776 小手先の技などワシには通用せんのである!!
「ふんむ! こちらも遠距離攻撃なのである!! ふんむぅ!!」
ビュビュッ!!
ライガのオッサンから高速で何かが飛んでくる。
魔力障壁で防ぐよりも、咄嗟に身をかがめて走りながら攻撃をかわす。
本能で、このまま止まっているのが危険と感じたのだ。
「ふんむう!! このまま逃げられると思わないのである!!」
その間にもビュッ!!ビュビュッ!!と高速で何かが俺に向けて飛ばされる。
あの攻撃は一体なんなのだ!?
分かるのは、まともに食らえば洒落にならない威力だという事だ。
俺が避けた攻撃が大木に当たって、その部分が抉れている。
あれでは流石に観客にも被害が出るだろう。
それが分かっているのか、観客に当たるような場所では攻撃してこない。
俺も観客を盾にするような真似はしないけど。
『おおっとぉ!! あのライガが遂に飛び道具を使いだしたのかぁぁぁぁ!? 長老、あの攻撃についてどう思われますか?』
『うむぅ……あの攻撃……まさか……』
『さあ、セキこ族長はあの攻撃にどう対処するのでしょうかああ!!』
だから長老にも喋らせてやれっての。
もしかしたら、あの攻撃のヒントを説明してくれたかもしれないのに。
だけど、そう悠長にしている場合ではなかった。
「ふんむ! ふんむ! ふんむう!! どうした? 逃げ続けるだけであるのか!?」
ビュッ!!
その時、飛んできた何かが俺の足をかすめる。
直撃してないが、それだけでもかなりの痛みだ。
連続して食らったら、あっという間に動きを封じられてしまうだろう。
「ふんむう!! まだまだいくのである!!」
とにかく、あの攻撃を見極めないと。
破れかぶれで接近戦に持ち込むにしても、リスクが大き過ぎる。
「ふんむう! ふんむう!!」
ビュッ!! ビュッ!! ビュビュッ!!
攻撃は集中すれば、どうにか目で追える。
避けながら攻撃をしてくる動作をひたすら観察した。
……胸の辺りから攻撃が飛んでくるような?
『さあ、セキこ族長が先程から防戦一方です! 我らが長のライガがこのまま勝ってしまうのかぁ!? それでは面白くない!! セキこ族長も頑張れぇぇぇ!!』
応援してくれるのは嬉しいけど、完全にエンタメ扱いだよなー。
「ふんむう! ふんむう!!」
攻撃の直前に胸の辺りに手を当てている。
何かを準備しているのだろうか。
(母乳を出してるのじゃないですか?)
よんちゃん、怖い事を言うのは止めてね。
そんな事言われると、段々そういう風にしか見えなくなってきたよ。
まさかとは思うが……チクビームなのか!?
なんて恐ろしい!!
「ふんむう! ふんむう!!」
しかし、ビームにしては攻撃が単発だな。
ビームなら線状になる攻撃のはずが、点のように思える。
もしかして、弾丸みたいなの物を撃っているのか!?
だが、どうやって撃つ?
それが分からない。
「ふん……む? おっと、弾切れのようである。早く補充せねば」
本当に弾を撃ってたのかよ!?
『おおっと、どういう事でしょうか!? ライガが急にしゃがみ込んで何かを拾っているーーーーー!! これはセキこ族長にとって好機だぁぁぁぁ!!』
おっとそうだった。
実況に気づかされるとは俺も情けない。
「隙ありーーーーーーー!!」
「ふんむーーーーーーー!?」
しゃがんで何かを必死に拾い集めていたライガのオッサンの頭部に飛び蹴りを入れて吹っ飛ばした。
その拍子に彼の手から沢山の小石が飛び散る。
「ふんむぅ!? せっかく集めた弾があああ!! 許せんのである!!」
憤慨しながら、乳首に手を当てている。
そして、俺は見てしまった。
乳首に小石を埋め込み、それを高速で打ち出す瞬間を。
ビュビュッ!!
冗談だろ!?
自分の乳首で小石を打ち出してるとか、頭がおかし過ぎる!!
