89 はい却下!!
城へ行ってから数日後。
俺は学力テストのため、真面目に机に向かっていた。
シーラの事やらピアリの事でバタバタしていたが、ようやく平穏な日が訪れたと実感する。
城から帰った後も結構大変だったんだよな。
レイズとノノミリアにピアリの事件の顛末を説明したりとか。
いやー、あいつらも銀髪ピアリの姿には驚いてたよ。
そんでもって、ノノミリアはすぐに銀髪ピアリと女子トークで盛り上がっていた。
何気にノノミリアって、コミュ力が高くね?
そんな事を考えつつ、そろそろ休憩しようかと思った時、部屋のドアがノックされた。
「どちらさんですか?」
ドアを開けると、そこにいたのはケフィンだった。
こんな場所に彼が訪ねてくるなんて珍しい。
よく見たらゲンゲツさんとレイメイさんも後ろに控えている。
それにバツが悪そうな表情のレイズとノノミリアも。
これはまた大勢で。
「わざわざどうしたんですかね?」
「すまない。リョウヤ君達のパーティーに迷惑を掛けたようだ。今日はそのお詫びに来た」
いきなりケフィン達が頭を下げた。
「ちょっと待ってくれ、いきなりで話が見えないよ!」
取り敢えず、彼らから詳しい話を聞くためにみんなの部屋に移る事にした。
◆◆◆
丁度メンバールームでは、ロワりんのテスト対策でみんなが集まっていた。
改めてケフィン達から謝罪の理由を聞く。
「僕達がいなくても、レイズ達がした事はパーティーとしての活動だ。従ってリーダーの僕にも責任がある」
早い話がレイズとノノミリアが俺を地下ダンジョンに誘った結果、大ごとになってしまい、パーティー活動の無期限停止処分を受けそうになったという事で、ケフィンが責任を感じて謝罪に来たという訳だ。
まったく、変なところで律儀な奴だよな。きちんと手土産まで持ってきてるし。
レイズとノノミリアには事前に謝罪されてるし、そこまで謝らなくてもいいと思うのだが。
「それはもういいですよ。そもそも、ついて行った俺にも原因はあるのだし、むしろ俺も、アンこ先輩達に謝らなければならない立場ですし」
俺が先輩に顔を向けると、先輩が顔をブンブンと横に振って、とんでもないと言う。
「気になさらないでください。パーティー活動の謹慎も解けそうですし、セッキー君達が行動しなかったら、こうやってシーラさんとも出会えませんでした」
そう言って、先輩が隣で読書に夢中なシーラの横顔を見つめる。
何やら先程から古代史の話を聞かせてもらっているらしい。
ある意味、シーラは歴史の生き証人だよな。
ミっちゃんとメルさまも先輩の言葉に頷く。
「まあ、元々が魔狼討伐の時に私達がやらかした事の延長だから、そんなに気にする事はないんじゃないか?」
「そうですの。今回はセッキーさんが何か裏取り引きをしたらしく、処分が軽くなったそうですから、お気になさらずに」
二人とも逆に気を使ってくれている。
しかし、裏取り引きってなんだよ……。
「そう言ってもらえると、こちらとしても助かるよ。ところで、そちらの黒髪のお嬢さんが地下ダンジョンに閉じ込められていたって子かい?」
安堵の表情を浮かべたケフィンがシーラに興味を持ったみたいだ。
まさかとは思うが、高尚な『芸術表現』を見せようって腹づもりじゃないよな。
「言っておきますけど、人間風車とかは駄目ですからね。怒らせると冗談抜きで消し炭にされますぜ」
俺は小声でケフィンに忠告した。
「あ、ああ……流石に僕もそこまでは愚かじゃないよ。ゲンゲツもレイメイも分かっているね?」
ゲンゲツさんとレイメイさんが頷くのを見て、ケフィンが物凄く残念そうな表情になっている。
こいつ、どこまで本気で見せるつもりだったんだろうな。
ノノミリアとレイズはピアリを見て安堵しているようだ。
「ピアっち君はもう大丈夫みたいだね」
「この前は突然出て行ってしまったから驚いたけど、無事に解決して良かったな」
「その節は大変お騒がせしました〜。今度何かお詫びするね」
ピアリが二人に手を振る。いつの間にか栗毛色の髪に戻っていた。便利でいいな。
一方、ノノミリアだが、必死に机に齧りついているロワりんを見て不思議そうにしている。
「ねえ、なんでロワりんが猛勉強してるの? 資格でも取るつもり?」
ノノミリアに問われて、ロワりんが怪訝な表情を浮かべた。
「なんでって、ノノじ達も今度の休み明けの学力テストは受けるんだよね?」
「何それ? そんな話は聞いてないんだけど。……レイズは知ってる?」
「いや、俺も初耳だぞ」
どうやら二人は知らないらしい。
ひょっとして、校長から話が伝わってないのだろうか。
でも、そんなヘマをあの校長がするはずもない。
……まさか、俺達だけ学力テストを受けるってオチじゃないよな!?
