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第31話「負の螺旋(デフレスパイラル)」

 ともあれ、その二本目の動画の再生が終わった時、丁度世界の探索……という名の小さな画面での作業に疲れを感じて画面上の時計に目を遣ると、丁度丑三つ時……つまり午前二時過ぎを指していた。そろそろ執筆作業に戻るべきだろう、とゲームと動画サイトの双方を閉じると、再度温いお茶を少量コップに注ぎ喉を潤す。なお、単に数字を表示しているだけなのだから、指すという動詞は不適だとは思わなくもないのだが、実際の所はどうなのだろうか。


 素直に考えるのであれば、例えば明かりを灯すという言葉も当初は火を点けるという様な意味合いだったと思うが、かつて電気を用いる様になった時には未だ高熱を伴う物だったから良いとしても、LEDが主流になった現在でもその言葉は誤用とは見做されないと思われるので、機能は同一であるデジタル時計でその動詞を用いても特に問題は無い様には思える。


 まあ、実際の所は例に挙げた方からして知らないのだが、いずれにせよ眼前の機械を用いれば瞬時に調べる事が出来ると分かっていても、ある意味不思議な程にそれを調べる気にはならなかった。少なくとも、仮にも文章を仕事にしている人間としては知っておいて損は無い事なのだが、恐らくはだからこそ、それを調べる事に難色を示しているのだろうという予想は付いた。


 いや、自身の選択なのだから手前が知らなければ誰が知っているのかという話なのだが、論理的な思考に基づいて為された選択であるならば兎も角、感情的、或いは衝動的な行動の理由が自身でも良く分からないという事は、良くある事である……と少なくとも俺は思っている。尤も、人生の殆どの部分を一人で過ごしている俺には、それが事実かは確かめ様も無い事なのだが。


 ともあれ、良く分からない筈なのに何故予想が付いているのかは兎も角、何故文章を仕事にしているからこそ調べる事に難色を示したかという事だが、簡潔に言えばプライドの為だろう。則ち、仮にも文章を仕事にしている以上、こんな簡単な問題を調べるという事は恥ずかしいだとか、調べた結果自身の認識が誤っていた場合には尚恥ずかしいとかいう事を思った結果、そのプライドを守る為に無知のままでいる事を選んだ、という訳なのだろう。


 などと、あたかも他人事の様に語っているが、無論実際にそれを選択したのは自分自身に他ならない。つまり、これらの言い訳は恥の上塗り以外の何物でもないのだが、時には真実よりも納得出来る答えの方が大切な事もあり、あくまでもそれが無意識の行動であると思う事で救われる人間も居るのである。


 何はともあれ、そうして自身を納得させた俺は先程八割程度は終わらせた、本日投稿分の執筆作業を再開する。尤も、その八割というのはあくまで投稿する分量に対しての比率であり、その後の推敲や校正も含めればもう少し仕事は増えるのだが、まあ無から有を生み出す作業に比べれば屁の様なものだろう。無論、文字数が多ければその限りではないのだが、幸いにもこの作品の一日の投稿分の文字数は然程でもない。


 しかし、それが幸いである事は確かなのだが、気分良く仕事に戻った俺を突如としてその逆の現象が襲う。則ち、無駄に作業の間隔を空けた事が原因なのか、或いはその時間の使い方が不味かったのか、それともその前後にしていた思考の内容による影響なのかは定かではないが、先程までの執筆の調子はすっかり失われ、俺は一転して一文をひり出すのにも苦労する状態になってしまっていた。


 更に、その現象には当然ながら自身への怒りを初めとした負の感情が伴い、その理由が分からない事や過ぎていく時間は困惑と焦燥感を次々に生み出す。そしてその結果、それらの負の感情や困惑が更に作業の進捗を遅らせ、その遅れが更なる負の感情と焦りを生み出すという負の螺旋が完成してしまうのだった。


 だが、その様な一見すると非常によろしくない状況に於いても、多くの場合は僅かな救いが残されているものであり、今回もその御多分には漏れていなかった。則ち、本当にそれが救いであるかという事には一定の再考の余地はあるが、俺はこの様な負の螺旋とは一定の付き合いがある為に、この状況にもそれなりには慣れていた。


 尤も、その多くの場合は睡眠不足による影響、則ち睡眠不足故の思考力の低下により執筆の質が落ち、それにより作業に掛かる時間が延びた事により、睡眠の時間が更に削られて行くというパターンなのだが、今回の場合はそれがより短いサイクルで起きているというだけの事である。


 とはいえ、此方は紛れも無く救いであるのだが、何だかんだ言っても既に分量の八割は書き終えていた事は事実である。そのお陰により、俺は苦しみながらも何とかそこまでは時間を要さずに本日分の執筆作業を終える事に成功し、一度両腕を下ろして大きなため息を一つ吐く。


 まあ、未だその書き終えた文を見直す作業が残ってはいるのだが、その作業の実際の出来の良し悪しは兎も角としても、経験的にその事にそこまでの苦労をした記憶は無いので恐らくは大丈夫だろう。少なくとも、そう思わなければやっていられない事は確かだった。

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