795 どうか、王都まで乗せてもらえませんか?
男だけの道中もそれなりに楽しかったが、王都までもう少しの距離にある街で、ケフィン達は降りると言った。
なんでも、このまま俺の魔導力車で王都に乗りつけるのは遠慮したいそうな。
自分達から王都まで乗せていけと言ってたのに、どういう事やら。
「リョウヤ君には自覚がないだろうが、君はいずれ王家に連なる立場となる。一方、僕達は騎士団所属だ。そんな僕達が、リョウヤ君が運転する魔導力車に乗って王都に入った事を知られるのはちょっとね……」
要は身分が上の者に運転させて王都に帰るなんて、とんでもないと。
今更な気もするんだけどな。
「俺としては全然気にしてないけど、やっぱり色々あるんですかね……」
「そうだね。本来は、こうして砕けた口調での会話も問題があるのだけど」
「それは……」
「分かっているよ。あくまでも公の場所での話さ。こうやって、私的な場でならいつも通りにさせてもらうつもりだよ」
まさかの身分問題。物語とかでよく見かけるが、よもや自分の身に降りかかるとは思ってもいなかった。
どうやら、避けては通れない道のようだ。
三人は騎士の礼で俺を見送った。
ここから歩いたら王都に着くのは翌日になるので、もう少し乗っていかないかと言ったのだが、街でお土産を買う予定もあるし、乗合馬車で行くからと固辞されてしまった。
流石にこうまで断られたら、俺も引き下がるしかない。
まったく、変なところで生真面目な彼らである。
そんな訳で、俺はお供のニャンブーと一緒に、ノンビリと王都に戻る事にした。
交通量の多い街道を魔導力車で走るのは事故とか怖いので、人通りの少ない道を選んで走る。
しかし、人通りが少ないという事は、道が荒れていたり治安が悪いという事だ。
流石にもう盗賊は出ないだろうが、トラブルには遭遇するかもしれない。
一方、ニャンブーだが、鼻提灯を作って堂々と居眠りである。
こいつは物凄い大物だよな。
そう思っていたら、早速前方で荷馬車が横転しているのを発見。
轍に車輪を取られたのだろうか。
それにしては、随分派手に横転して荷台も破損しているのだが。
「大丈夫ですかー?」
もしかしたら、盗賊の罠かもしれないと用心しつつ近づいて声を掛ける。
付近に怪しい気配は感じられない。
「ああ、丁度いいところに!! ……って、それ魔導力車ですか!?」
荷台の脇から現れたのは、眼鏡を掛けた少し気弱そうな二十代半ばの青年だった。
その青年が俺の魔導力車を見て驚いている。
「あ、申し遅れました。私は商人のカイルと申します」
「ええと、俺はリョウヤです。見たところ、荷台はもう駄目そうですね」
「ええ、お恥ずかしながら、途中で盗賊に襲われかけまして、逃げていたらこのざまでして。どうにか逃げ切ったものの、馬もどこかに行ってしまって……」
盗賊から逃げ切ったのか。随分と無茶をしたらしい。
カイルと名乗った青年の服に血痕が残っている。
「怪我は大丈夫ですか? 治療薬とかありますけど」
「ああ、これは返り血なので大丈夫です! お気遣いありがとうございます!」
おおう、中々バイオレンスじゃないか……。
それはそうと、荷台は横転して車輪も使い物にならない状態だ。
馬もどこかに逃げてしまったらしい。
先程、ケフィン達と別れた街に戻るにしても、徒歩なら大変である。
途中で再度盗賊に襲われる可能性もあるだろう。獰猛な獣だっているかもしれない。
そんな状況で現れたのが俺だ。
「すみません、乗車賃は払います。どうか、王都まで乗せてもらえませんか?」
これが美少女や美人なら、下心関係なく即OKだっただろう。
だが、今回は男である。
いや、流石に俺もそこまで下衆じゃないぞ?