俺達の会話を聞いていたのか、ケフィンがそろそろ引き上げると言う。
「大変な時にお邪魔してしまったね。今度お詫びを兼ねて、何か埋め合わせをさせてもらうよ」
そう言い残してケフィン達は引き上げて行った。
学生パーティーのリーダーなのに、随分と責任を感じていたみたいだ。
もっとも、それは彼の性格による部分も大きいのだろうけど。
これで高尚な『芸術表現』が無ければ完璧なのに。
ミっちゃんが来客の去った後のテーブルを片付けながら言った。
「さて、そろそろ真面目に勉強会を始めるか?」
しかし、ロワりんが反論する。
「それよりも大事な事があるよ!」
メルさまが皆目見当がつかないといった感じで首をかしげた。
「大事な事とは、なんですの?」
みんながロワりんに視線を向ける。
「……それは、シーラの名前だよ。このままあだ名が無いと可哀想だよ」
「別に無くても、わらわは困らないが……」
いきなり話を振られたシーラは困惑顔だ。
「それは駄目だよ。私達の仲間なんだから可愛いあだ名を付けてあげるよ☆」
「そういう物なのか?」
「そういう物なの!!」
その妙なやる気を勉強に向ければいいのに、とは言えなかった。
「それで、わらわにどの様なあだ名をつけてくれるのか? 『二つ名』は持っているが、あだ名は初めてだ」
シーラの表情が期待に満ちている。
クールぶっているが、嬉しくて仕方ないって感じだな。
「ちょっと待って。その『二つ名』ってのが、すっごい気になるんだけど……でも今はいいや☆」
いいのかよ。
どうでもいいけど、ちゃんとした名前を付けてあげてくれよ。
「えーとね、よし! 今日からキミは『シっこ』だ──」
「はい却下!!」
薄々だが、嫌な予感がしていた俺は即座に却下した。
今更だけど、ロワりんのネーミングセンスはかなり危ういと思う。
「セッキー! なんで却下なんだよ!!」
「そんなの駄目に決まってるでしょうが!!」
ロワりんが憤然とするが、何が駄目なのか気づいていないのだろうか……。
みんなも気まずそうな顔をしている。
シーラに至っては真顔だ。
そんな状況で先輩がおずおずと手を上げる。
「……あのう、それでしたら、『シーぽん』なんて、どうでしょうか?」
それもどうかと思うが、ロワりん案よりは格段に良い。
みんなも同意見なのか、すぐにミっちゃんとメルさまが反応した。
「それいいな!」
「シーラさんには可愛らしくて、ぴったりですの」
続いてピアリも絶賛する。
「ボクも可愛いと思うよ」
シーラもそこそこ嬉しそうだ。
「わらわはアンが名付けてくれたのなら、構わないぞ」
まあ、個人的にはこれもどうかと思うけど、今回はこれで決定だな。
俺はむくれてしまったロワりんの頬を軽く突っついてやる。
その後、休憩を挟んでから勉強会を再開した。
すぐに泣き言を言うロワりんに、ミっちゃんとメルさまが厳しく当たっている。
「セッキー助けてよ! ミっちゃんとメルさまが私の事をいじめるんだよぉ」
「ほら、無駄口を叩くな! せめて、この一般常識問題が答えられるようにしてくれ」
「その次は薬草学ですの。覚えておいて損はありませんの」
そう言って、二人がロワりんに参考書を物理的にグイグイと押し付ける。
よく見ると参考書の角をロワりんの肋骨の隙間に押し込んでいるみたいだ。
地味にエグい事をしてるな。あれは普通に痛いぞ。
「痛い! 痛いってば!!」
案の定、ロワりんが涙目で訴えている。
勉強を怠っていたから、二人が制裁を加えているのだろう。
流石に可哀想になってきたところで助け舟を出す。
