802 実に好みですね!!
なし崩し的に、エルフの里にテルアイラさんと一緒に行く事が決まってしまった。
まあ、地元民がいるのは心強いと思う事にしよう。
そんな訳で歓迎会も後半になった頃、サヤイリスに伴われてレーシャちゃんとシンビ君が俺の所へやってきた。
どうやら、次の世話係が決まるまで面倒を見てもらう事へのお礼のようだ。
本来は最初に挨拶するものだろうが、俺はそんな小さい事にこだわらない男だからな。広い心で受け止めよう。
「……主は、色々な部分が小さい」
モンムさん!?
それはどういう意味かなあ!?
聞き捨てならない事を言いながら、そのまま精霊組の方へ行ってしまった。
精霊組が集まっているテーブルは、治外法権のようなものだ。
いくら俺でも下手に手出しはできない……。
「領主様。この度は私達のために、このような歓迎会を開いていただき、ありがとうございました」
「僕たちの住む場所まで用意してくださり、感謝の念にたえません」
二人はサヤイリスに言わされてる感があるけど、それでもちゃんと領主としての俺を敬ってくれているのが分かる。
せっかくなので、竜人の姿になって二人の頭を撫でてあげると、瞳を輝かせて喜んでいた。
竜牙族にとっては竜人の姿は尊いものなのだろう。
……って、サヤイリスまで撫でて欲しそうに、こっちを見つめてるのだが。
「おい待てい! 少年、その姿はなんだ!?」
テルアイラさん達が血相を変えてすっ飛んできたので、サクッと元の姿に戻る。
「え? なんですか? 気のせいじゃないですか?」
「……少年、流石に誤魔化し方が雑すぎないか?」
周囲からもジト目で見られてしまった。
仕方ない。適当に説明しておこう。
「ほら、特殊スキルってやつですよ」
「それは特殊スキルで、どうにかなるものじゃないだろ……」
「そうは言いますけど、猫耳少女になれる時点でどうかと思いますよ」
我ながら身も蓋もない事を言っている自覚はあるぞと思ってたら、フィルが悲しそうに俺を見つめてくる。
「リョウちゃん、かっこいい変身やめちゃうの……?」
うう、そんな目で見ないでくれ!
俺は変身を安売りするキャラじゃないんだ!
(どの口が言うのですか?)
くそう! 呆れ声の幻聴まで聞こえる始末!!
フィルに追い詰められていると、ミュリシャが助け船を出してくれた。
「フィル、あまりお兄さんを困らせる事を言っては駄目ですわ」
「うん、わかったよ……」
流石は王家の血筋を持つ子だ。
幼いながらも、言葉に重みがある。
「それはそうと、お兄さん。今回はお姉様達を呼ばないで良かったのですか? 今夜の事を知ったら、絶対に機嫌を損ねますよ?」
「こ、怖い事を言わないでもらえないかなあ?」
「私は事実を言ったまでです。ご自身で招いたトラブルは、ご自身で解決してくださいね」
言葉の重みが半端ないぜ……。
そんなこんなで、つつがなく歓迎会を終えた翌日。
俺はサヤイリスを伴って、カイルさんを家まで迎えに行く。
まずは、竜牙族と直接会ってもらうのだ。
昨日の歓迎会に招待しても良かったけど、いきなり大勢の初対面の人達の集まりに参加するのも気を遣うだろうから、招待するのを遠慮させてもらった。
「カイルさん、おはようございます」
「おはようございます。リョウヤさん。ええと、彼女が竜牙族の方ですか……?」
「初めまして。私は竜牙族族長の妹のサヤイリスと申します」
「これはこれはご丁寧に。カイルと申します。族長のお身内となると、高貴な生まれの方なのですね」
「高貴かどうかは分かりませんが、私は竜牙の谷一帯の領主の妻でもありますよ」
……この子、シレっと話を盛ってるのですけど。
まだ正式に妻になってないよね。
「なんと! お若いのに、領主の奥方様でもあられましたか! ……あれ? 竜牙の谷の領主って、リョウヤさんの事ですよね?」
カイルさんがジト目で俺を見てくるのですが。
それはそうと、記憶力が良すぎだろうよ。ちょろっと触れた話までおぼえてるとは。
「妹のアンと交際をしていたはずじゃなかったですか? まさか、妹は遊びの付き合いだと!?」
「い、いえ、もちろんアンさんの事は本気ですよ!!」
「リョウヤ殿は誰に対しても本気ですよ! なんといっても、ハーレムを実現するぐらいですから!!」
「……ほほう。説明してくれますよね? リョウヤさん」
勘弁してくれ。
変なところで話が拗れてしまったよ。
その後、家の前でカイルさんが騒ぐものだから、ファルさんが出てきて物理的に大人しくさせてしまった。
流石にそれは乱暴なのでは、と言える雰囲気ではなかったけど。
「相変わらずファル殿の技は、惚れ惚れする程の美しさですね!」
「サヤイリスさんだって練習すれば、このくらい簡単にできますよ?」
「精進します!」
今更だけど、俺の周囲ってヤバい人ばかりだよなあ……。
