778 美容の薬ですよ。飲めば分かります
黒真珠の名称を暗黒真珠に変更しました。
ようやく懐かしの我が家に帰ってきたぞって、実際は王都を出発して一日も経ってないんだけどね。
今日は疲れたから寝る……という訳にはいかない。
ユンファオ君の王立学校への編入手続きやら、引っ越し作業もある。
ついでにオルテッドさんの就職活動だ。
地下闘技場の実況役で働きたいとか言っていたので、ズンこさんを呼び出して訳を話したら、人手が欲しかったところだと喜んでいた。
「お主よ、最初に言っておくが、我がズンこランドの地下闘技場の職員は、試合に賭けるのは禁止だぞ。八百長に繋がりかねないのでな」
ズンこさんにそう告げられて、オルテッドさんはこの世の終わりみたいな顔をしていた。地下闘技場で賭ける気満々だったらしい。
そして、意気消沈のまま連れて行かれてしまった。
一方、メグさんは、常宿にしていた月花亭へ帰還の挨拶へ向かったので、ユンファオ君の編入手続きをリリナさんにお任せする事にした。
その間、アユルナさんは我が家のメイド達へ挨拶だ。
本職メイドのナツメさんはともかく、メアが先輩風を吹かそうとしているのは、どうなのだろう。
それはそうと、これで俺もようやく元の姿に戻れる。
元の姿に戻ったところで、シレっと我が家に残るミンニエリさんを発見した。
「ミンニエリさんは、メグさんと一緒に行かなくて良かったんですか?」
「いえ、私はここに住もうかと……」
恐ろしい事を言わないでください。
他の子達の視線が俺に既に集まっている。
これ以上、好き放題にさせてたまるかという感じだ。
「ところで、私ずっと気になってたのですけど、今日のメグさんってなんか可愛くありません?」
周囲の視線を感じたのか、いきなり話題をすり替えてきたな。
しかし、ミンニエリさんの言っている事は正しい。
他の子達も同感だとも頷いている。
今日のメグさんは、どこかお嬢様っぽい服装なのである。
実際に王女様なので、本来はどこもおかしくないのだけど。
「あざといですよね? 彼女があんな姑息な手段に出るとは思いませんでしたよ。もう幻滅です!」
何故か怒るミンニエリさん。
何が姑息なのか分からないけど、そんな言われ方をするメグさんが可哀想になってくるな。
「なので、私もここで住みたいなあと思います。いいですよね?」
グイグイ迫ってくるミンニエリさんが怖い。
みんなの視線も怖い。
「い、いきなりそんな事を言われても……」
「じゃあせっかくなので、これを進呈しますから駄目ですか?」
そう言って、先祖伝来の黄金色の琥珀を無理矢理に渡してきた。
大事な家宝を雑に扱わないで!
一方、黄金に輝く琥珀を目にしたメルさまやミっちゃんの目の色が変わった。
君達、浅ましいぞ。なんと嘆かわしい。
そんな時だった。突然目の前の空間が光り輝いて、妖精王のリンデルフィーアことリンデルさんが現れた。
「あら、リョウヤではないですか。丁度良いタイミングでしたね。ベルガの器の素材をいくつか入手してきましたよ。他に必要な物もリストアップしたので、確認してください……むむむ? リョウヤも既に入手してきたとは流石ですね!」
リンデルさんに琥珀の塊をヒョイと取り上げられた。
「あ、あの、それは私がリョウヤさんに……」
「何を言うのですか。これは太古の昔から伝わる黄金琥珀ですよ。人が持っていて良いものではありません。もう妖精界には残っていないと半ば諦めかけていましたけど、まさかこんな形で見つかるとは僥倖です。これで、ベルガの復活に一歩近づきました」
「あ、あの、だからそれは……」
いきなり取り上げられてしまったので、ミンニエリさんも困っている。
流石に横暴が過ぎるな。
「リンデルさん、それはミンニエリさんの家に伝わる家宝みたいなものらしくて、問答無用で取り上げるのは、ちょっと勘弁して欲しいかな」
「ふむ? リョウヤはベルガが復活しなくても良いと言うのですか?」