「学力テストを無事にパスしたらさ、一日なんでも言う事を聞いてあげるから頑張ろう?」
いつもみたく、軽い気持ちでつい口走ってしまった。
すると、何故かミっちゃんとメルさまのやる気スイッチが入った。
「な、なにい!? それなら私も一発でパスするからな!! 見てろよ、セッキー!」
「これは聞き捨てなりませんの。わたくしもパスしてみせますの!」
「えっと、二人にじゃなくて、ロワりんに提案したのだけど……」
「さあ、ロワりんに負けない様に頑張るか!」
「そうですね。セッキーさん奴隷一日券は誰にも譲りませんの」
全く聞いちゃいない。
というか、奴隷一日券てなんなんだよ。
「二人とも酷いよ! 私だって、セッキーにお願いを聞いてもらいたいんだから!」
ロワりんが押し込まれた肋骨をさすりながら叫んでいる。
頑張れ。きっと二人からの愛のムチだ。知らんけど。
そんな事を考えていると、ふいに背中から抱きつかれた。
振り返ると銀髪のピアリだった。
「急に何?」
「うんとね、ただなんとなく権利を主張したくなっただけ」
よく分からないけど、ピアリも参戦したかったのだろうか。
「ピアっち! 抜け駆けは卑怯だぞ!!」
案の定、ロワりんがプンスカ怒っていた。
そして夕方になり、仕事を終えて帰ってきたリリナさんに勉強を見てもらったり(主にロワりんが)して、一日はあっという間に過ぎる。
明日は二連休だが、最後の追い込みを頑張らないとな。
先輩は今日もこっちに泊まっていくみたいだ。
親御さんは心配しないのだろうか。ちょっと心配になる。
「先輩って外泊したりして、怒られたりしないんですかね?」
気になったので、それとなく聞いてみた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと家には連絡を入れています。私の両親は忙しいので、帰宅しても顔を合わせる事は少ないのです」
先輩が少し寂しそうに笑った。
それを聞いたロワりんが腕を組んで力強く頷く。
「それ凄い分かる!! 私も親にかまってもらえなくて、寂しい思いをしたもんだよ」
その様子を見たリリナさんが呆れている。
「何よ。その間は私がずっと一緒にいてあげたじゃないの」
「まあ、それはそれ、これはこれと言う事で……」
雑な誤魔化しでロワりんがお茶を濁した。
「でも先輩、それじゃ家の家事とか大変ですね。それに家を空けていたら不用心というか……」
「それも大丈夫です。家にはお手伝いさん達がいますので、抜かりなくやっていただいてます」
お手伝いさん達……?
もしかして先輩って、お嬢様なのだろうか?
貴族ではないと思うけど……。
「先輩の家は、何か商売とかやってるんですか?」
「はい。商会でして、お店もいくつか経営していますよ」
やっぱりお嬢様だ!
ミっちゃん達が先輩の家の立派さを口にする。
「前に先輩を家まで送った事があったが、あれは凄かったよな」
「門から玄関まであんなに距離がある家なんて、初めて見たよ☆」
「正直、わたくしの実家と比べ物にならないくらいに立派でしたの……」
すると急にシーラがその話題に食い付いてきた。
「そうなのか? 今度わらわもお邪魔させてくれ」
「はい。喜んでシーぽんをご招待しますよ!」
お金持ちのお嬢様か……。
そういえば、前に先輩が進路が決まらなかったら、お見合いをさせられると言っていたが、お嬢様ならあり得ない話ではないよな。
就職だと稼業を継いだりするのだろうか。
先輩も見えないところで色々と苦労しているのかな……。




