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第20話「思いを言葉に変換する際、失われる情報は如何程か」

 しかし、そうして再生され始めた動画の内容は概ね先程の物と同様の構成、則ちゲームのプレイ画面を中心にデフォルメされたキャラクターが話すという体の機械音声による解説が付いた物だったが、それに対してその先程の物の時程には興味を惹かれる事は無かった。


 やはり、或る作品に触れた時の人間の感覚、或いは評価というものには純粋な面白さだけではなく、例えば野球好きの人間なら野球ゲームが面白いと感じる様に、その受け手側の興味などが多分に影響する様だ。というよりも、敢えて極論に近い事を言うのであれば、そもそも「純粋な面白さ」などという物は存在し得ないのではないかとさえ思えるが、まあ偉い評論家の先生などであればそれを見出す事も出来るのだろう。


 などと、その動画をぼんやりと眺めながら職業柄とも言える思考を展開していくが、その結論から分かる事は俺にとっては悲しい事実だった。則ち、読者の興味によって当人にとっての面白さが変動するのであれば、やはり多くの人間が興味を持つ物を題材にすべきという事になり、それは現在の自身が不本意に感じている「売れる為の作品作り」の正しさを証明する事になってしまうのである。


 尤も、俺自身もそんな事にはとっくに気付いており、少なくとも俺の様な弱小作家に関しての話ではあるが、その方法が商業的に正しい戦略であるという事には異論の余地も無い。だが、単に金を求めるのであればそもそもこの職にしがみ付く必要も無く、かつての自身が夢に見た事を否定しない為には、いつまでもその方法に頼っている訳にもいかない事もまた確か……ではあるだろう。


 という様な事を考えている内に、気付けば眼前のディスプレイに表示されているゲームのプレイも佳境に入っており、いかにも最後のボスといった風貌の敵キャラクターと主人公が激戦を繰り広げていた。伴ってキャラクターの会話を模した機械音声の内容も盛り上がっていたが、やはり特に思い入れの無いゲームである為か、或いは考え事をしていた為に途中の内容をしっかりと視聴していなかった故か、はたまた先の思考により微かに燻り始めた創作意欲の影響によるものか、俺にはその動画の内容が妙に退屈な物に感じられていた。


 やがてゲームが感動のエンディングを迎えてもそれは変わらず、その事への微かな祝福だけを胸中に抱きながら俺はその動画の終了を見届ける。先程の動画の際とはあまりにも異なるその自らの反応に、やはりゲーム等の何かしら別の暇潰しも必要かと感じると、それが無い現状では最早次の動画を再生しようとも思えなかった。


「あ、そうだ。そう言えば未だ行ってないし、ちょっと二階も見て来てみるか」


 となれば、次の行動の候補に挙がるのは必然的に先の思考により湧き始めた創作意欲を満たす為の物となるのだが、それは俺にとっては則ち仕事という事になってしまう。その意欲を抱いているのは紛れもなく俺自身ではあるのだが、折角の貴重な休日が早くも終わりを迎える事は流石に御免なので、それを誤魔化す様にそう呟いて椅子から立ち上がる。


 とはいえ、それは急な思い付きではあるものの、その思い自体はこれまでも無意識に抱いていた様で、その方向へと向かう俺の足取りは軽かった。無駄にガラス付きで音を立てがちなリビングと玄関を繋ぐ扉を一気に突破すると、直ぐ左にある階段の電灯のスイッチを入れてそれを一段飛ばしで上って行く。その時点では二階の各部屋には電灯が灯っておらず暗いままなので、かつてはそれを上がる事に何となく恐怖を感じて足取りが重かった事を思い出すが、今となってはその道中はひどく短い物に感じられた。


 尤も、歳を取っても俺が臆病である事は変わらない為、階段を上がって直ぐ左に見えた扉を開けた先の洋室の暗さには多少なり恐怖を覚えずにはいられなかったが、流石にそれで尻込みをする様な事は無かった。直ぐに右手前側のスイッチでその部屋の灯りを点けると、そこには懐かしい様な、それでいて新鮮な様にも感じられる光景が広がっていた。


「……へえ」


 というのも、その洋室は紛れも無くかつて俺が過ごしていた部屋ではあるのだが、その内装というか、物の配置等はその頃とは随分と異なった物になっていた。その変化に思わず感嘆の声を漏らしつつもその具体的な変化を見てみると、かつて両親から贈られた数々の玩具が無造作に入れられていた籠等は既にその姿を消しており、それらが占めていた空間が開放された為に、その部屋は当時よりも随分と広い様に感じられた。


 尤も、その光景はこれまでに帰省した際にも何度か目にしてはいた筈なのだが、その頃は此処は親父の私室となっていた為に少し外から眺めた程度だったので、こうしてまじまじと眺めるのは本当に久し振りなのである。というよりも、住んでいる自室をそうする事など普通は無いのだから、もしかしたらこれが生まれて初めての事かもしれなかった。


 ともあれ、例によって特殊な間取りだったその部屋の全貌を見る為に更に奥へと足を踏み入れ、そこから左側へと向き直ると、俺はその景色の当時とのあまりの変化に思わず息を呑む。そして同時に何か喪失感の様な感覚を覚えると、見間違いを疑ってやや薄暗いままのそちら側の空間の照明のスイッチを入れるのだった。

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