表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/265

第30話「世界で唯一どんな存在にも平等なのは時の流れだけである、とは言うものの実際にはそうでもない気はする」

 などと、下らない思考に脳のリソースを割きながらであるものの、画面上には意外な程すらすらと文章が紡がれていく。まあ、今回の話は大まかな流れが既に決まっていたという事もあるだろうが、この様に苦労せずに作業が進むのは最近では珍しい事なので、やはり仕事の面から見ても今回の転居は悪くない選択であったのかもしれない。


 なお、つい先程紹介した自身の執筆方法と早速矛盾している様にも思えるが、一つ一つの部分をぶっつけ本番で書いているとしても、というよりもその様にしているからこそ、前回からの流れによりその回の内容が殆ど自動的に決まる事があり、今回もその類の理由により俺の意思にかかわらず既に書くべき内容は概ね決まっていたという事である。


 ともあれ、恐らく大体の人間がそうであると思われるが、自身の仕事が上手く行っている時には気分が良くなるものであり、俺は仕事中という条件に限れば本当に久し振りに楽しさを感じていた。尤も、この作品については直接的に原稿料等が支払われている訳ではない為、真の意味では仕事と呼んで良いものかは諸説あるのだが、まあ仮にも小説家が小説を書いているのだから、そう呼んでも特に差支えは無いだろう。


 だが、そうして快調に執筆を進めていた訳だが、そのまま早めに完了してめでたしめでたし、とはならないのが悲しい事に俺という人間である。則ち、このまま行けばかなり余裕のある時間に終わるという見通しが立った為に、そこで夏休みの宿題をギリギリまでやらないマンがその姿を現した結果、俺は折角最近では珍しく調子良く進んでいた作業を一時中断し、ある程度の時間が経過するまで他の事をして時間を潰す事にしてしまうのだった。


 とはいえ、流石に転居前、則ち昼夜が完全に逆転していた頃と同様の時間までそうするつもりは無いのだが、開始から一時間程で作業の八割以上を済ませる事が出来たとなれば、多少の余裕を見せたくなるのも仕方が無いというものだろう。いや、世間一般や他の作家の先生方がどうかは分からないが、少なくとも俺にとってはそうなのである。


 という訳で、俺はその作業を進めているブラウザにタブを追加すると、先程とはまた別の動画投稿サイトを開いて最新の投稿作品をチェックする。先程のサイトとは異なり、そのサイトでは自身がお気に入りに登録したユーザーの動画のみが表示されているのだが、既にその大半は視聴しようとも思えなくなっていた。


 その事実、つまり俺の好みやそれらの投稿者の動画の質が変化する程の長い時の経過に軽く眩暈を覚えつつ、その中から未だ十分に興味を惹かれる物を選んで再生すると、例によって機械音声が流れ始めた事を確認し、スマートフォンを手に取って再度例のゲームを起動する。既にそのゲームでのやる事は終わったとは言ったものの、それは短期的に見て今日の内にやるべき事という意味であり、長期的に見れば未だやる事は腐る程に残っていた。


 いや、やる事が腐る程残っているのは仕事に関しても同様なのだが、何度も言うが転居という人生の一大事を済ませた当日位は、そういった事は忘れて休んでいたいと思うのが人情というものだろう。尤も、こうしてかつて過ごした自然溢れる地に帰還した為か、その過ごし方がこの様な方法に限られるという事には何とも言えない若干の寂しさの様な感覚を覚えない事もないのだが、いずれにせよ現時点では出来る事は他には無かった。


「は? 何だこのクソゲー。こんなん普通にやったら取れる訳無えだろ」


 という訳で、至極現代らしい方法で余った時間、厳密には折角余らせる事が出来た時間を潰していく内に、やがて宝箱を入手する為の妙に難しいギミックに苦戦した俺は、思わずその事に口汚く文句を言う。それは四十手前の良い大人の姿では無いかもしれないが、まあ俺は自身を良い大人だと思った事など無いのだからギリセーフと言った所だろう。


 ともあれ、そうしてスマートフォンの小さな画面の中で広大な……とはいえ精々現実で言えば広めの町程の広さの世界を探索している内に、同時に流していた動画は再生を終えていた。先程考え事をしていた時とは異なり、一応はその内容も把握してはいたものの、殆ど画面を見ないままに再生を終えた動画には、それを視聴した意味があったのかと思わずにはいられなかった。


 尤も、画面を凝視し続けていなければならなかったり、台詞を一言一句聞き逃してはならないアニメ等の作品とは異なり、この様な流し見でも全く問題が無い手軽さこそがこの様な動画の利点であると俺は思っているのだが、それでもこうしていつの間にか動画の再生が終わっているという状況になる度に、その様な自問自答をせずにはいられなかった。


 とはいえ、この様な作業に近い内容のゲームプレイをしている時には、今更それだけに集中しようとは思えない身体になってしまっている俺は、その様な疑問を抱えながらも次の動画を再生し始める。多くの時間と労力を割いて作った動画がこの様な見られ方をしている事を作者が知ったらどう思うのか、などという事をふと思うが、昔の様に各人が趣味でやっていた頃ならば兎も角、それが金になる様になった今となっては、再生数さえ増えれば最早そんな事はどうでも良い事なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