もしかしたら、盗賊の罠かもしれないし。油断したところを……って感じで。
彼の服に染みついた血痕を見てると、不安になってしまう。
しばし悩んでいると、いつの間にかニャンブーが降りてきて、俺のズボンを引っ張っていた。
「もしかして、乗せてあげようって言ってるのか?」
ブンブンと首を縦に振っている。
盗賊に噛みついていたニャンブーだ。善人と悪人の区別がつくのかもしれない。
「あの、リョウヤさん。それは……猫ですか?」
「いや、俺もよく分からないんですよね。猫豚っぽいので、ニャンブーと呼んでますが」
「ニャンブー、いい名ですね」
カイルさんが、しゃがんで『おいでおいで』をしている。
ニャンブーはすぐにカイルさんの方に寄って行く。
動物に好かれる人は、悪い人がいないなんて話も聞くので、彼も悪人ではないのだろう。
「ほう、ニャンブー君は目ざといですね。これはまだ王都には出回っていない、ペット用のおやつですよ」
そう言いながら、懐から出した『ちゅ〇る』みたいなのをニャンブーに与えていた。
ニャンブーは一心不乱に、ちゅ〇るをペロペロとなめている。
既に買収されてしまったらしい。
こうなったら、カイルさんを乗せるしかなくなってしまった。
「あの、重ね重ね申し訳ないのですが、荷物も一緒に運んでもらえないでしょうか? 代金は支払います! ……ただ、命からがらで逃げてきましたので、財布を落としてしまい手持ちがありません。王都に行けば、お金は必ず用意しますので!」
ここまで頭を下げられては断れない。
アイテム収納バッグは持っているらしいが、荷物を全て収納できる程の容量は無いとの事。
俺が持ってるのも、大した容量は無かったし。
二人で荷馬車から荷物を運び出して、魔導力車の後部に積み込む。
荷台にもなるタイプで良かったよ。
これが人工知能搭載のスポーツカーだったら、荷室がなくて目も当てられない。
荷物を鏡子さんの鏡に突っ込む手もあるが、あまり他人に知られたくない能力なので、今回は出番なし。
「それはそうと、色々な荷物がありますね?」
「ええ、お恥ずかしながら商人を名乗っていますが、これといった特産品を扱えていないのですよね。いい加減、何か勝負できるような物に絞りたいのですが……」
確かに食材やら鉱石の他に、先程のペット用のおやつとか一貫性がない。
その中に、桜色の結晶の塊があった。
これって……。
「この桜色の結晶って、なんですかね?」
「行商先で同業者から勧められて仕入れたのですが、まったく売れなかった物でして。確か桜水晶という名前でしたけど、良かったら差し上げますよ」
やっぱりか!! こんちくしょう!!
まさか、こんなところで見つかるとは。
昨日までの俺の徒労は、一体なんだったのだ。
もっとも、マリルガルの街へ行かなかったら、ここでカイルさんとも遭遇してなかっただろうけど。
タイミングは読めないものだな。
「じゃあ、ありがたく頂戴します……」
「ええ、どうぞ。大した金額じゃなかったですし、今回のお礼の足しにもなりませんですが」
まあ、二つあっても困る事はないだろう。
観賞用らしいので、余ったら飾っておくか。
荷物を全て積み替えると、残った荷馬車は持ち帰れないし往来の邪魔になるだろうから、カイルさんの許可を得て破壊してしまった。
残骸は道端に除けておく。誰かが薪の燃料として持っていくか、そのうち土に還るだろう。
いつの間にか日も傾き始めたので、王都へと急ぐ。
ニャンブーは後席に押し込み、カイルさんが助手席だ。
「いやあ、魔導力車って速いですね! それに、さっきの荷台をスパッと切断するとか、リョウヤさんは名のある冒険者なのですか? その剣は魔力剣ですよね?」
流石は商人。目ざといな。
「名のある冒険者かどうかは分かりませんが、それなりに冒険をしてきた自負はありますよ」
流石に自分から辺境伯だの世界を救った英雄だのとは言わないぞ。
自意識過剰みたいで恥ずかしいし。
「その若さで……いや、失礼」
「気にしないでいいですよ。別に自慢する気もありませんし」
「そうですか。私なんて、ずっと若輩者扱いで、何をやっても上手くいきませんでして……」
それが普通なんだろうな。
結局は経験と実績が物を言う世界だ。
「カイルさんは、ご実家も商人の家なのですか?」
「ええ、まあ。私も早く独立しないといけない立場でして……」
あんまり家の事は話したくないらしい。
こういう事は、根掘り葉掘り尋ねないのがマナーである。
俺が気遣ったのに彼も気づいたのか、話題を変えてきた。
「今回、王都の商業ギルドから呼び出しを受けていまして、その道中でこんな事になりまして。私、やっぱり商人に向いてないんでしょうか……」
これまた返答に困るような話題である。
「ところで、商業ギルドからの呼び出しって、どんな要件なのですか?」
「それが、私にもよく分からないんですよね……」
なんだそりゃ。
もしかしたら、業績が悪いからギルドを退会しろとかの通告だったりして。
冒険者ギルドでも、ずっと依頼達成できなかったら冒険者の資格を失うし。
そうこうしているうちに、王都に到着。
すっかり日が暮れてしまったよ。
相変わらずの顔パス状態で王都に入ったら、カイルさんが驚いていた。
「ええと、本当に重ね重ねで申し訳ないのですが、私の家まで荷物を運んで頂けると助かります……」
そこまで恐縮されると、断れないじゃないか。
腐っても商人だな。頼み方が上手い。
「この先をずっと進んでください」
カイルさんの指示通りに魔導力車を走らせてるのだが、行き先が富裕層や貴族も住む高級住宅街である。
もしかしたら、豪商の家で商人の修行をしてるとか?
進めば進むほど、建っている家が豪邸になっていく。
「あ、あそこの家が私の実家です!」
彼が指差した先は……アンこ先輩の家だった。