「そうは言ってないですよ。それは元々ミンニエリさんの物ですので……」
「確か異国のことわざで、『豚に真珠』とか『猫に小判』というのでしたっけ?」
いやあ、妖精もいい性格してるよなー。
ミンニエリさんが涙目である。
「そこのミンニエリという者も、これの価値を知らないでしょう? 使い道に困るから、売り払ってしまおうかと考えていた顔をしてますよね」
図星である。
俺達は何も言い返せなかった。
「それじゃあ、何か対価をくれませんか? ミンニエリさんも、それでいいですよね?」
せめてもの妥協案である。
金銭的な対価でもあれば、諦めもつくだろう。
「そうですか。ならば、これを差し上げましょう」
そう言って、リンデルさんは液体の入った綺麗な小瓶をミンニエリさんに手渡した。
「これ、なんでしょうか?」
「ふふふ。美容の薬ですよ。飲めば分かります」
美容の薬とは言うが、美しい妖精王がくれた物だ。恐らくとんでもない価値なのだろう。
一方、メルさまが薬と聞いて興味津々みたいだが、リンデルさんが『ここで今すぐ飲みなさい』という謎のプレッシャーを掛けてくるので、それどころじゃない。
「さあ、どうぞ」
笑顔の圧が凄い。
遂にミンニエリさんも諦めて、恐る恐る薬を口にした。
「……!? 甘くて美味しいです!! こんな上品な甘さは初めてですよ!!」
甘い物には割とうるさいミンニエリさんが絶賛する程の美味らしい。
ちょっと気になってきたぞ。
「ふふふ。お気に召したようで良かったです」
「ところで、この薬にはどのような効果があるのでしょうか?」
「いずれ分かりますよ」
そんな事を言われたら滅茶苦茶気になるでしょうよ。
結局、薬の効果が判明したのは数年後の事であるのだが。
それからミンニエリさんの我が家への引っ越しは保留にしてもらい、リンデルさんが持ってきた『ベルガ復活計画』の書類を日当たりの良いサンルームで読む事にした。
「ところで、リョウヤよ」
「はい?」
「あれはどういう状況ですか?」
庭先では精霊樹の幼女達が駆け回っているのだ。
そこに魔力剣姉妹や、何故かピアリまで交じって遊んでいる。
いや、むしろ幼女達の面倒を見ているっぽいな。
微笑ましい光景なのだが、妖精王はそう思わなかったらしい。
「あんな密度で精霊が集まるのは、ありえないのですけど」
「何かマズい事でもあるのですか?」
よく見たら、ミニ精霊樹の木陰で鏡子さんやエリカにメアとナツメさんの鏡グループがお茶をしている。
確かに精霊が集まり過ぎな気もするな。
「世界に歪みが出ますよ」
なんと恐ろしい事を言うのだ!?
女神が何も干渉してこないから問題は無いと思っていたのだが……。
(そこのところ、どうなんですかね?)
念話で女神に問いかける。
今日はすぐに返事が返ってきた。
(安心してください、大丈夫ですよ。代わりにあなたの性癖が歪んでますから)
(おいコラ、ケンカ売ってるんか?)
(冗談ですよ。実際のところ、あなたという存在が面白いぐらいに歪んでますけどね)
(それ、大丈夫なのかよ……)
(いよいよとなったら、私が消滅させますから気にしないでください)
(マジか……)
(うふふ。冗談ですよ。いざとなったら、全力で守ってあげますから)
そう言って、念話が途切れた。
いきなり守るとか言われると、なんか調子狂うなあ。
思わず脱力してると、リンデルさんがジト目で俺を見ていた。
「私が目の前にいるのに、エルファルドと秘密の念話ですか」
「……なんで分かるんですかね」
流石は妖精王。なんでもお見通しなのだろう。
「私に黙って密会の約束ですか? あの女も懲りないですね」
なんだか、リンデルさんも急に面倒くさくなってきたぞ。
「そんなんじゃないですよ。歪みの話ですよ」
「ああ、リョウヤの性癖が歪んでいるって話ですね」
まったく、どいつもこいつも……。
パンツが好きで何が悪い!!
