785 ぶっちゃけバトルとか面倒なんだけど
バケモンバトルをするにしても、まず野生のバケモンを捕まえないといけない。
そんな訳で、俺を含めたバケモンバトル参加者は、いきなり街の外に放り出された。
物好きな観客の一部も、俺達を追ってついてくるようだ。
その中にはメルさまの姿もあった。
「わたくしも、セッキーさんにお供しますの」
「ついてくるのはいいけど、バケモンとやらの正体が分からない以上、気をつけてくれよ。守り切れない場合だってあるんだから」
「まあ、セッキーさんは、わたくしの事を守ってくださるのですね!」
メルさまが両手を組んで、飛び上がるように感激している。
流石に大袈裟だろ。
「うふふ。殿方に守られるというシチュエーションが良いのですよ」
「そんなもんかねえ」
「そうですの。ほら」
メルさまが目を向ける先には、さっき絡んで来た色気女が悔しそうにこちらを睨んでいる。
「もしかして、彼女への当てつけか?」
「さあ、どうでしょう」
相変わらず、メルさまもいい性格してるよな。
ふと周囲を見ると、バケモンバトル参加者は結構いるらしい。
ざっと数えると二十人以上はいるだろうか。
その中には、先程見掛けた熱血主人公とニヒル男の姿もあった。
「っしゃあ!! お前より絶対に強いバケモンを先にゲットしてやるぜ!!」
「……フン、ただ闇雲に探せばいいってものじゃないぞ」
「なんだとぅ!? お前、俺に何か隠してるな!?」
「別に隠してないさ。バケツと一緒にバケモン図鑑をもらっただろう? そこにマリルガル地方に生息するバケモンの特徴が載っている。自分に合ったバケモンを選んで探した方が効率がいいという訳だ」
「……くっ! 確かにお前の言う通りみたいだな!! だ、だけど礼は言わねえからな!!」
「……フン、礼ならせいぜい強いバケモンを捕まえて、俺をバトルで楽しませるのだな」
「おうよ!! やってやらあ!!」
なんだか、普通にあいつらって仲いいよな。
俺とメルさまで感心してると、いつの間にか色気女が俺の隣にやってきていて、同じく頷いていた。
「フフ、あのニヒルな彼はバケモンについて、素人じゃなさそうね」
「はあ……。というか、お姉さんはバケモンバトルに興味無いんじゃなかったんですかね?」
俺が尋ねると、色気女が一瞬ビクッとなった。
「そ、そうよ! 私はバケモンとやらに、まーーーーったく興味が無いの! ホントだからね?」
ここまで嘘が下手な人も珍しいよな。さっきまで、いい男を探しに来たと豪語していたのだが、物凄い手の平返しだ。
思わずメルさまと顔を見合わせてしまった。
「ふん! お子様たちはこれでも食べてるといいわ!!」
色気女が紙袋を強引に俺に押し付けて、先に行ってしまった。
紙袋の中身は何故か焼き芋だ。見た目によらず、随分と渋いオヤツだな?
そんな事よりも、俺もバケモンを探さなければ。
もらった焼き芋を食べながら街から少し行くと、畑が広がり民家がまばらな場所に到着した。
一気に田舎になったな。街の外は長閑な風景が広がっている。
「ここらが俺達の本当の故郷だ」
「あたし達、この近くに実家があるんだ」
いつの間にか、レイズとノノミリアが隣に立っていた。
お前ら、イベントの司会は放り出していいのか?
