794 男同士の内緒話だっての
なんとなくで、レリエールさんの問題も解決してしまった。
先程、乱心してしまった彼女だが、父親が犯罪に関わった容疑で事情聴取を受けるために連行されてしまった事が、周囲からも同情を寄せられた結果にもなったのである。
一方、掴みかかられたメディア校長も理解を示してくれたので、レリエールさんを罪に問う事はなかった。
そんな訳で、昔から心を寄せていたレイヴンさんと仲良く『レ』の一族を盛り上げていってほしいものだ。
その『レ』の一族に名を連ねるレイズも、レリエールさんと親戚なので、暫定的だがマリルガルの街の長の代理を務める事に反対意見は出なかった。
仮にレリエールさんの父親が無罪放免で戻ってきても、彼が街の長を続けるのは心情的に難しいだろう。
「いや、レの一族とか訳の分からない事を勝手に決めるなよ」
当のレイズはこう言って反論してくるが、レの一族からは逃れられぬ運命なのだ。
「でもさ、レイズの親父さんはレンブラントで、お袋さんはレイチェルなんだろ? 立派なレの一族だろうが」
「くっ、そう言われると何も言い返せない……。だが、ノノミリアは『レ』じゃないぞ!」
レイズが救いを求めてノノミリアの方を見るが、彼女は申し訳なさそうにうつむいている。
「……ごめん。あたしのお父さん、レイモンドっていう名前なんだ。お母さんはレじゃないけど」
「そういえば、そうだった!!」
レの一族……なんて恐ろしいのだ。
もしかしたら、あなたの隣にもレの一族がいるかもしれない……。
まあ、そんな事はさておき。
無事にバルイベントも終了した。思いの外、セイランさんとメディア校長が屋台で作っていたお好み焼きが人気だったな。
おぼえてる人はいないだろうが、俺が以前に学食の食堂で出会った異世界人のおばちゃんの思念体から、譲り受けたレシピノートに書いてあったメニューなのだ。
別に秘匿する料理でもないので、二人には街の人達に教えていいと伝えておいた。
その料理がこの街で独自に発展するのも面白いだろう。
という訳で、俺達は町おこしイベントのスタッフ達に交じって、飲食チケットの集計に明け暮れている。
これ、絶対に今日中には終わらないだろうな……。
「リョウヤ、今日もうちに泊まっていけよ」
「リョウヤ君達なら歓迎するよー」
二人がこう言ってくれるのだ。
お言葉にお甘えるとしますかね。
ちなみにだが、メルさまはセイランさんと校長を王都に送り届けに行ってから帰って来ない。
なんだか、嫌な予感がしなくもないのだが……。
余談であるが、イベントの飲食代金は、俺が何割かを負担する事になっている。
言い出したのは俺なんだから、文句は言わないけど次も期待されると困ってしまうぞ。
「それは俺達も分かってるよ。今回が想定外の事だったからな」
「今回の事で、イベントの難しさをあたし達も痛感したから」
という事で、後ほど二人から今回のお礼をしてくれるそうだ。
期待しないで待っておこう。
結局その日、メルさまは戻ってこなかった。
エリカからの念話によると、用が全部済んでしまったので、こっちに戻るのが面倒になったそうだ。
流石にこれは俺も怒っていいよね?
