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第22話「雨の中で傘を差さぬ自由がある様に、人には永遠の一人相撲に興じる自由がある」

 という訳で、未だ二階には足を踏み入れていない部屋がもう一つ残されているのだが、その様子を確かめる事よりもその衝動を優先して今居る部屋を後にすると、階段を勢い良く降りて風呂場へと向かう。なお、この家の階段はそれなりに急な角度を誇っているのだが、下の方の一部を除き手摺の様な物は用意されていない為、そんな所にも時代を感じずにはいられなかった。


 ともあれ、先程の着替えの不手際によってバスタオルが脱衣場に残されている事は覚えていたので、その道中に於いては特に寄り道をする必要も無くその前へと辿り着くと、その勢いのままに服を脱ぎ捨てて再度風呂場へと一気になだれ込む。


 やはり、物事は一つの視点からだけでは判断出来ぬものだ。こうして一度は不手際だと断じた行動が後になって自身の為になった事に、未だ先程使用した際の湿気が残されたじめじめとした風呂場の空気の中でその様な事を思いながら、先の探検によって付着した埃を流す為にお湯……になる前の水をシャワーから出し始める。


 そして、やがてそれが十分な温かさを手にしたと判断すると、少し考えてから再度そのお湯を思い切り頭から被る。つい先程に一度はシャワーを浴びたばかりである為、あまり本格的にそれを繰り返す事は何となく憚られたのだが、流石にあの埃の嵐を浴びたままの状態で居る事には耐えられなかった。


 とはいえ、まあシャンプー等の薬品……とまでは言わずとも化学物質をあまり使用するのも皮膚には良くないとは聞く為、あくまでもお湯のみによって身体を上から順に洗い流していく。そして最後に、一連の冒険によって特に汗を掻いた脇だけは石鹸を用いて洗うと、今度はリサイタルを開く事も無く身体をもう一度お湯で洗い流し、例によって湯で濯いでから絞ったタオルで手早く身体の水気を取ってさっさとその場を後にする。


 斯くして、早くも帰郷後二度目となった風呂から足早に上がると、そういえば足拭き用のマットが残されたままである事に漸く気付き、両親の配慮、或いはものぐさに再度心の中で感謝する。その何れが正解なのかは当人達に訊かぬ限りは分からないが、その当時には気にしてはいなかったものの、先程の二階の部屋の埃の溜まり具合を見る限りは後者の様な気はしないでもない。


 尤も、俺自身も先程の二階の探検は久し振りの帰郷故に折角だからと行っただけであり、生活自体には一階のみで十分に足りるだろうと考えているのだから、二階が手付かずである事自体は何も不自然ではないのだが。


 強いて言えば、立つ鳥跡を濁さずという様に、転居の際位には全体的に掃除をするという人も少なくないとは思うが、直ぐに次の入居人が来る事は分かっている上にそれが自分達の息子であるのならば、やはりわざわざ気を遣わない事も自然な事だと思えた。


 などと、気になるならば本人に尋ねれば済む事をいつまでも考えていても仕方が無いので、その場に放置されていたバスタオルで更に念入りに身体の水気を拭き取ると、その場に脱ぎ散らかされた衣服を眺めながら自身の今後についてを考える。


 尤も、仮に今から実際にその事を尋ねたとしても、両親の性格的にそれに正直に答えるかは正直五分五分といった所なのだが、その事についてをこれ以上考えていても仕方が無い事は確かな為、その思考の切り替え自体は単一の視点からでも十分に正解だと判断出来るだろう。


 ともあれ、そうして思考を切り替えて「自身の今後」についてを考え始めた訳だが、それは別に将来の身の振り方という意味ではない。寧ろごく直近の未来についての事であり、則ちその衣服をそのまま再度身に着けるか否かという事を、敢えて大仰な言葉を使用して表現したのだった。まあ、これが学術的な論文でもあれば明らかに不適な表現ではあるのだが、俺は仮にも作家であるのだから、この程度の言葉遊びは本業の様なものだろう。


 という訳で、その事について暫しの間考えた結果、やはり流石に先程の短時間の着用で洗濯に回すのは惜しいという事になり、俺は床の衣服を両手を用いて良い感じに掴むと、そのまま再度風呂場への扉を開け放つ。そして両手に持った衣服を未だ温かさを保っている湿った空間へと突き入れると、両手を狂った様に上下に振り回し、付着した埃を飛ばす事を試みる。


 腰に巻いたタオル以外は何も身に着けていないという風貌もあり、傍から見れば理解し難いであろうその行動を暫し続けた後、まあ十分だろうと判断した俺はそれらを再度脱衣場へと引き込んで扉を閉める。そして両手に持った衣服に取り敢えずは目に付く様な汚れは無い事を確認すると、先ずは下着からそれらを順に身に着けていく。流石に手馴れているその行為は直ぐに済み、俺は再度休日を楽しむ為の完全な状態へと返り咲く。


 だが、既にやる事が残っていないという事は先程から何も変わってはおらず、あと一つの部屋には先程のロフトの様な場所は無いとはいえ、流石にさっきの今でもう一度二階の探索に行こうとも思えない為に、いよいよその休日を楽しむ方法にも窮する事になってしまっていた。


 しかし、どうしたものかと思った時、丁度偶然に俺の身体が催した行為により、その問題は一気に解決へと向かう事になる。則ち、このやる事にも窮する状況に退屈を感じた為かは分からないが、俺の身体が無意識に欠伸をしてくれたお陰により、そもそも今日は寝不足だった事を思い出した俺は暫しの仮眠を取る事にするのだった。

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