789 ほう、自身は潔白だと?
突然現れた王国特殊犯罪捜査官と名乗る色気女とその一行。
いきなりで驚いたのは、俺達だけではなく盗賊一味も同じだった。
「く、くそ!! リーダー、どうしますか!?」
盗賊の男のがリーダーと呼ぶニヒル男に指示を仰ぐと、ニヒル男が色気女の方へ歩み出る。
まさか、一騎打ちを挑むつもりじゃなかろうか。
流石にそれは周囲の兵士達が阻止するだろう。
そう思っていたら、色気女の方からニヒル男に声を掛けた。
「潜入捜査ご苦労であった、ニーヒル捜査官」
「もったいないお言葉です。エイザ上級捜査官殿」
どうやら、あのニヒル男も特殊犯罪捜査官の内偵だったらしい。
そんな訳で、盗賊達の男達が唖然として固まってしまった。
無論、俺達も状況についていけてない者が多くて、成り行きを見守るだけである。
「て、てめえ! 最初っから俺の事を騙してやがったなァ!? きたねえぞ!!」
熱血主人公が大声で叫ぶが、それは盗賊達のセリフではないだろうか。
盗賊達もセリフを取られて困っているぞ。
「……フッ、貴様との勝負はいずれな」
「この野郎ッ!!」
熱血主人公が飛び掛かろうとすると、エイザと名乗った色気女が一喝する。
「動くな!! 私は全員動くなと言ったはずだ!!」
「な、何を言いやがる……」
流石の熱血主人公も、エイザの迫力に尻込みしたようだ。
「この場にいる全員が容疑者だ!! 怪しい動きをしたら、全員を逮捕して取り調べを行うぞ!!」
なんですと。
まさかの俺まで容疑者扱いなのか!?
これには他の参加者達にも動揺が走る。
そこへ、ようやく再起動した盗賊達が食って掛かった。
「くそ! 俺達を罠にハメやがったな!! リーダー……いや、あのニーヒルとかいう裏切り者を殺せ!! 特殊捜査官とかいう奴らもだ!!」
「「「「うおおおおおおお!!!」」」」
すると、ニーヒル捜査官とやらも声を張り上げる。
「王国の威信にかけて、犯罪者を一匹たりとも逃すな!!」
「「「「了解!!」」」」
なんか知らんけど、双方の戦いが始まってしまった。
俺はどうしようかと思ったところで、メルさまが縄を解いてくれた。
というか、縄を普通に引きちぎってるじゃねえかよ。
「このくらい、朝飯前ですの!」
ドヤ顔が可愛いけど、そういう問題じゃないからね。
取り敢えず、レイズとノノミリアやケフィン達の縄を解いていると、エイザとかいう色気女が俺に剣を向けながら咎めてきた。
「そこを動くな。縄抜けのスキルを持っているとは余計に疑惑が高まった。後でじっくりと話を聞かせてもらうからな」
この縄はメルさまが引きちぎったので、縄抜けスキルとか関係無いんだけど……。
そのメルさまは、どさくさで襲ってきた盗賊を殴り飛ばしているところだ。
「あの娘も、仲間を攻撃して自身の疑いから目を背けさせる気だな。小癪な娘め……」
いやいや、普通に反撃してるだけだからな。
呆れていると、レイズとノノミリアが小声で話し掛けてきた。
「おい、この状況はなんなんだよ?」
「あの人達、なんなの!?」
そんなの俺が知りたいんだけど。
「多分だけどさ、バケモンを密猟しようとした盗賊を捕まえる警察組織って事じゃないのか?」
この国に警察があるのかは知らんけど。
「おいそこ! 何をこそこそと密談をしているのだ!? 私の前で逃亡計画を立てるとは、なめた真似をしてくれるな!?」
そして、色気女ことエイザが違う方向で面倒くさくなった。
取り敢えず、騎士団に入ってるケフィン達なら何か知っているのではないかと、隙だらけのエイザの目を盗みつつ尋ねてみた。
「なあ、あの女の人って知ってる?」
「すまない。僕達とは所属する組織が違うので、なんとも……」
「だが、王国特殊犯罪捜査官というと、エリートだと聞くぞ」
「そうですね。軍とは違う方向で国を守る方達です」
ケフィンはともかく、ゲンゲツさんとレイメイさんも詳しくは知らないようだ。
「おい、貴様! さっきから何をこそこそと嗅ぎまわっている!? やはり怪しい奴め!! 私が自ら拘束してやる!!」
いやいや、アンタが隙だらけなんですよ。
とは言えないので、大人しく捕まってやる。何故かメルさまも一緒にくっついてきたけど。
「セッキーさんが、鼻の下を伸ばさないように見張りますの」
まったくよう、俺はどれだけ信用が無いのやら……。
せっかく盗賊の縄を解いたのに、俺達は再度縄で拘束されてしまった。
そうこうしているうちに戦いは終わり、盗賊達は全員制圧されたようだ。
兵士というか警察の皆さんは、練度が高いらしい。
ケフィン達も素直に感心していた。
盗賊達が連行される中、残った俺達参加者と見物人に向けて、エイザが声を張り上げる。
「諸君達の中に盗賊の仲間が紛れている可能性があるので、これから取り調べを行う!」
だが、それに反抗する者が現れた。
例の熱血主人公だ。
「いきなり俺を犯罪者扱いするとかふざけんなァ!!」
普通に考えると、いきなり犯罪者扱いされたら、誰だって反論したくなるだろう。