「後はオーツキ博士がなんとかやってくれるだろう」
「そうね。彼、『バケモン言えるかな?』という歌まで作ってたし、今頃熱唱してるはずよ」
だから、それ本当に大丈夫なんですかね……。
「俺さ、こんな田舎が嫌で、親に無理言って王都に行ったんだよ」
「そうそう。レイズったら、昔から周囲の話を聞かないもんだから、みんなに迷惑を掛けまくってたんだよね」
なんか二人の昔話が始まったぞ。
「それなら、ノノじさんは色々苦労されたでしょう?」
「あはは、その呼び名もなんか懐かしいなー。そうなの。あたしはレイズのお目付け役だったんだから!」
「おい! 今さらそんな話をするなよ!!」
「なによう。王都には、あたしが同行するってのが条件だったじゃないの」
「ぐぬぬぬ……」
何やら、幼馴染みのほっこりエピソードみたいなのが繰り広げられてるが、当事者以外は聞いていて面白くないぞ。
「分かるわ~。私も聞いてて、ちっとも面白くないし。むしろ、あの二人は爆発しなさいよ」
いつの間にか隣にいる色気女に激しく同意されても困るのですが。
取り敢えず話題を変えよう。
二人の馴れ初めを聞きに来た訳じゃないのだ。
「それよりもさ、バケモンはどこにいるんだよ?」
俺の核心を突いた質問により、周囲の参加者達の視線がこちらに集中する。
そうなのだ。なんか普通にみんな固まって歩いてきたのだが、バケモンらしき魔物は一匹も見つかっていないのだ。
まさかとは思うが、幻の生物とか言うなよ。バトル以前の問題になる。
「あーそれなら、向こうの森が出現率が高いって聞くな」
「みんな、バケモン図鑑を読んでるー? ちゃんと載ってるから」
ノノミリアに言われて、参加者達が慌ててバケモン図鑑のページをめくる。
「おお、本当だ!!」
「こんな詳細に出現場所が載っているなんて!!」
「盲点だった!!」
「レリエールさんとデートするのは俺だ!!」
参加者達が慌てて森へと走っていく。
それはそうと、最後の奴は盛り上げ役のサクラだったんじゃないか?
「リョウヤ君、僕達もお先するよ」
「いくらリョウヤでも、手加減はしないからな」
「レアバケモンを先にゲットさせてもらいますよ」
ケフィン達も行ってしまった。
気づくと、色気女の姿も無い。あいつも真面目にバトルをする気になったのだろうか。
「セッキーさんは、急がなくていいのですか?」
「まあ、残り物には福があるって言うし。……それよりもさ、二人ともちょっといいかな?」
俺が真面目な顔で問いかけると、レイズとノノミリアも表情を硬くして頷く。
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「もしかして、危険な気配でも察知したの?」
「いや、そうじゃない。賞品の桜水晶を特別に譲ってもらえないかな? ぶっちゃけバトルとか面倒なんだけど」
「「「……………」」」
レイズ、ノノミリア、メルさまの三人が黙り込んでしまった。
「あのさあ、これ町おこしのイベントって分かってるよな?」
「あたしたち、頑張って準備してきたんだよ?」
「セッキーさんは、お二人や街の人達の頑張りを台無しにされる気ですの?」
何もそんなに睨まなくてもいいじゃないかよう。
「冗談だよ。取り敢えず言ってみただけだ。無駄な争いをしたくなかったのだけどな」
三人に心底呆れ果てた顔をされてしまった。
「争う以前に、バケモンを探してから言えよな」
「バケモンを捕まえられなかったら、その時点で失格だからね?」
なんですと!?
