782 うーん! ピンク!!
オーツキ博士の説明が物凄く長かったので、適当に省略しておく。
ミステリーサークルや天変地異も全てプラズマの仕業で説明できるとか言っていたが、多分理解できている観衆はいなかったと思う。
そんでもって『バケモン』とやらは、このマリルガルの街付近に存在する魔物の固有種だそうな。
オーツキ博士曰く、それすらもプラズマだとか。意味が分からん。
その魔物とやらは子供でも簡単に捕まえられ、バケツに入れて持ち運びができたので、古くは『バケツの魔物』と呼ばれていたそうだ。
それがいつしか呼び方が変化していき、『バケツ魔物』から『バケモン』に変わったとか。
そして、これから俺達はバケモンを捕まえに行くことになるそうだ。
激しく面倒くさい。一方、ケフィン達はなんか凄くやる気出してるし、他の参加者達もやる気満々な様子である。
思わず脱力してると、レイズがオーツキ博士を押し退けて壇上に上る。
博士をその扱いでいいのだろうか。
「ええっと、バケモン捕獲の前に今回のバケモンバトルの賞品を説明するぞー。まずは参加賞だ。なんと、マリルガル商店街全店で使える商品券だあ!!」
観衆の反応は微妙だ。
商店街と言っても、そこまで大きくない。王都と比べてはいけない。
「商品券だとう!? もの凄く欲しいぞ!!」
明らかにサクラだろうと思われる男が、セリフ棒読みで叫んでる。
逆に悲しくなってくるな。
観衆の反応の薄さに首をかしげているレイズ。
まさか、本気で盛り上がると思っていたのだろうか。
参加賞なのでそんなものだろう。
「続いては第三位の賞品だ! 街の長の娘であるレリエールさんとの一日デート権だあ!!」
どの層に向けた賞品なんだよ。このご時世、コンプラ的に問題ありと指摘されるぞ。
思わずメタな事を考えてしまう一方、観衆の反応はまたもや微妙である。
それもそのはず。レリエールさんとやらは、かなりの妙齢の女性であった。
俺の守備範囲にギリギリ入っているが、素人にはお勧めしかねる。
「レリエールさん! 結婚してくれーー!!」
盛り上げ役のサクラの男が棒読みではなかった。
案外本気なのかもしれない。俺は応援するぞ。
一方の結婚してくれと言われたレリエールさんは、物凄く嫌そう……って、そんな事を考えてる場合ではなかった。
お次は二位の賞品の紹介だ。
「第二位は……なんと、ミスリル製の座布団!! 硬くて丈夫だけど、座り心地は最低だ!! なんて素材の無駄使い!!」
売れば、そこそこの値段になるんじゃないかなあ。
今はまだ、北の鉱山都市から入ってくるミスリルの量も少ないみたいだし。
案の定、観衆はどう反応していいのか、戸惑っている。
他の参加者は冒険者なのか、ミスリルと聞いてかなり目が血走っている様子。
ケフィン達も、ミスリルには興味があるみたいだ。
しかし、この賞品を考えた奴は何を考えてるのやら。妙齢女性とのデートやミスリルの無駄使いとか。
思わず首をかしげてると、メルさまが足音も立てずに近寄ってきた。
怖いから普通にきてね。
「セッキーさん。わたくし情報によりますと、今回の賞品の発案者はマリルガルの街の長だそうですの」
「そりゃまたとんでもねえな。というか、娘のデート権っていいのかよ」
「レリエール嬢……と、お呼びしてよい年齢なのかどうかは判断に悩むところですが、早く相手を見つけてあげたい親心なのでしょう」
メルさまも割と失礼な事を言うよな。
いつもの事か。
「今、失礼な事を考えませんでしたか? それはそうと、次は優勝賞品の紹介ですの」
メルさまの鋭さに恐怖を覚えながらも、優勝賞品の紹介をするノノミリアに目を向ける。
「これが今回の優勝賞品の桜水晶です!!」
これまた一抱えもありそうな大きさである。
名前の通りに薄い桜色で綺麗な水晶の塊だ。普通に飾っても楽しめそうだな。
ベルガを復活させるための素材なので、是が非でも入手したい。
「うーん! ピンク!!」
サクラの男の桜水晶の誉め方が雑過ぎる。
そんでもって、サクラと桜で駄洒落じゃないからな。
「そして、副賞として王都で人気急上昇中のコンセプトカフェの優待券をプレゼント……って、なんなのこれ?」
自分で説明してて疑問に思っちゃ駄目だろ。
しかし、如何にもオッサンの考えそうな賞品だなあ。
