完全魔法
「レティア王女、困りますこのようなお店で食事をとるなんて。ここは平民の‥」
おろおろとする召使の女。
「こういうところが一番うまいじゃない!ほら食べてみて、ワトリーニ鳥の丸焼き!やわらかくて、ジューシーでいくらでも食べられる!」
「しかし…」
「常日頃から私は疑っていたのよ、おいしい物は向こうから会いには来ない、会いに行かなくちゃいけないんだって」
召使の女性は小声で言った。
「もしエルディウム国の王女だということがばれたら、場合によってはとても危険な目にあるかもしれないんですよ」
「大丈夫よ。私の顔を知っている人はいないでしょ。それに魔法が得意なことを知っているでしょ。さぁ、次はあのアイスクリームに挑戦してみよう!」
王女はいくつものお店で好きなものを堪能して一息ついたようだった。
「しかし、エルディウム国とサリア国とのパーティは年一回じゃなくて毎日行うべきね、両国のためにもいいわ。友好関係が進むはずよ」
「そのとおりだ!」
男の声に王女は驚き、地上数十メートルはある橋から落ちそうになる。そこへ男は手を伸ばして助ける。その時、彼女の手がまばゆく光、それから男の腕が光り始めた。
「すまない、驚かせてしまったかな。ところで、これはなんだ?どうしたんだ?」
男は自分の腕をしきりに点検した。だがその光はすぐに体の中に吸い込まれて、消えてなくなった。
「やば、また何かしちゃったかも」王女は小声で言った。
王女はそれから男を気遣い、尋ねた。「ごめん、大丈夫?体調とか悪くない?急に胸が熱くなったとか」
「うーん。そうだな。さっきまで飯を腹いっぱい食ったから、ちょっと眠いくらいだ」
「あら、それは今の私と同じね」
「君は?」
「私はレティアよ。あなたは?」私がいうと召使の女は口を開き、手を口に当てた。顔を横に振って私になにかを合図している。
「俺?たまたまパーティを楽しみに来た般市民のトマスだ」
「あら、奇遇ね。私もエルディウム国の一般市民よ」
王女とその男はどうやら意気投合したらしかった。召使の女はほっと胸をなでおろし、小声で王女に耳打ちをした。
「だめですよ、王女様。名前を名乗ってはいけません。それにこのようなわけのわからぬ男とお知り合いになっては」
「固い事言いすぎるのよ、べつに話すだけなんだからいいじゃない」
「ところで、そろそろ戻られませんと・パーティがありますから」
そうだった。行かないとまた後でこってりと説教される。
「今から用事があるの、じゃあね」
「私もちょうど用事があったんだ。じゃあ、よいパーティを楽しんで」
エルディウム国とサリア国の王族が会合するパーティ。
両国の関係を危惧したエルディウムの今は亡き前の王がせめて互いの事を理解しようと設けた会合の場だった。
「パーティ?あれが?顔を隠して?互いにほとんど会話もしない。美味しいものを食べるわけでもないアレが?」
そもそも、王女は始まる前から召使の女に文句を言った。だが王室の者はみなベールをかぶり顔を隠した。王の手前、さすがにわがままはいえなかった。そして一言も発してはならないと召使の女にいわれているのだった。両国の関係は緊張しているから、と。つまり子供扱いされているわけだ。
「もとはといえば両国は一つの国、であれば領土は半々とすべきではないか?」サリア国のある王族が言った。
「君たちはこの場をなんだと思っている。こちらからの温情だぞ。そのような心構えだからこそ1000年前に国を別つこととなったのだ」エルディウム国のある王族が反論した。
「その際にわれらの領土は奪われ、東の端に追いやられたのだ」
王女は肘をついてきいていたが、そろそろ我慢の限界がきていた。
「あの、ちょっとよろしいですか?もっと仲良くすればいいんじゃないですか?そんな1000年も前のことをいつまで言い争ってもしかたがないんじゃないですか?」
そうすると、向かい側に座っていた男も言った。
「彼女の言う通りだ。今まさに私も言おうと思っていた。先を越されてしまったな」
「あれ、その声どこかで・・・」
王女は聞き覚えのある声が誰のものだったかを思い出そうとした。たしかに最近聞いた声であった。
「だまってなさい。とにもかくにも、もうこちらは我慢ができない。申し訳ないがこれ以上の話し合いは無駄だ。このような会合には何の意味もない、解決に繋がらない。我々は貴国との戦を行う覚悟だ」
両国の王族がざわついた。