俺はいざとなれば、国王に泣きつける立場なので、静観の構えである。
「ほう、自身は潔白だと?」
「だからそう言ってるだろうがァ!!」
「威勢の良いのは結構。だが……」
いつの間に押収したのか、熱血主人公の身分証明カードをニーヒルがエイザに手渡す。
そのカードを水晶版タブレットにかざして個人情報の確認を始める。
まったくもって、用意周到だな。
「ふむ、過去に傷害事件をいくつも起こしているな」
「……なッ!?」
「犯罪歴のある人間が、潔白だと言い切れるのか? ……連行しろ」
「俺は今回の件とは無関係だァ!! ただバトルをしたかっただけなんだよォ!! 放せェ!! くそォ!!」
熱血主人公が連行されて行ってしまった。
流石にこれはどうかと思うが、今は見守るしかない。
取り調べは簡単な尋問と、身分証明カードの情報照会によって行われた。
今回の事件とは無関係と確認された者から順次解放されていく。
今のところは、連行されたのは熱血主人公だけだ。
「おい待ってくれよ!! 俺達は無実だって判明しただろ!?」
「あたし達は関係ないんだから!!」
何故かレイズとノノミリアの拘束が解かれない。
「君達は、このイベントの主催者でもあるだろう。犯罪組織に協力していた疑いが完全に晴れるまで拘束させてもらう」
そして、ケフィン達も拘束されたままだ。
「僕達は一応、騎士団に所属しているのだけどね?」
流石に余裕の表情だが、三人とも不快感は隠せていない。
「……ジオアトラ家の子息か。騎士団長の息子だろうが、我々は特別扱いをしないぞ」
貴族に対しても公平な態度を取れるのか。それだけの捜査権限を持つ組織らしい。
それはそうと、どう考えてもケフィン達も今回の事には関係は無いだろう。
もしかすると、貴族に対して敵意を持つ組織だったりとか?
「そこの縄抜けスキルを持っている怪しい少年と、色々と情報交換をしていたな? その時点で言い逃れはできんぞ」
なんか色々とガバガバ過ぎて笑えないんだけど……。
呆れていると、メルさまが取り調べを受ける番になった。
「フランジール家の令嬢とな……聞いた事もない貴族だな」
そんな身も蓋も無い事を言われて、メルさまが苦笑する。
本人曰く、無名の貧乏貴族なのだ。実際に家が潰れ掛けたのを俺がなんとかした事もあった。
そうこうしているうちに俺の番がやってきた。
よく分からんが、俺はエイザに相当疑われてるらしい。
そのエイザは、『たっぷりと吐かせてやる』といった感じで息巻いている。
俺の身分証明カードを水晶版に乗せて情報照会を始めた。
すると、エイザの表情が固まった。
「どうされました? エイザ上級捜査官殿」
部下のニーヒルが尋ねつつ、水晶版の情報を覗き見て固まった。
一体どんな情報を見てるのでしょうかね。
「お、お前……いや、貴方は……まさか!!」
まあ、腐っても俺も領地持ちの貴族である。
少しは敬意を払って欲しいものだ。
「おやおや? 王国特殊犯罪捜査官のエイザ殿は、貴族に対しても特別扱いをしないのではなかったのかな?」
ここぞとばかりに、ケフィン達がニヤニヤしている。
彼らも悪い顔になったなあ。
思わず感心してしまった時であった。
「くそう! こうなったらアレを使うぞ、ノノミリア!」
「分かったわ。今使わないで、いつ使うのって感じね!」
何やらレイズとノノミリアが決意した表情でエイザに訴えかける。
「おい、とにかく拘束を解いてくれ!」
「見せたい物があるの!」
「ふむ? 無実を証明する証拠でもあるのか? おい、拘束を解いてやれ」
エイザが部下達に命令をして、二人の拘束を解いた。
「これを見てくれ」
そう言って、レイズとノノミリアは書状のような物を取り出してエイザに手渡した。
「こ、これは………!! くっ、二人を解放して差し上げろ」
書状に目を通したエイザが、悔しさに表情を歪めながらも二人を解放した。
一体何を見せたんだ?
「セッキーさん、あれは免罪符ですの」
「免罪符だって?」
「はい。恐らくは国王陛下が発行した物ですの。殺人等の重罪以外なら、一度だけ罪には問われないという免罪符ですの」
そんな便利な物をもらっていたのかよ。
ズルいなあ。
今度はケフィン達が動いた。
「エイザ上級捜査官殿、僕たちはそこの彼の守護騎士でもあるのだよ」
「その俺達まで疑うと言うのか?」
「これは後々、大問題に発展しますよ?」
なんか、揃って俺の方を見てるんだけど。
というか、あんたらいつ俺の守護騎士になった。
「実はわたくし、この方の内縁の妻ですの」
メルさままで便乗してきた!?
「なっ……!? ぐぬぬぬぬ……」
よく分からんが、エイザが物凄く悔しそうに俺の事を睨んでいる。
「王国を救い、国王陛下にも進言できるパンツ辺境伯が何故こんな場所にいるのだ!! ……ニーヒル捜査官、彼らの拘束を解きなさい。そして、丁重に扱うように」
「ははっ!!」
そんな訳で無事に俺達は自由の身となった。
それよりも、パンツ辺境伯ってなんですかね!?




