793 レの一族って、なんですの?
校長が殴りかかってきたレリエールさんを取り押さえた事から、騒ぎになってしまった。
そんでもって、校長がレリエールさんを自警団の詰所に突き出そうかと言い出したため、レイズが待ってくれと申し出たのである。
「待ってくれ。彼女は……俺の親戚なんだ」
小さい街だ。そういう事もあるだろう。
地方の集落に行ったら、全員が親戚だったという話を聞いた事あるし。
「ふむ……。ならば、この女性の対処はそちらに任せよう」
校長はそう言って、レイズにレリエールさんを引き渡すと、屋台の方へ戻って行く。
「これは見世物じゃないぞ。ほら散った、散った!」
ついでに野次馬も蹴散らして行ってくれた。
ドサクサに紛れて、ケフィン達も逃げて行きやがったけど。
さて、こちらはどうしましょうかね。
人混みを避けて場所を変え、レイズがレリエールさんを気遣っている様子だけど、彼女は黙ってうつむいたままである。
「セッキーさん。あのお二人が親戚関係だったとは、思いもよりませんでしたの」
「俺も驚きだよ、メルさま。まさか、二人が『レ』の一族だったなんて」
「レの一族って、なんですの?」
「俺が今思いついただけだ。ほら、二人とも名前の頭に『レ』が付いてるだろ?」
「…………」
物凄い呆れ顔をされてしまった。
「あのなあリョウヤ。こっちはシリアスな空気なんだから、変な事を言うのやめてくれないか?」
レイズからも苦情が来てしまった。
「ちなみにだが、俺の親父はレンブラントで、お袋はレイチェルって名前だ」
「街の長だった私の父はレイナルドで、母はレイラです」
本当にレの一族だったよ!?
それはそうと、妖狐のレイにゃんもレの一族なのだろうか。
「じゃあ、レイズと夫婦になったノノミリアも、レレミリアに改名するんだな?」
「リョウヤ君!? 急におかしな事を言わないでよ!! あたし、そんな名前絶対に嫌だから!!」
「そうか? ノノとレレって字面も似てるから、そんなに違和感は無いだろ」
「大ありよ!! ちょっと、メルさんからもリョウヤ君に何か言ってよ!!」
「そうですね。わたくしとしては、レレミリアじゃなく、レレレリアの方が可愛らしいと思いますの」
流石はメルさまだ。もはや、レレレのレみたいになってきたな。
「ほほう、俺は嫌いじゃないぜ」
「そうね。私達の一族にピッタリの名ね」
レの一族の当人達も、こうおっしゃっている。
ノノミリアは今後、レレレリアに改名だな。本人はこの世の終わりみたいな顔して固まってるけど。
「……って、違うだろ!! 今はレリエール姉さんの事だっての!!」
レイズがノリツッコミしてるぞ。中々レアだな。
そして、当のレリエールさんは思い出したように表情を引き締めて、再度うつむいてしまった。
レの一族は割と面白い人達だ。
だけど、このままでは埒が明かないので、俺達で質問をする。
「ええと、レリエールさんでしたっけ。俺はリョウヤといいます。こちらの彼女はメルエルザ。俺達レイズとノノミリアとは友人で、一緒に冒険した間柄です」
「……はい」
二人とは友人の間柄と明かしたためか、レリエールさんが返事をしてくれた。
「ところで、なんでさっきの女性に絡もうとしたんですか? 特に知り合いでもないですよね?」
「…………」
言いたくないのか、急に黙り込んでしまった。
「レリエールさん。あなた、先程の女性に嫉妬していらしゃったのですよね?」
「!?」
メルさまの質問に、レリエールさんが図星とばかりに反応する。
嘘が吐けない人なんだな。
「あの女性は色々と特殊な立場の方ですから、ご自身と比べられるのは、お勧めしませんの」
「で、でも、レイズ君を含めて、男の人達に人気だったみたいだし……」
「あの方は、教育関係者ですの。レイズさん、レレじさんに、わたくし達も師として尊敬している方ですの」
うむう、メルさまも話に微妙に嘘を混ぜるのが上手くなってきたなあ。
それはそうと、ノノミリアが『あたしはレレじじゃない!』と騒いでるが気にしないでおこう。
「そうだったのですか……。反面、私は誰にも尊敬されるような立場ではないですし……」
「ご自分を卑下するのは、よろしくありませんの。淑女らしく、堂々としたらいかがですの?」
おお、なんか今日のメルさまは物凄く有能だぞ……!