とてもじゃないけど、娘の母親とその娘の友人との間で交わす会話ではない。
結局のところ、カイルさんが騒いでたのは単に俺への嫉妬だったらしい。
「私なんて、一度も恋人ができた事がないのにズルい……」
そんな事を言われましてもねえ。
ファルさんでさえも微妙な表情させるとは、中々の負のオーラである。
「ねえ、リョウヤさん。カイルさんに誰か彼女を紹介してあげられないかしら?」
そういう事は、本人の前でストレートに言わないであげて。
いい大人になって継母に心配されるのは、プライド的にキツイものがあるだろうよ。
「そう言われましてもねえ……。カイルさんは、好みのタイプってあるんですか?」
「そうですね。人間は論外で、ありきたりな獣人やエルフ以外の亜人が好みです。物語に出てくる青い肌の黒い目で金色の瞳の魔族なんていいですね! あ、でも人間の形態からかけ離れすぎなのは遠慮したいです。ですが例外として、蜘蛛の魔物のアラクネや蛇の魔物のラミアとかは興味あります!」
なんか早口で怖い。その上、マニアックなところを攻めてくるんですが。
カイルさんに恋人ができないのって、これが理由なんじゃないかなあ……。
ドヤ顔で亜人の良さを説明しながら、眼鏡をクイっとしてる場合じゃないですからね。
「じゃあ、例えばだけど、サヤイリスみたいな竜牙族は……?」
「実に好みですね!! 端的に申しますと、ろくに敬語も使えないぐらいの元気一杯の生意気な年下の子で、私の事をお兄ちゃんと呼んでくれるような子だと尚よし!!」
「…………」
どうしよう。この人、俺よりはるかに重症だわ。
サヤイリスはドン引きしてるし、ファルさんも生暖かい目で見てるし。
「やっぱり、あの人の血を引いているのね……」
血は争えないってやつですかね。
でも、マルクさんは単なる女好きだと思うよ。
「リョウヤ殿、いくらアンこ殿の兄君とはいえ、この方に特産品の流通を任せて本当に大丈夫なのですか?」
小声で尋ねてくるサヤイリスの心配はもっともだ。
カイルさんが単なる好色だったら、今回の話は無しにしたい。
「……失礼、少々取り乱しました。私は公私混同はしないタイプなので、どうか安心してください」
いやあ、素直に安心できるかなあ。
眼鏡をクイっとする姿は不安しかないけど、まずは帰還する竜牙族達を魔導力車で迎えに行くとしよう。
無論、カイルさんも同乗なので非常に不安である。
竜牙族が暮らす出張所に到着するなり、帰還する予定の三人の女性に見惚れるカイルさん。
自分の性癖をカミングアウトしてから遠慮が無くなったような……。
そんなカイルさんに、サヤイリスが小声で話し掛ける。
「カイル殿、彼女達は故郷に将来を約束した相手がいるのですよ」
カイルさんは笑顔で泣いていた。気持ちは分かるけど、気持ち悪いよ。
暴走しないだけマシなのだろうと思う事にした。
昨夜の内に荷造りを終えた彼女達の荷物を鏡の空間に収納し、そのまま魔導力車で我が家へ向かう。
無論、カイルさんは助手席でサヤイリス達は後部席である。
「ほほう。リョウヤさんは、中々良い家にお住まいですね」
「カイルさんの実家よりは小さいですよ」
流石にあんな豪邸と比べられるのは恥ずかしい。
「いえ、あれは親の家ですからね。私の力で建てた家ではありません」
やっぱり根は真面目な人らしい。
もっとも、この家だって俺の力で建てた家じゃないんだけど。
「お帰りなさい。あら、お客様かしら?」
早速メアが出迎えてくれる。
いつも真っ先に現れるので、実は人恋しい説もあるんじゃないかと密かに思っている。
「……むむ、リョウヤさん。彼女は人間じゃないですよね?」
亜人大好きカイルさんは、精霊の存在も見抜くのか。
なんと恐ろしい。
「あら? リョウヤさんは、洗濯して干している下着が誰の物なのか、すぐ判別できるでしょう? どっちもどっちよ」
メアさんや、俺の心の声を読まないでね。
連れてきた竜牙族の女性達が真顔になってるから。
「ええと、なんというか、うちは色んな人がいるので……あははは……」
「全部俺の女だって言ったらいいのにね」
なんか今日のメアは棘があるなあ。
いつもの事かもしれないけど。
「メア殿は、リョウヤ殿に構ってもらえなくて寂しいのですよ。そうですよね?」
「な、な、なにを言うのかしら!? まったく、竜牙族ってのはデリカシーが無いのね!!」
メアが顔を真っ赤にして逃げてしまった。
あいつがあんなに感情的になってるのって、初めて見たかも……。
「ほら、リョウヤさん。ここは男として追い掛ける場面ですよ!」
恋人募集中のカイルさんが、『いかにも恋愛のプロです』みたいな顔で指示してくるのは、どうかと思うのですよ。
恒例の季節ネタを書き溜めるので、今週の更新はお休みとなります。
ちなみに、今回の季節ネタは前・中・後編の予定です。




