786 あれは……豚猫だな
「おいリョウヤ、このままだとバケモンがゲットできないぞ」
レイズに急かされるが、色んな意味で危険過ぎるバケモンなんて捕まえたくない。
逆に俺が捕まるわ。
「んもう、リョウヤ君は何をもったいぶってるのかなあ? バケモン図鑑に載ってるレアなバケモンは出尽くしちゃったよ?」
「ノノじさん、セッキーさんはストイックな方ですの。きっと、最弱バケモンでバトルをするつもりなですの」
「リョウヤ君ったら、正々堂々とバトルをする気だったのね」
「そうだったのか……。急かして悪かったな。頑張ってくれよ」
よく分からんが、二人とも勝手に納得してくれたらしい。
別にストイックでも、なんでもないんだけどね……。
そんな事を考えてると、新たなバケモンが現れた。
「あ、あれは!! 超々レアバケモンじゃねえか!!」
「鹿の角を生やした異国の僧の出で立ちで、その名もせん──」
「だからアウトだって言ってるだろーーーーーーーーーー!!」
まったく、こいつらは正気なのだろうか。
もはやバケモンではなく、ご当地キャラになってきてるし。
「セッキーさん、本当にどうされるのですか? 他の方達は既にゲットされているようですの」
メルさまの言う通り、周囲からは『バケモンゲットだぜ!!』の声がチラホラと聞こえてくる。
それはそうと、この森に姿を隠してる人達が気になるんだよな。
最初は気にしてなかったんだが、かなりの人数だ。イベントスタッフにしては多い。
しかも、巧みに気配を消してるので、探知魔法でも使わない限りは気づかないだろう。
今の俺は女神の加護やらで、気配察知も可能になってて便利なのだ。
……隠れている者は、武装してる気配がする。
「なあ、レイズ」
「おいリョウヤ! あそこにバケモンがいるぞ!!」
本当にイベントスタッフなのかと尋ねようとしたところで、レイズがバケモンを発見してしまった。
タイミングが悪いなあ。
……いや、待て。
あのバケモンは、黄色くて丸っこい。
もしや、あれこそ皆が知る伝説級のバケモンではないのか!?
そう思ったのだけど、なんか違う。
豚みたいな体型の猫だろうか。妙に腹が立つ顔をしている。
「あれは……豚猫だな」
「ええ、豚猫バケモンね」
レイズとノノミリアの反応からすると、全然レアではないのだろう。
「セッキーさん、あの物体はバケモン図鑑にも記載されてませんの。新種でしょうか」
未発見バケモンか。これは俄然ゲットしておきたい。
恐らくは、図鑑に載らないぐらい色んな意味で危険ではないという判断である。
「え? マジであれを捕まえるのか?」
「やめときなよ、リョウヤ君……」
二人から止められるが、益々捕まえたくなってくる。
「えっと、捕まえる時は、バケツをどうするんだっけ?」
「本気で捕まえる気なんだな……。確実な方法は、このバケツで殴り付けて弱らせればいいんだよ」
「手っ取り早いのは、脳天に一撃ね」
一気にバイオレンスな話になったな。バケツを投げてゲットじゃないのか?
一方、俺達の言葉が理解できるのか、黄色い猫豚が涙目で怯えている。
「さあ、一気に殴っちまえ!」
「叩きつけるようにね!」
不細工だが、あんな怯えた表情をされたら殴り付けるなんてできない。
「あのさあ、要はこのバケツに入ってもらえばいいんだよな?」
「そうだが、自分から大人しく入るバケモンなんていないと聞くぞ」
「上手く頭から被せるか、気絶寸前まで殴って弱らせてからがセオリーと図鑑に書いてあるわね」
そうは言うが、ここは上手くおびき寄せて入ってもらう事にしよう。
あんな憎たらしい顔してるのでも、虐待は良くない。
だけど、どうやっておびき寄せたらいいんだ?
すっかり警戒されてしまっているので、ここは食べ物で釣るか?