「だ、だけど、私はもう街長の娘という立場ではないですし……」
「立場も身分も、関係ありませんの! わたくしだって、貧乏貴族の娘で借金のかたに売り飛ばされそうにもなった事もありますが、今も堂々と生きておりますの!」
あのメルさまがピシャリと言い放った。
物凄いレアな物を見てしまったぞ。レイズとノノミリアも唖然としている。
「レリエールさん。あなた、レイズさんにも嫉妬していらっしゃいますね?」
「!?」
再度の図星らしい。
一方、レイズは『なんで俺に?』という表情だ。
「わたくしに、理由を話してはくれませんか? 何か解決のお手伝いができるかもしれませんの」
メルさまが自身の恥ずかしい過去を打ち明けた事により、レリエールさんは、メルさまの事を信用してくれたらしい。
「あ、あのね。ずっと子供だと思ってたレイズ君が王都に行って、戻ってきたら結婚してて、追い越されたと思ってショックだったんです……」
親戚の子供の成長は、何故か早く感じると聞いた事があるぞ。
「レリエール姉さん……」
「レイズ君はいいよね。幼馴染みの子と結婚できて。ノノミリアちゃんと仲良くね」
その表情は嫉妬というより、羨望の眼差しである。
取り敢えず、段々と展開が読めてきたぞ。
今度は俺の質問の番だ。
「レリエールさん。あなたひょっとして、子供の頃から仲が良かった男性がいたんじゃないですか? その人との結婚を親から反対されていたとか」
「何故それを!?」
そんな驚愕の表情をしなくても。
「そうなのです。父は私を貴族に嫁入りさせようと頑張っていたのですが、所詮は小さな街の長の娘。まともな貴族は、誰も取り合ってくれなかったのです。そうしているうちに、私もそれなりの年齢になってしまいました。結婚できなかった私は、大きな街に出掛けて男の人達が接待してくれるお店に入り浸りになった一方、父は今回の町おこしで、お金持ちが来たらどうにかして私と結婚させようと息巻いてましたが……」
あまりのヘビーな話に俺達は何も言えなくなり、黙っているしかなかった。
「不謹慎でしょうが、今回の密猟騒ぎは父と私にとっても、いい機会だったと思います。もう私も遊び歩くお金もありませんし」
レリエールさんが力なく微笑んだ。
それは全てをあきらめた人の顔だった。
……だが、せっかくの町おこしイベントだ。
こんな悲しい結末で終わらせる訳にはいかない。
「なあ、さっきからこっちを覗いてる人。あなたがレリエールさんの幼馴染みじゃないのですか?」
「!?」
物陰から凄まじく動揺した気配がする。
全員が注目していると、物陰から中年に差し掛かった年齢の男が現れた。
レリエールさんとのデート権を狙って、バケモンバトルに参加しようとしていた男だ。
「レイヴン!? どうして……」
レリエールさんが驚いた声を上げるが、俺としては彼も『レ』の一族だった方が驚きだ。
「俺……どうしても、あなたの事があきらめられなくて……」
「今更そんな事……。私、あなたの事をひどい振り方をしたのよ」
「それは親父さんから命じられたんだろ!? だったら……」
「駄目よ!」
「何故だい!?」
なんか急に目の前で、恋愛ドラマみたいなのが始まってしまった。
気を利かして席を外したいが、それができる空気ではない。
レイズとノノミリアはともかく、メルさままで固唾を飲んで見守っているので、俺だけこの場から離れられなくなってしまったよ。
「駄目なのよ……。だって、私はもう街長の娘では無いから……」
「それがどうしたんだ!? 俺のあなたへの気持ちは、何一つ変わっていない!!」
「やめて! 今の私には街長の娘という価値すらも無いのよ」
「いいや、やめない!! 俺は街長の娘としてではなく、レリエール自身を愛しているんだ!!」
「レイヴンッ……!」
まるでドラマのワンシーンみたいに、二人が抱き合った。
感極まったのか、レイズとノノミリアは号泣してるし。
正直見ていて、こちらがこっ恥ずかしくなる状況なのだが、その一方で彼の事が羨ましくも思ったり。
俺はこの彼みたいに、一途に相手を愛せるのだろうか。
周囲のみんなの事は好きだけど、こんな風に愛していると断言できるのだろうか。
無意識にうんうん唸ってたら、隣にいるメルさまが心配そうに俺の顔を窺ってきた。
「……セッキーさん? 別に、あなたまで感化されなくてもいいと思いますの」
「それはどういう意味だ?」
「セッキーさんから、真面目な顔で愛しているなんて言われたら、気色悪いですの」
「そりゃひでえ」
「きっと、ほとんどの皆さんが同じ事をおっしゃると思いますの」
「うん、なんとなく想像できる」
普段から構ってくれと言ってくるロワりんが『なんか違う』とか言って、手の平を返しそうだし。
サヤイリスでさえも、『本当にリョウヤ殿なのですか!?』と疑ってきそうである。
そんな悲しい事を考えていると、突然周囲から拍手が巻き起こった。
「おめでとう!!」
「二人とも幸せにな!!」
「恋心に年齢なんて関係ないわ!!」
「いいもの見させてもらった!!」
いつの間にか、見物人達が大勢で見守っていたらしい。
大勢から祝福されて、二人とも恥ずかしそうだ。
「良かったな、二人とも。さあ、これは私からのお祝いだ」
これまた突然現れた校長が、恐縮する二人にお好み焼きが乗った皿を渡す。
そのお好み焼きには、ご丁寧にマヨネーズでハートマークまで書いてあるし。
「ちなみにだが、焼きそば入りの特製お好み焼きだぞ」
なんだとう!? 俺も食いてえ!!
一方、その頃のセイランは────
「メディアさーーーん! こんな忙しいのに、どこ行っちゃったんですかーーーー!? そこの黄色い太った猫さん! 勝手にお客さんの物を食べちゃ駄目ーーーー!!」
めちゃくちゃ大変そうであった。
レの一族は別に暗躍したりしません。




