803 番外編 ちょこっとビター・前編
季節ネタです。割と未来のお話。
本日三話投稿予定です。
気づけば今年もチョコレートをもらえる季節。
昔みたいに大量のチョコをもらう事も無くなったが、今でも律儀にくれる相手がいるのは幸せな事だろうか。
それはそうと、城から招待状が届いた。
なんでも俺の孫が王位を退くらしい。そんでもって、成人したばかりの俺のひ孫が新たな王位に就くと。
その式典へのお誘いだ。
……まあぶっちゃけると、ひ孫に会ったことすら無いんだけどな。
一応は生まれた時にお祝いを送ってるだけの関係である。
「よくそれで招待状なんて届きますね? 逆に感心してしまいますよ」
俺が読んでいる招待状を勝手に横から覗き込んでくるのは、女神エルファルドだ。
この女神の使徒になってから、結構長い付き合いである。
「孫は小さい頃に何度か会ってるんだけどな……」
ここ何十年も城の中には入っていない。王都にも随分とご無沙汰である。
城に足が向かなくなったのは、イリーダさんの国葬の時以来だろうか。
イリーダさんは、俺達の息子が成人する間際の頃に、流行り病で呆気なく他界してしまった。
その時に限って俺は遠方に出かけてたし、宮廷薬師のミスティさんやメルさまも不在。
風邪をひいたので早く寝ると言って、その晩に亡くなったそうで、本当に呆気なかった。
彼女の死を知った俺は、女神にイリーダさんを生き返らせてくれと頼んだ。
それこそ、泣いて土下座してまで頼み込んだが、申し訳なさそうに首を横に振られた。
いくら女神でも、死者を安易に蘇生させてはいけない決まりとの事
理解はできるけど、納得はできなかった。
国葬の間、俺はみっともなく泣き続けた。彼女の実の両親以上に泣いていた。
その時になって、俺は本当に彼女の事を愛していたんだと自覚したのである。
『いやぁ、あの泣きっぷりは流石に私も少し引いたぞ?』
「いきなり現れての最初の一言がそれですかい」
何も無い空間から、若い頃の姿のままのイリーダさんが現れた。
その体は半透明である。そんでもって、女神と気さくに挨拶を交わしている。
『そう拗ねるな。ほら、今日はチョコレートを渡す日だろう? 向こうで流行りの店で買ってきた新作だ』
「……ありがとうございます」
こういう事はちゃんと覚えててくれるんだな。
しかし、女神が横から俺がもらった包みを物欲しそうに見ているのは、どうにかならんのかね。
『心配しなくても、女神の分もあるぞ』
「わあ! イリーダさんは気が利きますね! 流石あの世の有名店のチョコですね!!」
もう食ってるし!!
なんなんだろうなあ、このやり取りは。
イリーダさんの国葬が終わった日の晩も、こんな感じだったのを思いだした。
俺はイリーダさんと二人きりにさせて欲しいと、みんなに頼んだ。
俺が変な気を起こすんじゃ無いかと周囲が心配する中で、ユーがみんなを説得してくれたのである。
ユーには感謝してもしきれないよ。
俺はイリーダさんの亡骸に今までの思い出を語りかけた。
その間ずっと号泣だ。
深夜の丑三つ時、突然背後から肩を叩かれたので驚いて振り返ると、そこには気まずそうなイリーダさんの姿が……。
『あの時は、私だって気まずかったんだからな? 声を掛けようにもずっと泣いてるし』
「その話は勘弁してくださいって! めちゃくちゃ恥ずかしいんですから!!」
本当に意味が分からなかった。
葬儀の晩に霊体として復活してるし。
本人曰く、向こうの管理者に気合いでどうにかなると言われて、やってみたらどうにかなったそうな。
女神も蘇生は無理だけど、霊体での復活は可能だとのたまいやがったのである。
「お二人は、相変わらず仲がよろしいのですね」
『そうでもないぞ。リョウヤには数え切れない程の嫁がいるしな』
「いきなり現れて人聞きの悪い事を言わないでもらえますかね!?」
あれから何十年経っても、こんな感じである。
『それはそうと、城から招待状をもらったのだろう? ひ孫の戴冠式に私達が参加しないでどうする?』
「え? 行く気満々なの!? 別に行かなくても誰も気にしないでしょ」
『曾祖父として、それはどうかと思うぞ……』
思いっきり呆れられた。
実際、城で俺の事を直接知ってる人なんて、ほとんどいなくなった。
サイラントさんもだが、イリーダさんの母親のイルミナージャさんも、既に鬼籍に入っている。
無論、俺達の息子も意外にも普通の人間種だったので、老衰で亡くなった。
魔族の血を色濃く残す元王妃や元王女達も、今は王都から離れた静養地で暮らしている。
なので、今の城には俺の顔を知っている者は、ほぼいないだろう。
地下で瞑想してる古い魔族のヨキさんも、深い眠りについているので表には出てこないはず。
そんな訳で、俺がいきなり城を訪ねても不審者扱いだろうな。
そもそもが、女神の使徒になってから外見がほとんど変わってない。
俺みたいな若造が、新国王の曾祖父だと言っても、誰も信じないだろうよ。
『安心しろ。私が付き添ってやろう』
「イリーダさんの姿は、普通の人に視えないですよね!?」
『視える者は視えるし、視えない者は視えないな』
「私はバッチリ視えま~す!」
まったく、こいつらは……。
そんなこんなで、俺達二人で城に赴く事になった。
女神は『たまには二人きりの時間を楽しんでくださいね』と、珍しく殊勝な事を言ってくるし。
『私達に気を使ってくれてるのだよ』
「そういうもんですかね。せっかくなので、お言葉に甘えるとしますか」
『この女神空間から一気に城へ向かうのか?』
「いいや、久々に王都の我が家に寄ってからにしましょう」
『懐かしいな。今は誰が管理してるのだ?』
「多分、鏡子さんやメアとかの精霊組の誰かだと思う」
今の俺は、王国以外の国にいる事が多いので、王都の我が家は自由に使ってくれと伝えてある。
瞬時に懐かしの我が家の前に転移。
すっかり年季の入った屋敷に……って、すっかり廃墟じゃねえか!!