色気女にもらった焼き芋が残ってる事を思い出した。
袋から取り出すと、豚猫の目の色が変わる。
そして、そのままダッシュで俺のところまでやってきて、俺から焼き芋を奪って一心不乱に食べ始めた。
「……随分と卑しそうなバケモンですの」
メルさまが呆れるぐらいだから、相当なのだろう。
断じて可愛いマスコットキャラではない。
「それはそうと、こいつの名前ってなんなの? 二人とも知ってるか?」
「いや、すまん。俺も初めて見た」
「図鑑にも載ってないから、リョウヤ君が名付けてみたら?」
第一発見者として、命名権があるのだろうか。
だとしたら、こいつの名前はどうしようかな。
豚っぽい猫だから、ぶーにゃ……いや駄目だ!!
何故かは分からないが、その名前は非情に危険な気がした。
恐らくは神の啓示だろう。
(私、まだ何も言ってませんけど……)
何か幻聴が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
とにかく、焼き芋を一心不乱に食ってる豚猫の名前だ。
豚猫じゃなくて……猫豚?
それなら、ニャンブーにするか!!
「よし、お前の名前はニャンブーだ!!」
すると、猫豚は俺の顔を数秒見つめた後、自分からバケツに入った。
図体がでかいので、バケツには入りきらずにケツだけ突っ込んで座る感じになっているのがシュールだ。
「これでゲットしたのか?」
「どうなのかしら?」
レイズとノノミリアが首をかしげてるが、俺が分かる訳がない。
その時である。
背後から色気女が現れ、目ざとくニャンブーを見つけたようだ。
「あら? それをどうやって捕まえたのかしら?」
「普通に自分からバケツに入っただけですよ。寄越せと言われても譲りませんからね」
いるんだよなー。色仕掛けとかで美味しいところを持っていく奴って。
騙される方も悪いんだけどさ。
「……ふうん。無理矢理って訳では無さそうね」
色気女は勝手に納得して何処かへ行ってしまったようだ。
「今のはなんだったんだ?」
誰も俺の問いに答える者はいなかった。
「リョウヤもバケモンを捕まえたし、これから街に戻るか」
「そうね。この後は各自ゲットしたバケモンでバトル始めるから準備しないと」
帰ろうとする二人を俺は止めた。
「待ってくれ。何かおかしい」
「セッキーさん、何かありましたの?」
「ああ、妙なんだ。二人とも、この森にイベントスタッフを配置してるのか?」
「イベントスタッフだって? この森になんていないぞ」
「むしろ、人数が足りないぐらいなんだから、こんな場所にいるわけないじゃない」
……拙いな。既に囲まれてるようだ。
「お、ここにもいやがったぜ!」
「へへっ! 今回の仕事はチョロいな」
「ボスも大喜びだろうよ」
盗賊みたいな男達が数人現れた。それぞれ、その手には物騒な物を持っている。
「お前ら、何者だ!?」
レイズが剣を抜こうとするが、帯剣していないのに気付く。
今はイベントの司会役なので、本格的に武装していなかったのだ。
それはノノミリアも同じであり、魔法攻撃用の杖を持っていない。
二人は護身用の短剣を構えるが、盗賊達は余裕の表情である。
「大人しくすれば、命までは取らないぜ」
この手の奴らの言う事は、信用できないのがお約束でもある。
「セッキーさん、どうされるのですか?」
幾分顔色が良くないメルさまが小声で尋ねてくる。
彼女は以前、盗賊達と戦った際に押し倒された事があるので、嫌な記憶が残っているのだろう。
「奴らの目的も気になるし、少し様子を見よう。大丈夫、俺がメルさまの事は守るから」
「そう……ですか。分かりました。セッキーさんに従います」
実際のところ、今の俺ならこんな男達はすぐに排除できるが、あれだけの人数が隠れていたのだ。