エルディウムの王が言った。「そうか、それはとても歓迎すべきことだな。サリア国の終わりをこの目で見ることができるのだから」
エルディウム国とサリア国の戦争が始まった。エルディウム国ははるか昔から伝わる魔術の伝承による、秩序の取れた戦いが得意であった。サリア国の主戦力は獣と魔法の一体生物であり、エルディウム国も知らない新しい魔術を使った。当初二国の戦力は拮抗していたが次第に混沌としてきた。サリア国の魔法生物はコントロールができないものが増え始めた。エルディウム国は末端兵の消耗が速すぎて、その家族を含む民衆が不満の声を強め、デモが各地で発生していた。
エルディウム国には500年に一度の能力を誇る魔術師オルカがいた。彼は王族の直下で群を指揮する身であり、実質的な軍隊の最高責任者であった。そして彼の力をもってしても戦局を変えるには至らなかった。どれほど一人で魔力が強かろうが、やはりただ一人では無力であった。
王女と男は混乱の中で、その戦局の中でふたたび出会う。
「君が王女だったなんて」
「あなたこそサリア国の王子だったのね。それで、私たちにやれることはないかしら?といっても、民衆は怒っているし、獣は暴れてるしで、大変な状況だけど!」
「あるとも、これをみてほしい。二国の間にある中間地帯、これは今戦争が激化している場所ではあるが、ここに魔法が生まれた場所がある。そして言い伝えにあるのは完全魔法なるものがそこにはあると書いてある。これにより解決が可能かもしれない」
私たちは魔法が生まれた場所にたどり着いた。そこにはあらゆる古代の歴史が隠されていた。
「よくこんなところがいままで明らかにならなかったわね」
「ああ、魔物たちが救っていて、だれも近寄らなかったからな。でも今はこのように魔物たちもこの戦況の様子にかこつけて出払っている。今がチャンスというわけだ」
多くの事が分かった。
エルディウム国とサリア国の1000年前は一緒の国であった。当時のエルディウム王子とサリア王子は双子だった。サリア王子はもっと国を繁栄させるために魔物との共存を提案した。エルディウム王子はそれを否定した。エルディウム王子はサリア王子が作り上げた魔物生物の不慮の事故によって愛する女性を失った。エルディウム王は激怒し、サリアを領地の片隅に幽閉した。それがサリア国のはじまりであったのだ。
それから魔法についての記述もあった。魔法とは意思の強さによるとある。それが源になっているというわけだ。しかし、言い伝えにあった完全魔法などの記載は何もなかった。
王女は言った。「結局手立て無しか‥」
「そうだな。しかしよく考えてみてくれ、ヒントはある。なにも物事を解決するのはその魔法だけではない。人間本来がもつ強さ、つまり協力して助け合うという強さももっているということだ。考えてみろ、2国が手を合わせて頑張ればこの事態は十分解決可能だろう?」
「でも、それは・・」
「可能だ」
「そうね、さすがはサリア国の王子ね。やってみなくては分からない、いややるしかないよ!」
―
エルディウム王は言った。「そんな話は承認できない。私たちの誇りにかけても」
「誇り?一体だれのための誇りなの?苦しんでいる人々を前に何もしないの?二国の戦争をやめさせることのできない誇りなんていらない。人々を幸せにするというのは口だけ?私はかならずこの戦をとめて世界の人を救う」
「ならば仕方がない。魔導士オルカよ、この娘をいらぬことをせぬように封じておくように」
オルカと彼女は対峙することになった。オルカは彼女にとって幼いころからまなんできた先生でもあった。
「先生は今の私を止めることはできない」
なぜなら、魔法の源がなんたるものであるのかを理解し、そして、それを発揮させる必要があると理解しているから!
二人の力は拮抗した。周囲のものは驚き固唾をのんで見守った。
「何のために魔法を行使しているの?」
「この国のためだ」
「その国の王女は私だ!」
彼女の言っていることが崇高なのか、それとも、王のいっていることが崇高なのか。オルカは考えた末に、王女の前に立った。
「なんと愚かな。どういうことだ!」
「王よ、私は彼女の理想に付き合うことにした。理想を語り、それを実現させることこそが真の王であると思うからだ。さぁ王家の方々も選択されるべきだ」
サリア国の王子もまたサリア国王の合意を取り付けた。
二つの国の王女と王子は二国の戦争を中断させることに成功したのだった。
おわり。