「それはそうと、リンデルさんと女神って、異世界の勇者を取り合ったんですってね」
「!? どうしてそれを!!」
めちゃくちゃ動揺してるなあ。
「結局、女神が勝利して勇者と結婚したと」
「ああ……はい……嫌な事を思い出しましたよ」
当人にとっては黒歴史らしい。
「そんで、離婚した女神を指差して『ざまぁ』と大笑いしたって聞きましたよ。リンデルさんって、結構性格悪いんですね」
「ちょっと、それは聞き捨てならないですね! 先にエルファルドが挑発してきたのですよ。彼女があのクズと結婚する際、私を指差して『プークスクス』って笑ったのですから!!」
なんかどっちもどっちだな。
それ以前に、勇者をクズ扱いって……。
「今、どっちもどっちって思いませんでした!?」
「思ってませんよう。それはそうと、ベルガの器の素材について説明してくださいよ」
面倒なので話を逸らす。
というか、脱線し過ぎだっての
「おっと、そうでしたね。素材は大分集まりましたが、あと必要なのは、暗黒真珠と桜水晶、それに竜ミスリル塊ですね。これは普通のミスリルではありませんよ」
どれも、この世界に来てから聞いた事の無い物ばかりである。
そして、とんでもなく貴重なのだろう。
「その三つがあれば、ベルガは復活できると?」
「あくまで、『器』が完成するだけです。その上でベルガデイルの意思が重要になります」
これまた面倒な展開になりそうだが、とにかく素材を集めてからだな。
「それで、三つの素材はどこにあるのですかね?」
「分かりません」
「はい?」
「だから、分かりませんと言っています」
「詰んでるじゃん」
いきなり終了とか洒落にならん。
いや、分からない時は図書館精霊のモンムに聞けばいいのだ!!
「ええと、モンム先生教えてくださいっと」
目の前に検索ウィンドウが浮かび上がる。
それを見て、リンデルさんが目を丸くした。
「それも精霊の力ですか?」
「はい。王都の無限図書館の本の内容を検索できるんですよ」
「便利ですね。妖精界にも大きな図書館がありまして、蔵書の量は世界一と自負しています」
(主、妖精界の図書館に行きたい!! 連れて行って!!)
いつになくアグレッシブなモンムの声が聞こえてくる。
「なんか、うちのモンムさんが妖精界の図書館に行きたいと言ってるのですが……」
「そうですか。では、面白い本を読ませてくれたら考えておきましょう」
(ん、分かった。無限図書館の真の館長の名に懸けて、凄い本を見繕うから)
果たしてどんな本を見せてくれるのやら。
それはそうと、検索の続きだ。
暗黒真珠は強力な魔力が封じ込められた真珠、桜水晶も同じく強力な魔力が封じ込められた水晶と検索結果が出た。これじゃ説明になってないじゃないか。
使えないなあ。言うと怒られそうなので心の中に留めておく。
残るは竜ミスリルだ。
「なになに? ミスリルを食べた竜の排泄物だって?」
そんなの何処にあるんだっての。
「そういえば、ミスリルの産地である北の鉱山都市で暴れ回っていた竜が討伐された話がありましたね。もしかしたら可能性はあるのでは?」
確かにそんな話を聞いた覚えがある!
鉱山都市から満身創痍の飛行艇が王都にやってきたが、ドラゴンと交戦したと飛空艇乗りの女性のフェルティアさんが話していた。
同じく飛空艇乗りのダークエルフのセーマルミさんと、獣人のルリさんも元気かな。
それと機関士のドワーフのロベルトさんも。
彼女達とは『守り人』達との戦いで共闘した仲だ。
そういえば、全身黒タイツのなんかがいた記憶があるけど、そんな事はどうでもいい。
可能性があるなら、北の鉱山都市へ向かう必要が出てきた。
数年後、ミンニエリさんが飲んだ美容の薬の効果が判明した。
「あのう、リョウヤさん。私、なんだか年を取らなくなった気がするのですけど。それと、妖精の羽みたいなのが生えてきたのですけど……」
そんな事を言われても、どうしろと。