しかし、現実は残酷だ。
至近距離で放たれた小石が俺の両頬をかすめて傷を負わす。
本当に洒落にならない速度と威力だ。
このまま撃たせ続ける訳にはいかない。
「させるかあ!!」
「ふんむう!!」
互いに走りながら攻撃を繰り出す。
俺はひたすら魔力の斬撃による攻撃。向こうは乳首弾丸。
というか、弾はどこで補充しているんだ?
「ふんむう!! 弾なんてそこらじゅうに落ちているのである!!」
あり得ない。
走りながら小石を拾い、それを乳首にセットして撃ってくる。
それを高速で繰り返しているのだ。
『なんと驚きの攻撃なのでしょうかぁぁ!! まさか、小石を乳首に埋め込んでそれを撃ち出すなんて、誰が想像できたのでしょう!! 長老は予想していましたか?』
『むむ──』
『おおーーーーーっと!! あまりに高速の動きで、ライガが残像を生み出しているぅぅぅーーーーー!!』
長老……。
それはそうと、小石を拾うライガ、小石を乳首にセットするライガ、小石を撃ち出すライガ。まるで三人いるかのような残像である。
それを走りながらやってのけるなんて、やっぱりおかしい。
「ふんむ! ふふんむ! ふんむむ! ふんむ! ふふんむ! ふんむむ! ふんむう!」
って、感心している場合ではない。
とにかく動きを封じなければ!!
(ご主人様、私達が手を貸しますよ)
よんちゃん達の精霊樹の力を借りられるなら助かる!!
(主様のためなら、私達は頑張りますよ)
(おう! オレ達の活躍も見せつけてやろうぜ!!)
(うふふ。後で旦那様をたーっぷり可愛がらせてもらうんだからぁ)
(ちょっとお! おにいさんを可愛がるのは私の特権なんだからね!)
後半おかしいけど、とにかく助かる!!
(それでは、僭越ながら私からいきます)
いっちゃんの力が体に流れ込んでくるのが分かる。
そのまま一気にライガのおっさんの懐に飛び込み、拳を繰り出す。
「ふんむぅ!?」
俗に言う腹パンだ。豪快に決まる。
(お次はオレの番だな!!)
にこちゃんの力を取り込み、側頭部にハイキックを入れた。
「ふんむごぉ!?」
(じゃあ~次は私──)
(次は私ですね!!)
よんちゃん、さんちゃんを抜かすなんて大人げ無いよ……。
すぱああああああん!!
凄まじくキレのある平手打ちが決まる。
「ふんむぐぉぉぉぉ……」
流石のライガもこれは効いたであろう。
(じゃあ、仕上げは私ね!!)
ごっちゃんの力が流れ込み、自然と体が動く。
よろめくライガのオッサンの背後に回り込み、そのまま抱きかかえるようにしてバックドロップ。
「ふんむごおおおっっ!?」
上半身が地面に埋まるぐらいの威力だ。これは決まった。
『ああーーーーーっと!? なんという事でしょう!! あのライガが地面にめり込みました!! これは実の娘として、ミンニエリ嬢はどう思われますか? 心配ですよね?』
ついには長老スルーかよ。
いつの間にか、実況席にミンニエリさんが座ってるし。
『ええっと、あの父なら、多分ほぼノーダメージだと思います』
『おおっと、まさかの心配無し!! 流石に少しぐらいは心配して欲しいところではないでしょうかあああああ!!』
実況、盛り上がる部分がおかしくないか?
それはそうと、やはりノーダメージか。
現に地面に突き刺さっているライガのオッサンがもぞもぞ動いている。
そして、そのままスポン!と自力で抜け出してしまった。
「ふんむうう!! 小手先の技などワシには通用せんのである!! 許せんのである!!」
ダメージで怒ってる訳ではなく、俺がつまらない攻撃をしたから怒っているみたいだ。
やっぱり魔力剣を置いてきたのは痛い。オーちゃんなら、最悪引き分けに持ち込めただろう。
(旦那様? 私の事を忘れては嫌ですよ~)
さんちゃんがまだいたよ!
そう言えば、彼女の必殺技ってなんだっけ?