打ち上げも兼ねた晩餐会には、ケフィン達も参加してレイズ達と改めて再会を喜んでいた。
そして、レイズの両親にノノミリアの両親も駆けつけてくれた。
まさかのレの一族に囲まれて、生きた事地がしなかったぜ……。
それは冗談だが、レイズの父親のレンブラントさんと、レリエールさんの父親のレイナルドさんは、考え方の違いであまり関係が良くなかったらしい。
レンブラントさんは、金儲け主義のレイナルドさんに反対していたそうだ。
一方、レイナルドさんは、レンブラントさんが掲げる地味で堅実な生活に反発していたと。
どちらが悪いとかではないが、親戚同士の二人は反目してしまったそうだ。
今回の事で、レリエールさんの母親のレイラさんが両家の関係を修復したいと申し出た。
なんでも、亭主関白だったレイナルドさんの言いなりになっていたのをずっと後悔していたとか。
そんな訳で、無事に両家の関係が修復されたとさ。
めでたしめでたし。
どうでもいいけど、レの一族は名前もだけど、色々ややこしくて面倒くさい。
翌日、昨晩の疲れがまだ抜けない。
レイズ達が豪華な晩餐会を開いてくれたので、寝不足だったりするんだよな。
しかし、帰るだけなら鏡の転移で帰れるのだが、魔導力車を持って帰らないといけない。
メルさまは、さっさと一人で帰りやがるし。後でおぼえてろよ。
見送りは、レイズとノノミリア。それにレリエールさんとレイヴンさんだ。
ケフィン達は、いつの間にか出立していた。
レリエールさんが、申し訳なさそうな表情で俺に頭を下げる。
昨晩の晩餐会で、俺が領地持ちの貴族だと知ったのだ。
「この度は、無礼を働いてしまった辺境伯様に、なんとお詫びをしたら良いのか……」
「頭を上げてくださいって。今回はお忍びですし、気にしてませんて」
他にもバケモン密猟未遂事件やら、町おこしイベントの事やら、自身の事やらで色々申し訳なく感じているのだろう。
彼女が謝る事では無いのだが……。
「で、ですが……そ、その……下着を見せる事だけは、どうかお許しください!!」
「……はい?」
「パンツ辺境伯様に謝罪する場合は、下着を見せながらでないと許してもらえないとお聞きしました! こんな歳になりましたが、そのようなはしたない事は、どうしてもできません! どうか、どうか……お許しを……うっ……うぅ……」
なんか本気で泣いてるんですが。
今度はレイヴンさんが、レリエールさんを庇うように前に出てきた。
「辺境伯様、俺からもどうかお願い致します。彼女の代わりに俺がパンツを見せますから!!」
いや、まったく不要なんですが。むしろ、オッサンのパンツなんて見たくないのですが。
レイズとノノミリアは、笑うのを堪えてるし。あいつらも性格が悪いよなあ。
「あのさ、そのパンツ見せろってのはデマだからね。見せられても困るだけなんで、二人とも頭を上げてください。後、俺はパンツ辺境伯じゃないから」
俺だって、パンツを見たい相手は選ぶ。
「辺境伯……様……」
「なんて、心の広い方なのだ……」
二人とも、感激し過ぎだろ。
ちょっと引くぞ。
そんな訳で、レリエールさんとレイヴンさんには先に戻ってもらった。
今後は、レリエールさんも心を入れ替えて、レイズ達の手伝いをしていくそうだ。
「さてと、色々と片付いたし、リョウヤにはお礼をしないとな」
「はいこれ。今回はいくらお礼を言っても言い切れないけど、あたし達からの精一杯のお礼だから、受け取ってね」
二人から手渡されたのは、桜水晶とミスリス製の座布団だった。
これらは、バケモンバトルの賞品だったものだ。
「……いいのか?」
「元々それが欲しかったんだろ?」
「あたし達ができるお礼は、それが精一杯だから」
ミスリル製座布団はともかく、桜水晶はベルガの復活の素材で必要な物だ。
これでようやく目的が達成できた。
まったく、桜水晶を手に入れるだけで物凄い苦労したよ。
密かに達成感に浸っていると、レイズが内緒話をするように顔を寄せてくる。
「こっちは、ノノミリアには内緒だからな?」
そう言って手渡してきたのは、副賞の王都のコンセプトカフェの優待券だった。
『メイド喫茶☆にゃんとラブラブ』……って、まんまな店名だなあ。
まあ、時間ができた時にでも行ってみるかな。
「ちょっと、レイズ? リョウヤ君と何を秘密話してるのー?」
「男同士の内緒話だっての」
「やらしい!」
妻帯者が行くのは、あまりお勧めできない店っぽいのだろうか。
俺は正式に結婚してないから……セーフ!!
(あなたの周囲の子達に、告げ口しておきますね♪)
……なんだか今、とても恐ろしい幻聴が聞こえたような。
二人に再会の約束をして、魔導力車に乗り込もうとすると、突然黄色い物が車内に飛び乗って来た。
そいつは太った猫である。
「お前、ニャンブーか!? 今までどこにいたんだよ!? というか、ついてくる気なのか?」
ニャンブーは、助手席の背もたれに寄りかかるようにして普通に座ってるし。
とても猫とは思えない座り方である。
行きはメルさまと一緒だったけど、帰りは一人きりでちょっと寂しいかもと思ったが、思わぬ同行者ができてしまった。これで帰りは寂しくないな。
そんな事を考えながら走行してると、今度は前方に人影を発見。
ヒッチハイクだろうか。
「やあ、レイズとノノミリアとの挨拶は済んだかい? 気を利かして、僕達は先に出立したんだよ」
「王都まで頼むな」
「いやあ、馬車とは違って快適な旅になりそうですね」
ケフィン、ゲンゲツさん、レイメイさんの三人だった。
この人達、もう乗る気満々だよ。
という訳で、男四人に謎生物一匹での帰り道となった。




