマートフォンでもプレイ出来るアクションRPGに於けるデイリークエストの様に、此方のゲームにもプレイヤーからは日課と呼ばれる、一日毎に更新される、クリアする事で一定の報酬を得る事が可能な要素が存在しているのだ。
則ち、どちらのゲームも毎日プレイする事でプレイヤーが得をする、というよりプレイしないと損をする様になっており、その日課という呼び方から連想される通りに、殆どそのゲームをプレイする上での義務の様になっていた。
要するに、流石に実際のそれよりは難易度も掛かる時間も段違いであるとはいえ、何が悲しいのかゲーム内でも毎日仕事をしている様なものなのだが、眼前に報酬をちらつかされればそれを取りに行ってしまうのが人間である……とまでは言わずとも、それが訓練されたゲームのプレイヤーというものなのである。
なお正直に言えば、ゲームというものはある程度は自由にプレイしたい派の俺としては、そういった毎日、或いは一定期間毎にプレイしなければ損になる様な要素はゲームには入れて欲しくはないのだが、運営側の立場……則ち一日毎のアクティブプレイヤー数を稼ぎたいという気持ちを考えれば、そうなる事は仕方が無いという事は無論理解している為に、俺は今日もサラリーマンの様に大人しく日課をこなす為にゲームにログインする、という訳なのであった。
尤も、それが本当に面白いゲームであるならば、どうせプレイヤーは、もとい俺は毎日欠かさずプレイする事になるのだが、流石にその状態を年単位で維持する事は互いにとって難しいという事を、運営側は俺達プレイヤー以上に良く理解している為に、この様な毎日のプレイを半ば強制する様な仕様をゲームに組み込んでいるのだろう。
ともあれ、この様な事を考えている間にもテレビとゲームの電源を入れた俺は、やや面倒な二段階認証を経て無事ゲームにログインし、その舞台となる世界の大地へと降り立つが、その主人公……則ち本来は俺の分身となるキャラクターは、例によって現実の俺とは異なる性別となっていた。
いや、多様性が叫ばれる時代である事などを考慮するまでもなく、ゲームのキャラクターの性別や容姿等が選択可能な時、必ずしもそれを自らのそれに近付ける必要などは無論皆無ではある為、だから何だという話ではあるのだが、少なくとも性能面に差異が存在しないのであれば、遠い昔の自身がそうであった様に、自然とそれらは自身に近い物を選ぶ事が多いのは確かだろう。
尤も、折角のゲーム……則ち現実とは異なる体験という事で、容姿等については現実の自身とは乖離したものを選ぶという事もあるだろうが、ゲームの物語への没入感という観点から見ても、少なくともそれが重視されるこういったロールプレイングゲームに於いては、性別に関してはそういった傾向があると考えるのが自然である。
とはいえ、無論その限りではない事も多々あるだろうが、その場合にもその様にした、則ち主人公の性別を自身とは異なるものを選んだのは、概ね先述の様な理由である事が多いだろう。則ち、現実とは異なるゲームならではの体験をする為に、自身とは異なる性別を選択する、という事である。
しかし、これまでの話が全て根拠の無い、あくまで俺の推測に過ぎない事は措いておくとしても、俺がこうして主人公の性別を自身とは異なるものにしたのは、決してその様な高尚な理由からではなかった。いや、厳密に言えば、多少はそういった考えが含まれていない事もないのだろうが、その多くを占めている理由が全く別のものである事は、此方は根拠の無い推測などではない確かな事実なのであった。