(みんな精霊樹の力の使い方が下手すぎ~。こうやって使うんだから~)
突然ライガのオッサンの足元から何本もの植物の蔦が生えてきた。
それがライガの手足を拘束する。
「ふんむう!? 動けないのである!!」
『おお! これは精霊樹の力なのか!? 精霊樹に認められたというのは伊達じゃないぞ!! 長老、精霊樹に認められるという事は過去にもあったのでしょうか?』
『むむ──』
『さあ、我らが長のライガ! どうなってしまうのでしょうかぁぁぁ!!』
だから喋らせてやれよ!!
(流石はさんちゃんね)
(ああ、オレ達には考えも及ばない攻撃だぜ)
(さんちゃんだけ目立ってずるいよ!!)
(ふ、ふん! 私だって本気を出せばあのくらいできるんだから!!)
君達、俺と強制的に契約を結ぼうと迫った際、あれと同じ事をやって拘束してきたよね?
(旦那様。動きを封じたので、お好きなようにしてください~)
さんちゃん、でかしたぞ!!
やはりここは弱点の乳首に攻撃を仕掛けるべきだな。
(はいはーい、私がやるね!!)
よし、よんちゃんに任せよう。
ライガのオッサンの手足を拘束している蔦の他に新たな蔦が生えてきて、それがライガのオッサンの乳首をこねくり回す。
「ふ、ふんむぅ……むふぅん……うふぅん……」
なんとも悩ましい声を上げる獅子顔のオッサン。
見ているだけで吐き気を催しそうだ。
流石の実況も仕事を忘れてゲンナリしている。
「ふんむぅ……ワシは、負け……ない……!」
あ! 乳首が引っ込んだ!!
おのれ、弱点を克服しやがって!!
(むむう! 引っ張り出してやるんだから!!)
よんちゃん、割と容赦ないよな。
「ふ、ふんむぅ……むふぅん……止めるので……ある……うふぅん」
蔦の触手で執拗にオッサンの乳首を狙う絵面が酷すぎる。
もう止めてあげて。観客の皆さんもドン引きだよ。
(じゃあ止めますね)
蔦触手の乳首攻撃が止まる。
「ふ、ふんむぅ……止めんのかい!!」
なんともお約束のツッコみである。
もうコレどうしたらいいんだろうな。観客も困っているぞ。
その観客の中で小さな子がこちら見ながら、母親らしき女性に何か尋ねている。
「ねえ、ママー。ああやって縛るのって、パパも大好きだよねー? この前、ママに縛られてパパがブヒブヒ喜んでいたよねー?」
「ちょ、ちょっと何を言ってるのかしら!? あ、あれは……そう、緊急時の止血方法よ!! サバイバル訓練は大事なの!!」
「そうだぞ! パパもママに縛られて喜んでた訳じゃないからな! それとムチで打たれて喜んでないからな!! ロウソクも非常用だからな!!」
自分で性癖を暴露してちゃ駄目だろう。
周囲の皆さんも気まずそうだぞ。
しかし、その観客の中で熱い視線を交わす者もいた。
「なあ。実は俺、緊縛に興味あるんだけどさ。今度縛らせてくれないか?」
「奇遇だな。俺もお前に縛られたいと思っていたところだ。まずは亀甲縛りで頼むぜ」
こらそこ。色々な意味で新たな世界の扉を開いてるんじゃありませんよ。
子供の教育に悪いでしょうが。
『さあ、困りました。あまりに特殊な展開のため、勝負の行方が分からなくなりました。観客の中には既に縛り始めてる者も出ております。そういうのは、お家に帰ってからお願いします』
ようやく復活した実況だが、流石にキレが無い。
もうグダグダである。
そんな時であった。
ミンニエリさんが実況席の机をバンと大きな音を立てて叩いた。
「もう我慢できません!! なんで父上はいつもこうなんですか!! これ以上私に恥をかかせないでください!!」
「ちょ、ミンニ! 待つのである!! 今のはワシは悪くないぞ!! 待って、待──ふんむぎゃああああ!!」
ゴッ! ガスッ! バキッ!! ドガッ!!
直視に耐えられない凄惨な光景である。
俺の今までの戦いって、なんだったのだろうというぐらいの凄まじい威力の拳がライガのオッサンに叩き込まれていた。
『むむぅ……あれはまさか……むむぅ……』
そして、長老はミンニエリさんを見て意味深に唸っているだけであった。
年末進行で仕事が修羅場になってきましたので、更新が遅れ気味になります。