これも街の長が考案したものなのだろうか。町おこしイベントなら、もっと頑張ってくれ。
「コンカフェだとう!?」
「一度行ってみたかったんだ!!」
「くそう、俺もバケモンバトルに参加すれば良かったぜ!!」
「こうなったら、優勝者に優待券を売ってもらうぞ!!」
俺の予想とは裏腹に、何故か盛り上がる観衆の男達。
というか、最後の奴はその金で普通に店に行けよ。
一方、バトル参加者の反応は読めない。
こんな賞品では盛り上がりに欠けるよなあ。
「っしゃあ!! 俺は賞品なんて興味無いぜ!! とにかくバトルだぜぇぇ!!」
頭に鉢巻を巻いた熱血主人公みたいな若い男が雄叫びを上げている。
それを横目にニヒルな感じの優男が不敵に笑った。
「……フッ。まだまだ青いな。気合いだけでどうにかなる戦いではない」
「なんだとう!! てめえ! 俺と勝負だァ!!」
そんな男二人を冷めた目で見る女が隣にやってきた。
「まったく暑苦しいわね。あなたもそう思わない?」
胸元が大きく空いた服で胸の谷間を見せつけてくる。そして、色気をこれでもかというぐらいに撒き散らすので、観衆の男達は前屈みだ。
昔風に言えば、お色気ムンムンというやつだろうか。香水の匂いも凄い。
俺は見てるだけで既にお腹いっぱいなので、適当に返事をする。
「はあ、まあそうですね……」
今になって気づいたが、俺はこういうタイプは苦手らしい。
ミっちゃんママみたいな人の色気は上品なので、気にはならないのだが。
反応の薄い俺を緊張してガチガチになってると思ったらしい女が、いきなり手を握ってきた。
いきなり大胆ですな。
同時にメルさまに無言でつねられる。
見知らぬ女にデレるなって事らしい。別にデレてないんだけど。
「……ふうん? そこの小娘なんかより、私の方が楽しませてあげるわよ?」
まるで、獲物を見つけて舌なめずりする肉食獣である。
「いやいや、あなたはここに何しにきたんですかね? バケモンバトルですよね?」
「私はバトルなんてどうでもいいのよ。お金を持ってそうで若い男を探しにきたの」
いくらなんでも、ぶっちゃけ過ぎだろ!
だが、この色気女の嗅覚は侮れない。確かに今の俺はそこそこの資産家だ。
参加するイベントを間違えてるような女まで参加させて、このバトルは大丈夫なのだろうか。
「若い男なら、あっちにもいるでしょうよ」
色気女を押し退けながら、ケフィン達に目を向ける。
彼らがどうなってもいいとは思ってないけど、俺の為に犠牲になってくれ。
「ははは! 僕はお断りだね」
「俺も同じく」
「私も同じです」
三人とも速攻で拒否りやがった!!
コケにされたであろう色気女が、歯ぎしりをしている。
「どいつもこいつも私の事を馬鹿にして!! もう絶対に食ってやるから!! 覚悟なさい!!」
恐ろしい捨て台詞を残して行ってしまった。
まあ、既に色々な女性に食われてるんですが。
しょうもない事を考えてたら、再度メルさまにつねられた。
「セッキーさん?」
「違うって。俺はああいうタイプは好きじゃないから。年上ならなんでもいいって訳じゃないし」
「そうですか。今更ですが、どんな女性が好みなのですか?」
「うーん……メルさまみたいなタイプ?」
ベタだけど、誉めておこう。
きっと控え目にデレてくれるはず。
「セッキーさん……!!」
ほら、感極まって抱きついてきた。
「えい」
「ぎゃあああああ!!」
何故かチョークスリーパーを仕掛けられた。解せぬ。
まったく、女心って分からんぜ。
そんな事をしてるうちに、いつの間にか参加者各自にバケツが配られていく。
これまた至って、普通のバケツである。
「参加者達よ、よく聞くのだ! このバケツは特殊な素材で作られていて、プラズマすらも封じ込められるのだ!!」
オーツキ博士曰く、これにバケモンを入れてこいって事らしい。
特殊な素材とは言うが、どう見てもトタン製のバケツである。
「おい博士とやら!! どうやってこれにバケモンをゲットすればいいんだァ!?」
暑苦しい若者が知りたい事を尋ねてくれた。
意外に有能な奴かもしれない。
「おお、説明を忘れていた。野生のバケモンを見つけたら、このバケツを投げつけるのだ。そうすれば、バケモンを捕まえられるぞ」
「よし分かった! これでバケモンゲットだぜ!!」
……これ、色んな意味で本当に大丈夫なのかなあ。




