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第66話「史上最高の発明品はティッシュだと思う」

 ともあれ、二者択一に正解した事は確かであるので、俺は首を軽く横に振る事で強引に気を取り直すと、その荷物を持って洗面所の方へと歩き出す。尤も、その行為によって若干の乗り物酔いに似た症状が出ていた上に、先程湧いて来た疑問も未だ胸中で燻り続けてはいるのだが、こうして動き出せただけでもその試みは成功だったと言えるだろう。


 なお、先述の二つの理由についてだが、確かにそれが行動の決め手となりはしたものの、どちらも大した理由という訳ではなかった。というのも、一つ目は中身が分かっていればその処遇も直ぐに決められる為というだけであり、二つ目もその謎が解ける事、則ち箱の中身を知る事で自らの精神に何らかの影響が生じる事を懸念した為というだけである。要するに、何れも作業全体の効率の為と言い換える事が出来る、極々つまらない理由に過ぎなかった。


 まあそれはさておき、洗面所、兼脱衣場へと辿り着いた俺はそこで例によって素手でその荷物を開封すると、やはりその中身は概ね予想した通りの物、則ち様々な日用品の数々だった。つまり、昨日はこれを車に忘れた所為で俺は無駄に精神を酷使したという訳だが、それも今となっては楽しい思い出である。いや、流石にそうするには早過ぎる上に、自身の失敗を美談にしようとするなと言えば何れもその通りではあるのだが、実際にその出来事を悪くないと思っている事もまた確かではあった。


 ともあれ、俺は公開されたその箱の内部を見て真っ先に目に入った謎のビニール袋、いや当然その中身を俺は知っているのだが、兎に角その袋を手に取ると、ひどく簡単な結び目を解いてその中身を確かめる。当然ながら、その中身は俺が予想した通りのボディタオルや石鹸の類であったが、事前にそれを知っていたにもかかわらず、その処遇に関しては俺も即断をしかねた。


 というのも、昨日の風呂場での経験から考えてもボディタオルを用意する必要があるのは明白なのだが、どうせこの後に歯ブラシの類を買いに行く予定があるのだから、ついでにその類、則ち風呂場にて使用する品々をも折角の転居という事で一新するというのも、心機一転を試みるのであれば悪くない選択にも思えたのであった。


 いや、別に大した値段がする物でもないのだから、そういう事であれば特に迷う必要は無いという話ではあるのだが、俺の長年の貧乏生活、或いは両親の教育により培われた倹約の精神、もとい貧乏性がその即断を許してはくれなかった。


 しかし、結局は心機一転勢がその世界一下らない戦いの勝利者となり、俺はそのビニール袋をそのままゴミ袋として使用する事にする。だが、それでも長年の間に培われた精神が完全に失われたという訳ではなく、俺はその中身の内の石鹸等の消耗品をそこから取り出すと、風呂場内のあるべき場所へと配置する。


 尤も、ボディタオルだって立派な消耗品ではあるのだが、まあ言いたい事は何となく伝わるだろうから良しとしよう。なお、更に言えばその結果最終的にその袋に残されたのはボディタオルだけである為、どちらかと言えば勝利したのは貧乏性の方な気がしないでもないのだが、まあ俺が完全にその機能を果たせなくなったり、推奨されている交換時期に入ってもいない物を買い替える事は非常に珍しい事は確かなので、この選択がある意味では画期的である事もまた事実だった。


 ともあれ、俺はその後もまた別のビニール袋を開封したりしながら、最終的には歯ブラシを含むいくつかの物を買い替える前提で先のゴミ袋に転生した袋へと放り込み、この場で出来る分の荷解き作業を完了させる。とはいえ、箱の中に残っているのは精々が消臭剤……という名の芳香剤を振り撒くスプレー位の物である為、それらを取り敢えずは洗面台上の空いたスペースへと置くと、俺はお役目を全うしたこの段ボールにも慈悲なる介錯を与える。


 なお、無論それはこの箱の荷解きも完了したという認識に基づいての行動だったが、その後にその潰れた段ボールとゴミ袋、そしてそのスプレーを持ちながら、台所と食堂を経由してリビングへと向かう道中に於いて、俺はその行為の正当性については疑問を抱かずにはいられなかった。則ち、まあ何れにせよ大した差がある訳ではないのだが、箱を潰すのはもう少し後で良かったという思いを抱いている事は否めなかった。


 ともあれ、そのゴミ袋を台所に、消臭スプレーを食堂のテーブルの上に、潰した段ボールを既にリビングに積まれていた同じ物の上に置くと、俺は漸く最後の荷物、則ちその中身が今一つ定かではない段ボールの前に立つ。しかし、遂に訪れた先の疑問を解消する機会にもかかわらず、何故かそれを開封する事にはどうにも気が進まなかった。


 とはいえ、その疑問の解消については兎も角、その荷物をどうにかしなければこの一連の荷解きという作業は終わらない為、俺は意を決してその段ボールの開封に取り掛かる。だが、その気の進まなさの所為か、その開封はこれまでの他の荷物の時の様な豪快な、もとい乱雑なやり方ではなく、妙な程に慎重な作業になっていた。尤も、結局は素手での作業である事には変わりない為に、寧ろその勢いの無さはテープの切り口をより複雑な断面にするだけなのだが。

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