単なる物取りとは思えない。その上、イベント参加者には非戦闘員も多くいた。
その人達の安否も気になるので、下手な動きはできない。
レイズ達も同じ考えに至ったのか、短剣を投げ捨てて投降した。
「へへ、物分かりのいい奴は長生きできるぜ?」
そう言いながら、男達は二人の両手を縄で縛る。
その光景を見つつ、メルさまに小声で話し掛けた。
「メルさま、怖いだろうが少しだけ我慢してくれ」
「承知しました。今のわたくしなら、あの程度の縄なんてすぐに引きちぎれますけどね」
随分と頼もしい返事であったが、流石に表情は硬い。
「……お前、それバケモンだよな?」
俺の手を縛ろうとした男が、バケツに尻からハマってるニャンブーを見て訝しんでいる。
「そうみたいだが、何か?」
「い、いや、普通捕まえたバケモンってのは、バケツに封印されるはずじゃないのか?」
「そうなのか? 初耳なのだが」
男はしまった、というような顔をする。
そこで確信した。こいつらはただの盗賊じゃない。そして、バケモンについて詳しそうだ。
「う、うわあ!! 何するんだ!?」
別の男が、ニャンブーの入ったバケツを持とうとして悲鳴を上げている。
何ごとかと思えば、凶暴な顔のニャンブーに噛みつかれてるのだ。
「く、くそう!! お前が捕まえたバケモンなら、お前が持て!!」
なんかよく分からんが、ニャンブーの入ったバケツを持たされる事になってしまった。
俺がバケツを持つと、ニャンブーは大人しくなる。
可愛げのある奴だな。顔は可愛くないけど。
こうして、俺達は森の中を歩かされ、森の中心部に集められた。
森の中心部には、バケモンバトル参加者や見物人達が一ヶ所に集められている。
その中にはケフィン達の姿もあった。俺の方を見て頷く。彼らも他の参加者の安全を考えて抵抗はしなかったようだ。
あれ? 色気女の姿が無いな。上手く逃げたのだろうか。
「リーダー、これで全員ですぜ」
俺達を拘束していた男が、リーダーらしき男に声を掛ける。
その男はニヒルな男であった。
「てめえ! 俺達の事を騙してやがったな!! 一体何が目的なんだァ!?」
熱血主人公が喚き散らすが、すぐに盗賊達に取り押さえられてしまう。
その姿を一瞥し、ニヒル男が俺の方へやってきた。
「……それは、バケモンなのか?」
さっきの男と同じ事を聞いてくるな。
「さあ? 俺もよく分からないのだが」
「まあ、いい。あそこにバケツを置いてもらおうか」
ニヒル男が指し示す場所には、蓋のされたバケツが並んでいる。
あの中にバケモンがいるのだろうか。
ちなみにだが、俺のバケツはどうあがいても蓋が閉まらない。
「ニャンブーよ、すまんな。後で助けてやるから少し我慢してくれ」
ぶしぶしと鼻水を垂らしながら泣くニャンブーを宥めながら、バケツを置いた。
「リーダー、これでボスも大喜びですね! 一体いくらで売れるのやら」
「……そうだな」
こいつらバケモンの密猟者だったのかよ。
俺なんて、ついさっきまでバケモンの存在すら知らなかったのに、世の中には好事家が多いものだ。
盗賊達が、集められたバケツを荷馬車に積み込む作業を始める。
何故か俺のニャンブーは後回しにされているが。
それはそうと、まだ隠れている奴らの気配がある。予想以上に大がかりな密猟グループのようだな。
隠れていた新手が動き出す気配を感じた。まさか、俺達を口封じするつもりだろうか。
いよいよとなったら、俺も本気を出すぞ。
そう覚悟を決めた時であった。
「全員その場を動くな!! 王国特殊犯罪捜査官のエイザ・カーティだ!! 希少生物の密猟容疑で、お前達を逮捕する!!」
なんとまあ、あの色気女であった。
彼女に続いて、武装した兵士達が大勢現れたのである。