屋敷全体がツタに覆われてるし、どう見ても幽霊屋敷である。
いくらなんでもこれは酷い。
『リョウヤ、何をしてるんだ? 入らないのか?』
イリーダさんは、まったく意に介さないのか、門をすり抜けて敷地に入ってるし。
仕方ない。腹をくくるか。
門が開かないので飛び越える。
事情を知らない人が見たら不審者だが、周囲は雑草が生い茂る空き地になっていて、誰もいない。
そりゃこんな幽霊屋敷があったら、近くには住みたくないだろ。
「……くっ!! ドアもさび付いて開かないじゃねえか!!」
伸び放題の雑草をかき分けて、ようやく到着した玄関ドアもこの有様である。
イリーダさんは霊体なので、そのまますり抜けていく。
ズルいぞ。
ドアノブを掴んで頑張ってると、突然ドアが開いてイリーダさんが顔を見せた。
『鍵が掛かってただけみたいだぞ』
……防犯はしっかりしてるのね。
久しぶりの我が家だが、驚いた事に家の中は綺麗なままだった。
一体どういう事?
「あら? お久しぶりね。久しぶり過ぎて、もうくたばったかと思ったわ」
この失礼な物言いは、我が家のメイドだったメアだ。
「久しぶりも何も、先週も鏡空間で会ってただろうよ」
「そうだったかしら?」
基本的に精霊はみんなこんな感じだ。
まともに取り合ってたら疲れるだけ。極稀にだけど、まともな精霊もいる。
「それで、急に帰ってくるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
「城に呼ばれたんだよ。それで、たまには我が家に顔を出そうかなって。イリーダさんも一緒だぞ……って、どこに行った?」
「彼女なら庭よ」
いつの間に。油断ならない人だよ。
庭に出てみると、昔と何一つ変わらないミニ精霊樹……とは言えない大樹の根元で、イリーダさんが黄色い巨大な猫系の化け物と戯れている。
「イリーダさん!! そいつ何者なんですか!?」
『リョウヤはひどいな。お前が飼い主だろうよ。忘れたのか?』
なんですと。
「……まさか、この黄色い巨大生物がニャンブーだと?」
黄色い巨大生物が頷いている。よく見ると精悍な顔つきだ。
俺はこんな凛々しいニャンブーなんて認めたくない。
思わず現実逃避をしようと思ったら、幼女よんちゃんが現れた。
「あー!! リョウヤさんだ!! 随分と久しぶりでしたよう。会いに来てくれないなんて、私の事を嫌いになっちゃいました?」
「いや、君も含めて精霊樹姉妹の本体には先週会ってるよね?」
「そうでしたっけ? まあいいや」
それだけ言うと消えてしまった。
本当に精霊はマイペースだなあ。
「ところでメア、他に誰か住んでるの?」
「……い、いえ、誰もいないわ」
今、明らかに動揺していたよなぁ。
隠したい事でもあるのだろうか。
俺はダッシュで家の中に戻る。
「駄目! 散らかってるので、見てはいけないわ!!」
背後から聞こえるメアの悲鳴を無視して、手近な部屋のドアをノックする。
「どうぞー」
返事があったので、ドアを開けると知らない女の子がいた。
どう見ても人間ではない。恐らく精霊だろう。
「あれぇ? 男の子なんて珍しい! ……って、あなた何者!? 人間じゃないよね!?」
「それはこっちのセリフなんだけど。というか、ここ俺の家なんだけど……」
「そんなの知らないよ。ここは私達みたいな行き場の無い存在の最後の砦なんだから」
よく分からんが、普通に住み着いてるらしい。
ようやくメアが追いついてきたので、説明させる。
「あのね。人間に迫害されたり、酷い事をされた精霊を受け入れてるのよ。まさか、リョウヤさんは、こんな可哀想な彼女を追い出すつもりなの? 本当に鬼畜ね」
『ふむ。彼女の言うとおりだぞ。リョウヤが追い出すと言うなら、私はお前への評価を下げざるを得んな』
いつの間に隣にいたイリーダさんに同意するように、巨大ニャンブーも頷いている。
この状況で出て行けなんて、普通は言えないだろうよ。
「まあ、そういう事なら避難所として使ってくれて構わないよ」
「わあ! あなた優しいね! みんなー!! 家主さんがここに住んでいいってーーー!!」
精霊の子が呼びかけると、あちこちの部屋から沢山の女の子が出てきた。
十人、二十人どころではない。その上、精霊だけでなく妖精や幽霊らしき子達もいる。
全員喜んでるので、文句も言えない。
我が家は完全に人外の存在に乗っ取られてしまった。
「……ええと、メアさんや。俺の部屋ってどうなってますかね?」
自室も乗っ取られてたら悲しいなあ。
「リョウヤさんの部屋は無事よ。安心して」
それは良かった。
「あまりにも禍々しい空気が澱んでいるので、誰も入りたがらなかったのよ」
俺の部屋を魔境扱いするの止めてくれませんかね……。




