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第17話「ない物ねだりを恥じる事は無いだろう、それが人間の本質であるのだから」

 とまあ、白々しい自己弁護をしてはみたものの、その事実に心から納得している訳ではない事は俺自身が最も良く分かっていた。確かに、運にも恵まれて一応は作家として生計を立てている……いや、家賃を払うのも苦しくて実家に戻る様な状態をそう出来ていると表現して良いものかは怪しいものの、兎に角その道で収入を得てはいるのだが、少なくとも現状を夢が叶ったと思ってはいない事は、改めて自身の心に問うまでもなく自らの行動が証明していた。


 いや、無論当初はその様にも思っていたし、書籍化が決まった時などは一人で夜通しパーティーを行った位には喜んだものだったのだが、夢も叶ってしまえばただの現実だとは良く言ったものである。無論、そのデビュー作が売れなかったのは自身の実力不足の為に他ならないが、編集者の助言という名の物語や設定の改変や、自身の作品への納得よりも優先される売上の為に流行の要素の混入を受け入れていく内に、気付けば自身もそれらに迎合した作品を生み出す事に慣れてしまっていた。


 尤も、それでも大して売れていないからこそ家賃の支払いにさえ困窮する様な状況になる訳だが、かつての文学少年が夢に見たそれと、漸く夢が叶った筈のその頃の……引いては現在の俺自身の状況が、あまりにも似ても似つかないものである事は確かだった。


 夢を叶えたら迎えに来る……などとそこまではっきりと口にした訳ではないが、自身の精神的に、そして経済的にもその様な状態では、とても胸を張って誰かに報告をする事などは俺には出来ず、気付けばもう白髪交じりのおっさんになっていたという訳だ。


 まあ、それでも結局は両親の転居を口実におめおめとこの地に戻って来たのは周知の通りなのだが、家賃の有無による経済的な余裕の差という最も尤もらしい理由を措いても尚、そうするに値する理由が無かったという訳ではない。


 無論、自身の精神がいい加減に限界であったという事や、理由を付けて若菜にまた会いたかったという気持ちが無かったとは言わないが、そうしなければかつての思い出が詰まったこの家を売却するかもしれないと言われれば、自他共に認める感傷的な性質の俺としてはこの地に戻らざるを得なかったのである。


 ともあれ、こうして何となく自身の過去を振り返っていると、気付けば起動したゲームはその開始時の画面のまま穏やかなBGMを垂れ流しており、先程動画を再生し始めた筈の画面は関連動画を表示するのみになっていた。その状況に「自他共に認める感傷的な性質」である俺は苦笑いを浮かべると、ゲーム画面に指で触れる事で次の画面へと遷移させると共に、その動画をもう一度最初から再生する。


 斯くして、今度こそ束の間の暇を楽しみ始めた訳だが、既にその楽しむという感情以上に或る疑問、とも呼べぬ程のクエスチョンマークが俺の胸中を占めていた。というのも、気付けば再生を終えていたその動画を改めて再生し始めた筈にもかかわらず、どうもその内容には見覚えというか聞き覚えがありありと感じられており、俺にはその事が妙に不思議に感じられたのである。


 とはいえ、その理由については深く考えるまでもなく、自身が無意識にその動画の内容を認識していたというだけの話である事は明白である為、再度それに頼らずに済む様に実際にそれについては深く考えない様にして、その見覚えのある動画とゲームへと意識を半々に割り振ってそれぞれを楽しんでいく。


 尤も、それが本当にそれぞれを楽しんでいるという事なのかは諸説あるが、そのストーリーを楽しむ時や集中が必要な難関に挑戦する時は兎も角としても、デイリークエストの様な半ば作業に近いプレイをする場合には、俺は最早同時に他の娯楽が無ければ耐えられない身体になってしまっていた。


 ともあれ、そうして別のゲームの動画を背景にそのゲームの日課をこなしていった訳だが、それを終えた時には未だ二本目の動画が丁度終わる頃だった。それにより、漸くこのゲームを自由に楽しめる時が来た、と言いたい所ではあるが、既にストーリー等の主だったコンテンツのプレイは概ね完了している為、もうそのゲームには特にやる必要がある事は残ってはいなかった。


 いや、無論厳密には未だ世界の隅々までの探索等、その気になれば莫大な時間を費やす事が出来るだけの要素は残っているのだが、プレイし始めて三年目にもなるゲームとなれば、既にそれ程の情熱を燃やす事は難しくなってしまっていた。


 つまり、あくまでも現状の俺にとってではあるが、現時点でこれ以上このゲームをプレイする意味は無くなったという事であり、それは暇潰しの為の片翼がもがれたという事を意味するに等しかった。尤も、また別のゲームも一応は現役でプレイしている上に、そのゲームは未だやる事が多々残っている為、本来であれば次はそちらのプレイに移れば良いのだが、その為に必要な諸々の全ての要素は、残念ながら未だ車に積まれた段ボールの中でその解放の時を待っていた。

念の為申し上げておくが、この作品は完全なフィクションである

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