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第71話「イッツアワンダフルワールド」

 それ故に、結局はその選択は取り敢えず保留という事にすると、俺は次なる、そして最後の選択肢である第三の候補地、則ち和室へと、例によってこの段ボールを抱えたまま歩き出す。起床直後に開いて以降、特に襖を閉じたりはしていない為、その短い道中の間には既にその概ねの様子を窺う事は出来たが、どうせ大した労力が掛かるという訳でもないので、これまで通りに詳細な確認の為にも現場にはきちんと赴く事にする。


 その結果、無論程無くして目的地へと到着すると、俺はこれまでの様に先ずはじっくりと状況を確認するのではなく、直ぐにその中でも特定の場所……則ち事前に当たりを付けていた、恐らくは西向きの窓の下にある、例によって本来の目的が良く分からない、床から一段高くなっているスペースへと視線を向ける。


 すると、そこは概ね予想通り、というよりも既に見えてはいたので殆ど答え合わせの様なものではあるが、この段ボールの中の本を置くには丁度良い感じの広さを持っていたが、やはり窓の付近という事で日光の影響は避けられそうになく、それを防ぐ為に遮光をしようにも、和室という事でその役目は障子と雨戸が担当している為、これまでに述べて来た通りの理由で断念せざるを得なかった。


 則ち、これにて事前に用意した全ての本の置き場の候補地の視察を終えた訳だが、その中に即断出来る程にそれに相応しい様な場所は無かった、という事になる。尤も、本当に俺が案じている程の日光の影響があるのかは俺の知識では判断出来ないのだが、少なくとも現時点での知識に基づく判断の基準に於いては、手放しで何処かに決める事は出来なかった。


 いや、これまでの自身の言葉を素直に受け入れるのであれば、最早食堂に置く以外の選択肢は無い様なものなのだが、その為に窓やカーテンを万年閉じたままでいるという事には、やはり甚だの抵抗を覚えざるを得なかった。


 というのも、当時は……と言ってもつい二、三日前までの話なのだが、完全に昼夜が逆転した生活を送っていたという事もあり、俺は前の住居では実際にそれに近い状況で生活をしていたのだが、やはり人間はその様な状況で生きる様に出来ていないのか、どうにも毎日を暗い気分で過ごしていたのである。


 尤も、他にもその様になる心当たりはいくらでもあるので、それが本当にカーテンを閉め切っていた所為なのかは定かではないのだが、少なくとも偶に外で陽の光を浴びる度に妙な感動を覚えていた事は事実である為、人間がある程度自然光を求める様に出来ているのは恐らく確かなのだろう。まあ、仮に精神的にはそんな事はないとしても、確かビタミンDだかを合成するのに日光が必須であったと思うので、結局人間が日光を必要としている事は確かなのだが。


 ともあれ、こういった様々な事情を考えた結果、俺が最終的に下した決断は先程まで想像していたものとは随分と異なったものだった。則ち、事前に用意した候補地が悉く没になった為に、仕方が無く俺がこの本達の保管場所として選んだのは、この和室にあるもう一つの謎のスペース、つまり謎の掛け軸と壺が飾られている空間だった。


 とはいえ、その様な物が飾られている場所に漫画などを置いてしまえば、無論それらが醸し出す雰囲気は台無しになってしまう訳だが、どうせ大した価値がある物でもないだろうし、そもそも俺はその手の装飾品が生み出す雰囲気よりも、様々な道具や設備が持つ機能美を大切にするタイプの人間なので、この空間も有効に用いた方がよりその魅力を増すというものだろう。


 という訳で、結果的には先程の事前の検討はおろか、その後の現地の視察も含めて全てが無駄な時間となった訳だが、無事にこの箱の中の本達を置く場所が決まった事で、俺は漸く自らの胸を撫で下ろす。いや、実際にそういった動作をした訳ではないのだが、それが決まればこの一連の荷解きという作業も終わった様なものである為、一つ肩の荷が下りた様な感覚を覚えた事は確かだった。


 なお、確かに今回の作業には無駄な行動が多く含まれてはいたのだが、それはあくまでも結果的に見ればそうだ、というだけであり、俺はこういった道中の試行錯誤が本当に無駄だと思っている訳ではない。いや、先の事前の検討の時点で既に箱を持ち上げていた事の様に、無論その中には実際に無駄でしかないという事も無いという訳ではないのだが、そうではないものについては、きっと今後の人生の何処かで役に立つ事もあるだろう。


 尤も、その時が永久に来ないという可能性も無論十分にあるのだが、そんな事を言い出したら全ての技術や知識についても同じ事を言えてしまうので、そう信じておくのが人として正しい選択であるのだろう。少なくとも、今回のそれに限らず数多の失敗を繰り返して来た俺としては、その様に思わなければやっていられなかった。

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