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第52話「友人も恋人も何時になっても努力次第で作る事が出来るが、幼馴染だけはそれが出来ない」

 その俺の魂の……もとい心からの叫びを理不尽にぶつけられた若菜は、暫しの間その驚いた表情のまま固まっていたが、やがて小さく微笑むと同時に徐に口を開く。


「……何それ? それじゃあ、私が物凄く身勝手な女みたいじゃない? 内心でどう思っているかはともかく、そんな勝手な事を言ったりしないよ? ……もう子供じゃないんだしね」


 そして、その俺の叫びの内容への不満を口にするが、その内容とは裏腹にその口調は随分と穏やかな、かつて俺がその声を散々耳にした頃のそれそのものだった。それはその言葉の、則ち「口調」のもう一つの意味についても同様であり、俺の失敗に端を発した妙な……幼馴染にしては、という意味での丁寧な口調でのやり取りはそこで終わりを告げた。


「そうか? 俺の目には昔と何も変わってない……とまでは言わんが、そんなに変わっていない様に見えるけどな」


 その事に、則ちかつてと同じ様なやり取りが出来る様になった事に、それこそ身勝手な安心を覚えつつ、俺はその若菜の自虐的な言動を否定する。それはまあ、女性は男性よりも年齢を重ねた事を気にするものなのだろうという気遣いでもあるが、概ね半分程度は本心からの言葉でもあった。


 いや、再会当初はくたびれた印象を受けたとか言ってたのは何処のどいつだという話ではあるのだが、実際には別人であったとはいえ、流石に直前に本当に変化していないかの様な姿を目にしていてはそう思うのも仕方が無い事だろう、という事にしておいて欲しい。


「……そうかな? ……って、そんな訳無いよね、二十年も経っているんだもん。まあ、たっくんの方は実際にあんまり変わってないみたいだけど」


 その俺の言葉を聞いた若菜は一度は照れた様な表情を浮かべるが、やがてお世辞だと判断したのかそれを否定すると、そのくせ人の事には同じ様な言葉を返して来る。まあ、実際に年齢による変化は、少なくとも外見に関しては、多くの場合男性の方が比較的緩やかではあるのだが、果たしてその様な意味での発言なのかは俺には分からなかった。


「……それは褒めてるのか? まあ良いや。それで、何の用なんだ? こんな朝から」


 それ故に、俺は若干の間を置いてからその意図について尋ねるが、その答えを待つでもなく即座にそれを棚上げにすると、そう言えば、と頭に浮かんだ疑問を代わりにという訳ではないが素直に尋ねる。その言葉……に限らず、俺から若菜への言葉は我ながら全体的にやや冷たくも感じられるというか、不愛想にも聞こえるとは思うが、まあ昔から大体こんな物である。尤も、無論それは実際に相手をその様に思っているからという訳ではなく、寧ろその逆であるのだが。


 則ち、かつて、それこそ幼少期と呼ばれる頃に照れ隠しから話し始めた口調が、今日に至るまで半ば習慣と化して続いているというだけなのだが、無論そんな事は本人には言える筈も無かった。まあ、当の本人はとっくに気付いているのかもしれないが、それを確かめる事も無論同様に出来る筈も無かった。


「さあ、どっちでしょう。それよりも、折角二十年振りに帰郷した幼馴染のお家にも、私は用が無ければ来ちゃ駄目なのかな?」


 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、若菜がその俺の質問にやや悪戯っぽい口調で答えると、俺はやはりこいつも大して変わっていないと確信する。というのも、春菜との比較の際にも思ったが、それこそつい先程までの様に、普段は他者に対していつも控えめで温和な性格なのに、何故か俺に対してだけやたら当たりが強いというか何というか、こういう事を言って来るのである。


 まあ、別に全くもって嫌という訳ではないし、だからこそ俺は今でも特別な関係だと、少なくともそうだったと信じていた訳だが、この言葉にそれが間違いではなかった事を実感する。尤も、当然ながらその「普段」というのはあくまでも俺が目にしている範囲での事なのだが、若菜が俺の存在に気付いていない

であろう時でもその態度は変わっていなかったと思われるし、誰かとのやり取りに不自然さを感じた事も無いので、恐らくはこの認識に間違いはないだろう。


「……まあ、俺は暇だから、もとい時間に融通は利くから別に構わんが、そっちはそういう訳じゃないだろ? 何か用があって来たんじゃないのか?」


 ともあれ、その例によって為された余計な思考の影響でやや間を空けてではあるが、俺はその若菜の意地の悪い質問にも素直に、少なくとも俺にとってはその様に否定の答えを返すと、概ね先程と同じ内容の質問を敢えて改めて若菜へと投げ掛ける。実際に、少なくとも自身と春菜を養う必要がある事を考えれば、まあ俺の様な自由な、もとい自堕落な生活をする事は難しいだろう。


 なお、かつてと同じ様なやり取りを出来る様になった、とはいうものの、やはり二十年の歳月は伊達ではないというか、実際には多少当時とは異なっている部分も存在している。とはいえ、それは別にぎこちなさがあるとかそういう類の事ではなく、ただ単純に俺の若菜への呼び方の一つが変わっている、則ち俺は若菜を「お前」呼ばわりする事が出来なくなっているという事である。


 いや、つい先程めちゃくちゃそう叫んでいただろうという話ではあるのだが、あれは勢いでつい口から出てしまったというだけであり、凡そ二十年という月日により培われた俺の女性への丁寧な態度、もといコンプレックスはもう俺にその言葉を使わせてはくれなかった。尤も、別に俺はそれを悪い事だと思っている訳ではなく、偉そうな言葉を使わなくなった事は俺の数少ない成長した要素だと思っているのだが。

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