791 吾輩を蹴ってもいいですぞ!! むしろ蹴られたい!!
結局、バケモンバトルは中止となり、マリルガルの町おこしイベントもウヤムヤとなってしまった。
密猟を狙う犯罪者が関わっていたのだから仕方がない。
そんでもって、街の有力者も何人かがオーツキ博士と金銭のやり取りをしていたそうで、特殊犯罪捜査官が連行していってしまったのである。
「これ、どうすんだよ……」
「あたしに聞かれても、分かんないわよ……」
イベント主催者のレイズとノノミリアが途方に暮れている。
イベント会場に集まった人達も困惑しきりだ。
きっと遠方から、わざわざ足を運んでいる人もいるだろう。
このままだと、賠償しろとか言い出す輩が現れて暴動も起きかねないぞ。
「ここはセッキーさんのお力で、どうにかなりませんか?」
「無茶言わんでくれよ、メルさま……」
「リョウヤ頼む!!」
「辺境伯さまのお力で、どうか!!」
まったく、二人も調子がいいんだから。
俺としては、エイザ達に責任を取ってもらいたかったが、彼女達は仕事を全うしただけだ。悪いのは盗賊達なので、彼女達を責められない。
イベント中止の金銭的被害も、後で国に請求できるのかも怪しいところだ。
……なので、このまま無理矢理イベントを続けるしかない。
「イベントを続行だと?」
「密猟騒ぎがあったんだし、もうバケモンバトルは無理よ?」
二人が訝しげだ。
「なにも、バケモンバトルだけがイベントではない。これだけ人が大勢集まってるんだ。お見合いパーティーとかどうだ?」
「リョウヤ、お前いきなり凄いのぶっ込んできたな……」
「ありって言えば、ありね……」
「ですが、いきなりお見合いパーティーは、少々問題が山積みではありませんの?」
メルさまの言う事も一理ある。
観客の中には既婚者や恋人がいる人達も多いだろう。
そんな人に出会いの場を提供したら、色々問題が起きそうだ。
ふと周囲を見渡すと、イベント用に屋台も多く出てるし、飲み食いには困らなさそうな感じだな。
「なあ、二人とも。飲食関係の屋台はもっと増やせないか? 屋台でなくてもいい。普通に食堂とかも解放できないかな?」
「まあ、屋台程度なら、増設にそんなに時間もかからないが……」
「街の食堂もイベントを期待して色々準備をしてたみたいだけど、どうするの?」
「町中で食べ歩きイベントをやろう! もうこうなったら、俺が費用を持つので、お得な価格で大盤振る舞いしてやれ!!」
前の世界でも耳にしたバルイベントってやつだ。
本来なら飲食店の地図を作って、それを片手に飲み歩きや食べ歩きを楽しむイベントである。
「セッキーさん、中々良い案ですの。てっきり、パンツ見せ大会とか考えてるかと思いましたの」
「流石の俺でも、そんなアホなイベントを考えないよ? というか、メルさまって、普段からそういう事を考えてるの? むっつりスケベ?」
「えい」
「ぐぼぉぅあ!?」
いきなり脇腹にパンチとかやめてください。
「セッキーさんに感化されただけですから。わたくしが妙な思考になった責任を取ってくださいね」
知らんがな。
それはそうと、レイズ達の反応はというと……。
「それいいな! 俺達にはもう手段がないから、その企画を使わせてもらう」
「今から別のイベントを準備するのも大変だしね」
「……え? お二人とも、正気なのですか? パンツ見せ大会ですよ?」
「え?」
「え?」
どうやら、情報の祖語があるようだ。
俺が正してやろう。
「メルさま。二人が乗り気なのは、食べ歩きイベントの方だぞ? どう考えてもパンツ見せ大会じゃないからな? もしかして、メルさまがパンツ見せたいのか?」
「……えい」
「ぐぼぉぅあ!?」
顔を真っ赤にしながら脇腹にパンチとかやめてください。
あと、見せるなら俺だけにしてね。
「イベントはともかく、代金の計算が簡単になるように、専用チケットとかあると便利なんだけど、今から作る時間も無いしなあ」
チケット制なら、各店舗で面倒な金の計算もしなくていいのだが。
「それなら、わたくしにすぐ作れる伝手がありますの」
汚名返上とばかりに、メルさまが胸を張る。
しかし、いくら伝手があると言っても、今すぐにチケットをここに持ってくるなんて、流石に無理があるだろう。
「セッキーさん、わたくし達には鏡の転移があるではないですか」
「なるほど。チケットを作ってもらい、すぐに持ってこられると」
「そうですの。わたくしに任せてもらえますか?」
「そうだなあ……。レイズ、仮にこれからイベントをやるにしても、どのくらいで始められるか?」
「各店舗ごと既に食材や酒を用意をしているだろうが、イベント周知に最低でも一時間は欲しいな」
「その間、あたし達でどうにか間を繋ぐつもりだけど、なんとかなるの?」
「なんとかなるさ。メルさま、一時間でチケットの用意はどうにかなるか?」
「お任せください。今からキョウコさんの本を印刷製本している業者に掛け合ってきますの」
「じゃあ、頼む」
チケットのデザインを簡単に説明しつつ転移の鏡を出現させると、すぐにメルさまが王都に向かった。
「俺達は関係各所の協力要請と」
「イベント来場者への説明ね」
「俺は何を手伝ったらいい?」
「そうだな、リョウヤはイベントが始まるまで、間をもたせておいてくれ」
「はあ!? どうやってだよ!?」
「ほら、リョウヤ君なら、にゃんにゃんキュートでいけるでしょ」
「無茶言うなよ!!」
二人の凄まじい無茶振りにより、俺は急遽一人だけで、にゃんにゃんキュートショーを行う羽目になってしまった。
先程、レイズ達が代替イベントを開催すると宣言してしまったので、バケモンバトル会場には、まだ大勢の観客が残っている。
この状況に一人で立ち向かわないといけないとか、どんな罰ゲームだよ。
悲しいかな。魔力布製の特別な服には、キュート戦士の衣装にもチェンジ可能な機能があるので、衣装が無いという言い訳が使えないのである。
ええい、やけくそだ!!
