797 まさか、あなたがあのパンツ辺境伯なのか!?
また忙しくなってきましたので、週一、二ぐらいの投稿になります。
しばらくして、アンこ先輩が息せき切って帰宅した。
まさか、俺の家から走ってきたのだろうか。結構な距離があるのだが……。
「全速力で……走って……きました……よ!」
「先輩、そんな無理をしなくても……」
「駄目……です……! セッキー君が、大変な目に……遭う気が……して!」
すみません。
そこで何食わぬ顔してる母親とメイドさんに、既に大変な目に遭わされた後です。
「アン、何もそんなに急いで帰って来なくても大丈夫なのに」
「そうですよ。お嬢様ったら、私が出迎える前に玄関から飛び込んでくるのですから」
一見、和気あいあいに見える家族だが、みんなすっかりカイルさんの事を忘れてそうだ。
「先輩が急いでたのは、カイルさんの事もあってですよね?」
「……そ、そうでした! カイルお兄さんはどこですか!?」
どうやら、本当に忘れてたらしい。
「あの子は疲れてたようだから、先に休んでもらっているわ」
よくも、いけしゃあしゃあと言えるなあ……。
ファルさんの方を見ると、『それが何か?』という顔をされた。
「そうなのですか?」
「アンも、あの子に会うのは久しぶりですものね。積もる話は明日にして、今日は泊まっていきなさい」
「はい。そうします」
そんな訳で、先輩もお泊り決定。
「それはそうと、俺が先輩の家に泊まるって話をみんなにしてくれましたか?」
「あっ!?」
急いで家を飛び出したため、誰にも言わなかったらしい。
そんな訳で、再度家に連絡しました。
俺を置いて先に帰りやがったメルさまから、なんで直帰しないのかと文句を言われたが、それを言われる筋合いは無いよねえ。
その日の晩は流石にファルさん達も空気を読んで、俺の部屋には乗り込んでこなかった。
先輩は普通に入ってきたけど。
翌朝、目が覚めると隣には先輩の姿。
久々に一緒に寝られたのが嬉しかったのだろう。物凄い力で抱きしめられて思わず目が覚めた。
「先輩、ちょいと失礼しますよ」
「う~ん、むにゃむにゃ……セッキー君大好きですよう……」
可愛い寝言の先輩を押し退けるのは少し心が痛いけど、このままだと色々拙い事になる。
どうにかベッドから抜け出して、ささっと朝の身支度をする。
……何か大切な物を忘れているような気がしてならないけど、それが何か思い出せない。
思い出せないって事は、どうでもいい事なのだろう。
朝食の席では、復活したカイルさんも交えての食事だ。
だが、食卓は微妙な空気に包まれている。
先輩が俺の隣に陣取ってるものだから、俺の向かいに座るカイルさんの視線が痛い。
その上、先輩の反対側にはファルさんだ。二人に挟まれての朝食はどうにも気まずい。
そんな状況だから、先輩も久しぶりに再会したカイルさんと挨拶以外の会話ができていないようだ。
「カイルさん。あなた、まだアンの交際の事を認めてあげられないの?」
気まずい空気の中、ファルさんが口を開く。
「……リョウヤさんには感謝していますよ。ですが、アンが冒険者と交際するのは認められません。父やファルさんだって、アンには将来それなりの身分の相手に嫁いで欲しいと言っていたじゃないですか」
先輩と初めて会った頃、彼女は進学を認めてもらえなくて、お見合いをさせられそうになっていると言っていた。
恐らく、その頃の話だろう。
「あら、それなりの身分の相手って、どんなかしら?」
ファルさんの目が剣呑なものに変わる。
カイルさんは若干腰が引けたようだが、彼女から目を逸らさない。
なんだかんだで、盗賊から逃げ切ってるのだ。胆力はあるのだろう。
その二人を見て、先輩が不安そうな顔で俺の袖をそっと掴んできた。
俺は大丈夫だと頷くが、彼女の不安は消えないようだ。
「……少なくとも、うちと同レベルの商家か貴族です」
これまたハードルを上げてきますな。
このエーベルト商会は、王国屈指の規模と聞く。それと同レベルの商家とは簡単に縁が結べないだろうよ。
「ふうん? カイルさんは、もしかしてアンを政略結婚の駒として利用するつもり?」
「ファルさん! あなたって人は……!!」
これには流石にカイルさんも怒って立ち上がった。
「冗談よ。でも、そうなれば有力な商会や貴族とも縁が繋げそうね」
実際、ファルさんと父親のマルクさんは、それも考えてただろう。
それにしても、朝食の席で話す話題じゃないよなー。
先輩も委縮してしまって、せっかくお兄さんが帰ってきたというのに不憫だ。
後ろで控えているメイドのレラさんも、困り顔である。
俺は部外者のつもりで静観していたけど、そろそろ止めるか。
「まあまあ、お二人とも。取り敢えずは朝食をいただきましょうよ。せっかく美味しいんですから」
「それもそうね。カイルさん、その話は別の機会にでも」
「…………」
渋々だが、カイルさんも怒りの矛先を収めたようだ。
「ファルさんも、あんまりカイルさんを煽らないでくださいよ」
「あら? いつ私が煽ったのかしら?」
心外だと言わんばかりの顔で、俺にしな垂れかかる人妻ファルさん。
それを見て、カイルさんが固まる。
そういえば、彼は昨日、途中で卒倒しちゃったんだよなあ。
記憶が無いのかも知れない。
「ちょっと待ってください。リョウヤさんは、アンと交際しているのではないのですか?」
「そ、それは、色々と深い事情がありまして……」
「うふふ。私とリョウヤさんは、さしずめ愛人関係ってところかしら」
ちょいと、ファルさん!?