「セッキーさんもいい加減に真面目にやってください。ベルガさんが復活させられなくても良いのですか?」
そんな訳がないだろうが。
「なんだ? その話」
「何か訳アリなの?」
二人から尋ねられ、ベルガの顛末を話した。
「いや、にわかには信じられないんだが……」
「古竜が妖精王に……リョウヤ君、あたし達の事バカにしてない?」
「してねえよ。本当の話だっての」
メルさまも頷いてくれたので、二人は信じてくれたみたいだ。
「だけど、これは町おこしのイベントなので、リョウヤに便宜を図れないんだよな……」
「気にするなよ。俺もイベントを滅茶苦茶にしたい訳じゃないし。真面目にバケモンバトルをやるさ」
「ごめんね、リョウヤ君。バケモン探しはあたし達も手伝うから」
「俺達にできる事があれば、言ってくれ」
レイズの発言にメルさまが反応した。
「セッキーさん、ここまでお二人が協力してくれてますの。是非とも有意義な情報をいただきましょう」
そうだな。
俺は気を引き締め、レイズと向き合う。
「だったら、一つ教えてくれないか?」
「なんだ? 最強バケモンの事か?」
「いや、レリエールさんって何歳なんだ?」
「「「……………」」」
レイズ、ノノミリア、メルさまの三人が再び黙り込んでしまった。
三人からは呆れ果てられてしまったが、レリエールさんに年齢の事を聞くのはタブーらしい。
少なくとも、レイズとノノミリアが物心ついた時には、とっくに成人していたそうだ。
「まさかとは思うけど、この期に及んでリョウヤはレリエールさん狙いなのか?」
「リョウヤ君、みんなから本気で刺されるよ? 斧で襲われてナイスボートだよ?」
ノノミリアの言ってる事がよく分からないが、とにかく恐ろしい事が起きそうだ。
「違うって、ただの興味本位で聞いただけだって」
「セッキーさん、よく『好奇心は猫を殺す』と言われますよね。程々にされたら良いですの」
「……はい。以後気をつけます」
三人から叱られてしまったので、真面目にバケモン探しをするとしましょう。
道すがら、ノノミリアが色々を説明してくれる。
「あのね、このマリルガル地方のバケモンは、昔から『雷ネズミ』系のバケモンが多いの。そのせいなのかは知らないけど、あたしを含めて雷撃系の魔法が得意な人が多いんだよね」
ほうほう。中々ためになるな。
しかし、雷ネズミって、~チュウって鳴くやつなのだろうか。
色々危険な予感しかしない。
そうこうしているうちに、森へ到着。
何やら向こうの方が騒がしい。それにしても、森の中は人の気配がやけに多い気がするな。
参加者以上の人数だ。見物人では無さそうなので、イベントスタッフだろうか。
「もう野良バトルが始まってるな。リョウヤ、急いだほうがいいぞ。強いバケモンが先に捕獲されちまう」
そんな事を言われても、まずはバケモンを見つけないと始まらない。
「セッキーさん、あそこですの!!」
メルさまが指差す先に何かいた。
そいつは丸っこい体で、顔がオッサンっぽい。
「リョウヤ君、あれが雷ネズミ系バケモンのアラ・イチュウだよ!!」
……これ、どう反応したらいんだろうな。
「リョウヤ、早くバケツを投げつけろ!! 逃げられるぞ!!」
いや、普通に捕まえたくないんだけど。
「ああ、逃げられちゃった!!」
「何やってるんだよ!!」
二人から責められるが、あんな嫌なバケモンは要らない。
「お二人とも。セッキーさんは、レアなバケモンを狙っているのですよ」
「メルさん。今のアラ・イチュウって凄くレアなバケモンだったんだよ?」
マジかよ。いくらレアでもあんなの要らない。
「おい、あそこを見て見ろ! 超レアの……ド・ラエロモンだ!!」
さっきよりやべえのが現れたよ。
二頭身の自称猫のタヌキっぽい奴だ。多分どら焼きが好きなのだろう。
「あ! もう逃げちゃった……。リョウヤ君ったら遅いよ」
そんな事を言われましてもねえ……。
「セッキーさん、スライムタイプのバケモンですの!」
ほほう。そんなのもいるのか。
「あ、あれは! 超レアなスライムバケモンだぞ!!」
「表面に点々が見えるでしょ? 略して点スラ!!」
マジでやめてください。
危険過ぎます。
当たり前のように、こいつもスルーしておく。
「まったくリョウヤは何やってるんだよ。あんなにレアなバケモンが連続して現れたのに、みすみす逃がしてさ……」
それ以前に、多方面から訴えられて終わりそうだ。
「そうよ。こんなに連続でレアバケモンは滅多に出ないのよ……って!! あれこそ超絶レアのクマ型バケモン!! その名クマモ────」
「はいアウトーーーーーーー!!」
俺が大声を出したので、つぶらな瞳の黒いクマ型のバケモンが逃げてしまった。
「おい! 何考えてるんだよ!! あんなレアバケモンは、一生に一度捕まえられるか分からないんだぞ!!」
「他の人に捕まえられちゃったら、賞品どころの話じゃないんだからね!?」
俺としては、賞品以前に訴えられないか不安です。




