柳の戦い
ダダダダン!ダダダダン!
どこに行っても火薬が炸裂する音しか聞こえない、硝煙の焦げ臭い匂いしかしない。辺り一面炎に包まれ、草木がその勢いをより一層強めている。ああ、彼らは敵なんだな。そうぼんやり思う。
戦地を駆け抜けハァハァと荒い息遣いをして基地に駆け込むが、自分よりも苦しそうな顔をした仲間たちに出迎えられ、無意識に呼吸を抑えようとしてしまう。
「伝令ですっ! ワクタカ基地が陥落しました! 被害人数は126人、内訳は怪我人50、死者76、被害無しは24名のみ!」
俺は自分の目的を果たし、寝袋に飛び込む。硬い地面と直接接している寝袋は、お世辞にも心地が良いとはいい難い。しかし長距離の移動で疲れ切った体は入眠に一切の躊躇がなかった。
目が覚めると朝の8時、次の基地へ行く出発時間は10時になっている。食料庫へ向かい、簡易食料を口の中に入れる。吐きそうになりながら腹の奥に押し込むが、栄養になっているのかしれたものではない。
着替えという概念はしばらく前に忘れてしまった。身だしなみなどを整える余裕は無い。着替える服なども無い。汗でじっとりとした帽子を再び被り直し、基地隊長の元へ向かう。
「柳伝令、次の基地までの情報伝達を全うし、再び戻ってこられることを祈っている。以上!」
声を張り上げて返事をし、俺は基地を出た。
森の中を走る。木々が体中にぶつかろうとしているのは分かるが、避ける気力がなく、ただぶつかるままに走る。足場に何があるかも泥だらけで判別がつかない。
はぁ、はぁ、口から漏れるのは荒い空気だけ。足の痛みをきちんと知覚できているかすら怪しい。肩から掛けている補給物資のの重みと、脳に刻まれている情報だけが、動きの原動力となる。
動きたくないという欲望は、前線で戦っている者たちのことを思い浮かべて掻き消す。
木々に躓いて転ぶのはこれで何度目だったろうか?数えることなどしていない。
立たねば、立たねば。立って走らねば。
はぁ、はぁ、はぁ……………タタタタン!
不意に火薬の炸裂音が聞こえたような気がして、体中の力が足一点に集約され、立ち上がる。辺りを見回すが敵の姿はどこにも見当たらない。幻聴なのか現実なのか、分からない。
俺は再び走り始めた。
「伝令です! コングル基地いまだ戦線を維持!被害23、内訳怪我人19、死者4!」
己の責務を果たし、コングル基地の寝袋よりは少しだけ柔らかいベッドで眠りに落ちた。
深い、深い、眠りだった。