また昨日と同じパターンをやるつもりですかね!?
「坊ちゃま。実は私も、リョウヤ様と親密な関係になっておりまして」
レラさんまで参戦してきたので、先輩も別の意味で複雑な表情になってしまった。
「……申し訳ないですが、まったく意味が分からない」
今回は卒倒しなかったけど、カイルさんが大変に困惑していらっしゃる様子。
「意味なんて、大して重要じゃないのよ」
「そうです。そこに愛さえあれば」
そう言いながら、左右から抱きついてくるお二人。
普段なら嬉しいけど、場合が場合だ。
カイルさんはともかく、先輩の視線も痛い。
「……仮に、仮にですが、その話が事実として、何故二人はリョウヤさんと……そのような関係に? 失礼ですが、冒険者にそれ程の財力があるのですか?」
昨日は卒倒こそしたけど、カイルさんはすぐに冷静に分析を始めた。
腐っても商家の子息。いつまでも取り乱してはいないらしい。
「あら? 言ってませんでした? リョウヤさんは、爵位も持っていらっしゃるのですよ」
「……はい? 今、なんと言いましたか?」
ファルさんも人が悪いよなー。
絶対にわざと教えてなかっただろう。
「リョウヤ様は領地もお持ちですよ、坊ちゃま」
カイルさんが固まりながら、俺の方に視線を向けてきたので頷いておく。
「こっこれは、大変に失礼しまし────」
「ストップ!!」
カイルさんが土下座をする勢いで謝ろうとするのを止める。
こういうのが嫌だから、あんまり身分を明かしたくないんだよ。
みんながレイズやケフィン達みたいに接してくれる訳ではない。
「俺は成り上がりみたいなものだし、今更そういう態度を取られると困ってしまうんですよ。だから、最初に会った時と同じように接してください」
まさか、宇宙で機械人達と戦って英雄扱いだなんて、口が裂けても言いたくない。
ついでに、にゃんにゃんキュートの中の人だとも言えない。
「カイルさん。リョウヤさんは、大変に心が広い方なのよ」
「メイドの私にも、分け隔てなく接してくれていますし」
駄目押しで、先輩も加勢してくれる。
「セッキー君は、とっても優しいのですよ!」
こうまで言われたら、彼も頷くしかなかった。
その表情は、どこかあきらめている感じもするけど。
「……分かりました。改めて挨拶をさせてください。私はカイル・エーベルトと申します。今までのご無礼、お許しくださると幸いです」
全然分かった様子がないんですけど。
基本、真面目な人なんだろう。
「ええと、こちらも改めて。リョウヤ・セキです。皆さんと仲良くさせてもらっています」
ここの三人どころじゃないんですけどね。
全部バレたらどう思われるだろうなあと、遠い目をしていたらカイルさんが食い気味で迫ってきた。
「セキだって!? まさか、あなたがあのパンツ辺境伯なのか!?」
驚くのはそこかよ。
というか、俺はどんだけパンツ愛好家だと思われてるんだよ。
「パンツの部分は違うと思いますけど、概ねその通りだと思います……」
「そうだったのか……」
カイルさんは、気が抜けたように椅子に座り込むと、突然笑い出した。
「ははは! そうか、そうだったのか! それならアンの事も認めるはずだ! まったく、私は何をやっていたんだろうな……」
今度は笑いながら頭を抱えてしまっている。
色々と忙しい人のようだ。
その彼に先輩が気遣うように声をかけた。
「カイルお兄さん……」
「アン、良い人と知り合えたな」
「はい。セッキー君には何度も助けられましたよ」
それを聞いてカイルさんが安心したように頷くと、俺の方へ向き直る。
「リョウヤ辺境伯」
「辺境伯呼びは止めてください。今まで通りでいいですよ」
「……では、リョウヤさん」
「はい」
「一つお願いがあります」
「なんでしょうか」
「妹のパンツを無理矢理に見ないであげてください。どうか、お願いします」
だからパンツ辺境伯じゃなねえっての。
「あ、あの……セッキー君が見たいと言うなら……」
「先輩、俺は先輩にそういうのは求めてないのですよ」
「私に魅力が無いからですか?」
「違いますよ。先輩は癒し枠なので、そんな事をしなくていいんです」
泣きそうな先輩の顔をムニムニと揉みほぐす。
「あら? それなら娘の代わりに私がお見せしましょうか? 今日のは結構自信があるのですよ」
「いいえ、奥様も自重なさってください。こういうのは、まずメイドの私からです。リョウヤ様の舐め回すような視線にも負けないぐらいのセクシーな下着を着用していますよ」
そこの二人は黙っててください。
だけど、後で見せて欲しいです。
「いや、それは駄目だ! リョウヤさんは男女どちらでもいけると耳にしたので、妹の代わりに私が見せます!!」
そこの兄貴も黙れ。
またパンツ……