当たって砕けろ!!
「ええっと、始めましての人もお久しぶりの人も、こんにちはー!!」
「「「………………」」」
……うわあ。なんだこの空気。
思いっきり場違いなんですけど。
王都から離れれば、にゃんにゃんキュートの知名度も所詮この程度だ。
どうにかして、間をもたせないと。
ふと気づくと、俺の足にニャンブーがしがみついている。
もしかして、元気づけてくれてるのか……と思いきや、よだれを垂らしながら、スカートの中をガン見していた。
まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
思わず蹴り飛ばしてすっ飛ばしてしまった。
元気でな、ニャンブーよ。
空のお星さまになったニャンブーを目で追っていると、観客の一部が騒ぎ始めた。
「ま、まさか……こんな場所で、にゃんにゃんキュートに出会えるとは思わなかったでござる!!」
「おうふ! しかも配役がオリジナルですぞ!! なんという幸運!!」
なんだか見覚えのある眼鏡のやせ型の男と太めの男が、他の観客をかき分けて前に出てきたぞ。
「ああ! 拙者達の布教がようやく実を結んだのでござる!!」
「吾輩、感動のあまり涙が零れてしまうですぞ!!」
いきなりのハイテンションに俺もドン引きだけど、他の観客もドン引きである。
変な奴まで出てきちゃったけど、どうするんだよ。
「ところで、にゃんにゃんキュートちゃん。先程の黄色い豚みたいなのは、お約束のマスコットキャラでござるか?」
「吾輩、知っていますぞ。魔法少女にマスコットキャラが付属するのは必須ですな!」
こいつら、一体何を言ってるのだろう。
俺も知識として、変身少女モノにはサポートキャラのマスコットがいるのは知っている。
ニャンブーがマスコットキャラだって?
絶対に嫌なんだけど。
「おうふ! やはり、拙者の見立ては正しかったでござる!」
「あのマスコットの顔は、中々の変態っぷりですぞ。デュフフフ……」
気づいたら、ニャンブーが俺の足に抱きついたままスカートの中を覗き込んでいた。
一体いつの間に!?
恐怖のあまり、再度蹴とばしてすっ飛ばしてしまった。
「オウイエス!! 今、にゃんにゃんキュートちゃんのパンツが見えたでござる!!」
「親御さんもビックリですぞ!!」
「!?」
思わずスカートの裾を抑えるも、時既に遅し。
「さあ、拙者達にパンツを見せるでござるよ!!」
「吾輩を蹴ってもいいですぞ!! むしろ蹴られたい!!」
ひいいいいいい!!
二人組が気迫の表情で迫ってきて怖い!!
「おい姉ちゃん! 俺達にもパンツ見せてくれー!!
「そうだそうだー!!」
酒の入った男達からのヤジまで飛んでくる始末。
ここは、そういうお店じゃないんだぞ。
パンツを見るのはいいけど、見せるのは嫌だ!!
パンツじゃないから恥ずかしくないもんとか言ってみたい!!
自分でも何を言ってるのか分からないけど、いきなりのピンチだ。
ダーク団以外の敵に、ここまで追い込まれていいのだろうか。
そんな時である。
「にゃんにゃんキュート、がんばってー!!」
「わるい人にまけるなー!!」
なんと、小さなお友達からの声援が!!
あの子達はキュート戦士を知っていたのだ。
「ええい! パンツ見せるでござる!!」
「見せパンだったら許さないですぞ!!」
大きなお友達は少し黙りなさい。
「ほら、早く脱げー!!」
「パ・ン・ツ!! パ・ン・ツ!!」
酔っ払いも黙れ。
なんか色々面倒になってきた。
「あなた達は、ダーク団に操られている!! このにゃんにゃんキュートが、正気に戻してあげるから覚悟なさい!!」
そのまま普通に蹴り飛ばして黙らした。
公然セクハラには天罰だ。何故か眼鏡の二人が、蹴られて幸せそうな顔してて怖かったけど。
それはさておき。勝利の余韻に浸っていると、子供達が駆け寄ってきた。
「ねーねー、にゃんにゃんキュート体操しないのー?」
「むにょーん☆ってやるの好きー」
なんとまあ、こんな街にまで広まっているとは。
頑張って広めた甲斐があったよ。
そんな訳で集まった子供達と、にゃんにゃんキュート体操を始めたら、その親御さん達も加わってくれた。
すると、自然に体操の輪が広がっていく。
「この体操って、いつの間にか流行ってたけど、にゃんにゃんキュートが元ネタだったんだなー」
「この『むにょーん☆』ってとこがクセになるよな」
「これをやった後、なんだか調子が良くなるのよね」
こうして、よく分からないけど、体操だけでバルイベント開催まで間がもってしまったのであった。




